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公開3週目にして、動員230万人、興行収入33億円を超えた映画「シン・ゴジラ」。興行収入50億円超えが確実視され、年間邦画実写1位の射程に入るなど、大ヒットを記録している。
本作が他のゴジラ映画と異なる特徴は、自衛隊をはじめ、政治家などへの徹底した取材により、政府高官らが、どのようにゴジラに対応するのかという、いわば裏の世界をリアルに描いた点だ。特に官僚が、自衛隊を出動させるための小難しい法律論を早口で話すシーンでは、現場の緊迫感が伝わってくる。
ネット上でも、「もしゴジラが襲来した場合、自衛隊はどのような法的根拠で出動できるのか」ということが、ちょっとした話題になっている。特に、この話題づくりに一役買ったのは、元防衛大臣の石破茂氏が、自身のブログで公開した次の文章だ。
「何故ゴジラの襲来に対して自衛隊に防衛出動が下令されるのか、どうにも理解が出来ませんでした。
いくらゴジラが圧倒的な破壊力を有していても、あくまで天変地異的な現象なのであって、『国または国に準ずる組織による我が国に対する急迫不正の武力攻撃』ではないのですから、害獣駆除として災害派遣で対処するのが法的には妥当なはずなのですが、『災害派遣では武器の使用も武力の行使も出来ない』というのが主な反論の論拠のようです。
『警察力をもってしては対応困難な場合』に適用される「治安出動」ではどうなのか、という論点もありそうです」(16日付)
◎自衛隊が出動できる3つのケース
石破氏の文章を理解するために、法律上、自衛隊が出動できる3つのケースを確認しておきたい。
(1) 災害派遣:天災地変などの災害時の出動。ただし、武力行使は認められない。
(2) 治安出動:警察力では対応できない事態での出動。武器使用は認められるが、正当防衛や緊急避難などの場合に限られ、無制限の武力行使を認めるものではない。都道府県知事も出動を要請できる。
(3) 防衛出動:外部からの武力攻撃、もしくはその危険が切迫している事態での出動。内閣総理大臣の命により、武力行使が認められる。
映画では、ゴジラの襲来が上記のいずれにも合致しないとされ、「超法規的な措置」として自衛隊の出動が認められた。だが、石破氏は現行法で対応できると言いたかったらしい。
◎何のための自衛隊、何のための法律か
このように、想定外の危機に見舞われた時でさえ、法律の解釈に細かな議論を要するのは、極めて"日本的な光景"と言える。
作中では、政府高官や官僚らが、国民の命をどう守るのかよりも、法律をどのように解釈するのかに時間が割かれたため、自衛隊の出動が遅れる様子が描かれた。ハリウッド映画であれば、「秒速」で米軍の派遣が認められただろう。自衛隊が、法律の制約でがんじがらめになっていることがよく分かる。
本来、法律は、国民の生命・安全・財産を守るために存在するはず。それなのに日本では、文言にとらわれ、現実が無視されてしまっている。安保法案制定や憲法9条改正の議論においても見られる光景だ。
「ゴジラ襲来」は想定外とはいえ、「中国の海」と化しつつある尖閣諸島沖での有事や、首都直下型地震にはどう対応するのか。このように想定できる事態に関しても、自衛隊の法整備は進んでない。自衛隊の運用に支障が出れば、それだけ国民の生命が危うくなるにもかかわらず、だ。映画を見ながら、そんな現実に恐怖してしまった。(山本慧)
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