中国は、アメリカの覇権をこう奪う【危機管理の専門家・杉山徹宗氏に聞く(1)】
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杉山徹宗
プロフィール
(すぎやま・かつみ)1965年、慶應義塾大学卒業。ウィスコンシン大学大学院修士課程修了。カリフォルニア州立大学講師、明海大学教授を経て、現在、明海大学名誉教授。(財)ディフェンス リサーチ センター専務理事。主な著書に『なぜ中国人は怖い民族になったのか』(光人社)、『ニュー・フロンティア戦略』(幸福の科学出版)などがある。
中国は長期的に何を目指しているのか、日本はそれにどう対応すべきなのか、危機管理の専門家である杉山徹宗氏に聞いた。2015年7月号「2023年 習近平が世界を支配する」での杉山氏へのインタビューから、紙幅の関係で掲載できなかった部分を2回に分けて紹介する。今回は第1回、中国の狙いについて。
「アメリカに代わって世界の覇権を取りたい」が中国の野望
――中国は、経済や軍事において何を狙っているのでしょうか。
杉山徹宗氏(以下、杉): 1つは、中国の野望として、「アメリカから覇権を奪い取って世界を取り仕切ろう」と考えています。独裁政権だけでなく、中国の人民もそれを望んでいるふしがあります。
そう思う理由は、1つに、「環球時報」や「新華社通信」などの中国メディアが世論調査をすると、「中国が軍事力で強固な国になる」、あるいは「世界一になる」といったことを希望しているという結果になること。
もう1つは、人民解放軍の大佐で劉明福(リウ・ミンフー)という人が書いた『中国の夢』という本が、ベストセラーになっていることです。その内容は、「中国が世界のチャンピオンとなって世界を取り仕切る」というもの。
ただ、共産党政権は人民に対して、そう考えるよう教育してきました。中国は「列強諸国にこれまで酷い目にあわされてきた、これからは俺たちがナンバー1なんだぞ」という意識が、非常に強くあります。
欧州も中国からの支援を受けて人権問題で後退
――具体的には、どのようにしてアメリカの覇権を奪おうとしているのでしょうか。
杉: 2014年末に、中国は預金総額が20兆ドルを超え、世界最大のマネー大国になっています。一方、自由主義諸国であるユーロ圏の預金総額は12兆ドルで、アメリカも12兆ドル、日本は7兆ドルで、中国に敵わない。
中国政府は、このあり余る中国マネーを使って、アジアやアフリカ、中南米などの途上国の独裁政権に対して、経済援助や軍事援助をしています。
発展途上国の場合は、各国首脳が北京を訪ねて、「支援して欲しい」という“北京詣で"をやっている。そうしたことを重ねた結果、発展途上国は皆、中国に期待しているわけです。
一方、21世紀に入ってから続いている欧州債務危機に際して、中国は欧州の先進国への直接投資を進めています。2010年には8300億ドルの投資を行い、2年後の2012年には3兆6500億ドルと、4倍以上の投資を行いました。
こうした投資の結果、欧州諸国は、それまでは言っていた、「中国の民主化」や「人権問題」などの主張を後退させています。
アメリカの喉元に軍事基地を造り、「米中同盟」も?
――中国は軍事的にはどのように動いているのでしょうか。
杉: 私が注目しているのは、アメリカのパナマ運河に対抗して、中国が中米のニカラグアという国に運河を造りはじめていることです。パナマ運河は10万トンの船までしか通れませんが、ニカラグア運河は40万トンクラスも通れるようになる計画で、これが2019年に完成します。
運河が完成したら、100年間は中国が経営し、護衛するという約束がニカラグア政府との契約として、できています。
つまり、アメリカのすぐ南のカリブ海に面したニカラグアに中国の軍事基地ができ、中国人民解放軍が入ってくる可能性が出てきた。アメリカとしてはとんでもない事態です。
1962年にキューバ危機が起きましたが、あのときにはソ連の核兵器がカリブ海に運び込まれただけでアメリカが大反対して、核戦争の危機になったわけです。
ソ連は引き返しましたが、今回、中国は引き返すどころか、基地を造ってしまう。しかも、ニカラグアだけでなく、カリブ海や中南米の国に港や航空基地、空港も造るつもりでいる。そうするともう、「アメリカの裏庭」は目茶目茶になってしまいます。
だからアメリカは去年、慌てて「キューバと国交を回復しよう」と動き始めたのです。しかし、アメリカがいくらキューバと仲良くしても、ニカラグアやベネズエラのようなカリブ海諸国に中国の軍事基地を作られたら、どうしようもなくなります。
経済的にもアメリカはどんどん弱くなって、逆に中国が出てきています。米ソ冷戦時代は、アメリカは、ソ連との間で貿易はなかったわけですが、現在、中国とは貿易額が大きく、経済的にしっかり結びついています。アメリカは経済面で身動きが取れず、軍事面でも弱っている。
そうすると、最終的には、可能性は低いかもしれませんが、米中同盟や米中安保条約を結んでしまうかもしれません。そうなれば、米軍はグアムまでひくと予想されます。10年後、15年後には、そういう可能性が出てくるわけです。
しかし、日本としては、アメリカがグアムまでひいてしまったら、危険な状況になります。完全に中国に囲まれれば、属国にならざるを得ない。中国はそれを狙っているわけです。これが安全保障面の問題です。(続く)
【関連書籍】
幸福の科学出版 『ニュー・フロンティア戦略』 杉山徹宗著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=432
幸福の科学出版『未来はこうなる』 杉山徹宗ほか
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=435
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