http://the-liberty.com/article.php?item_id=13843 幸福の科学出版
《本記事のポイント》
・次の消費税上げが危険なのは、税額を計算しやすいから
・データと計算式を使い、増税の影響を読み間違える政府
・鈴木敏文氏は「消費は経済学ではなく『心理学』で考え」成功した
消費税を10%に引き上げる経済へのダメージに関して、興味深い実験結果が話題を呼んでいます。それは、「10%になると、税額を計算しやすくなるため、消費が大きく落ち込む」というもの。
この結果は、編集部がしばしば取材している、京都大学教授で内閣官房参与の藤井聡氏が、同大学で行った「消費者心理実験」で示されたものです(2017年11月21日号『三橋貴明の「新」経世済民新聞』)
一般的には、前回の3%の増税に比べ、次回の2%の増税の方が、ダメージが小さいように思えます。
しかし「10%」になることで、消費税額の計算が簡単になり、「心理的負担感」が、前回よりも格段に上がるというのです。
例えば、1980円の商品を買う時に、消費税が8%であれば、税額を瞬時に計算することは難しいです。そのため、少なくとも買い物カゴに入れる瞬間は、「どれだけ税金が課かっているのか」という感覚は薄いわけです。
しかし10%になれば、誰もがすぐに、「消費税は198円」という数字が頭に浮かびます。すると、「え、200円近くもするの!?」と、商品をカゴに入れる手がすくむのです。
実験では、10%になることで、1.4倍もの購買意欲を減らす効果がありました。特に女性の場合は、2.9倍もの消費を減らす効果が出たといいます。
要するに、「10という数字の区切りの良さが怖い」ということです。大胆な仮説ですが、妙に納得できるものがあります。実際にこの手の心理学は、いわゆる「198(イッキュッパ)」のように、お店が値段をつける際に活用されています。
消費税の影響を考える際には、国民の「心理的な負担感」や、「漠然とした家計への不安感」といった、非合理的な感情を踏まえる必要があります。
◎データと計算式を使い、増税の影響を読み間違える政府
ところが、実際に政策立案をしている政治家や官僚は、消費税の「心理的な影響」をあまり考慮に入れていません。
よく編集部に、「なぜ政治家や官僚は、消費税を上げても大丈夫だと思っているのか?」という質問が寄せられます。「心理的なインパクトを軽視している」ことは、まさにその答えの一つになります。
では、政治家や官僚は、どのように消費税の影響を予想するのでしょうか。その代表的なものが、データと計算式を使ったシミュレーションです。
例えば、「増税によって、使えるお金(可処分所得)が減るかを、人が正しく計算できるとする。そして、そのお金が減った分の8割程度の消費を減らす」という因果関係(所得効果)を想定するのです。この「8割」といった数値は、過去の統計データから推定します。
それに基づき、「消費税が2%増えたら、年収500万円の人は、使えるお金が年間8万円減る。
すると、その8割にあたる6.4万円分の消費を減らす」といった計算をします(実際はもっと複雑な計量モデルを用います)。これを受けて、官僚が政治家に対して「消費税の負の影響は軽微です」とプレゼンするのです。
しかし、そうした想定通りに、人は合理的には動いていません。
そんなことができれば、一生懸命に家計簿をつけたり、無駄遣いしたりして給料日の前に悲鳴をあげたりする人は、日本から消えてなくなるはずです。
さらに、「8割」という推定値も、あくまでも"過去"から導き出された数字でしかありません。社会構造や世間の雰囲気は、時期によって大きく異なります。過去の数字では、未来は分からないのです。
また、「膨大なデータの中からどのデータを使うか」によって、いくらでも都合のいい数字をつくれてしまいます。
さらに、そうした計算式では、「主婦が商品をレジに持っていったときに、思ったよりも税金が高かった時のショック感」や「税金が増えたから、漠然と家計が心配になり、買い物を減らす」といった大きな心理的な影響も考慮できないのです。
このように、政治家や官僚が「消費税の影響は軽微です」と発表しても、その根拠は、"ツッコミどころ満載な計算"であることが多いのです。
実際に、2014年の増税のマイナス効果の予測は、内閣府も日銀も、大外ししています。
◎「消費は経済学ではなく『心理学』で考える」
人間は、「計算」だけではなく、「感情・気分・衝動」で物を買っています。大川隆法・幸福の科学総裁は、そうした傾向について以下のように指摘しています。
「経済学においても、いかにも科学として、『定量分析』ができるように言うことは多いのですけれども、たいていの場合、『経済的人間、あるいは、経済学的人間というものがいるとして、こういう場合には、どう行動するか』というようなことが仮定されているのです。
ただ、これは宗教の側から見れば、『経済学そのもののなかにも、ある意味での"信仰心"がそうとう入っている』ということは言わざるをえません。(中略)人間は、経済学的でない動き方を、けっこうするのです」(『幸福の科学大学創立者の精神を学ぶ1(概論)』所収)
「今、"帳簿係"が目先の計算をし、『消費税率を一パーセント上げたら、約二兆円、税収が増える』という計算で、『取らぬ狸の皮算用』をやっているのはよく分かりますが、それは、マクロでの事業経営をやったことがない人の判断、『人間の心理がどう動くか』を知らない人の判断だと思います」(『大川隆法政治講演集2010第8巻』所収)
実際に、事業経営を成功させた代表格ともいえるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文・前会長は「消費は経済学や経営学ではなく『心理学』で考えなければならない」と、常々語っていたそうです。
やはり、景気の実感が持てず、将来への不安感も募る中、10%への消費増税に踏み切るのは、非常に危険です。(馬場光太郎)
【関連記事】
2016年12月4日付本欄 なぜそれでも消費税を上げようとするの?・前編【思考回路が分からない】
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2016年12月18日付本欄 なぜそれでも消費税を上げようとするの?・後編【思考回路が分からない】
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