蔵書目録

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歌劇 「熊野」 帝国劇場 (1912.2)

2020年04月29日 | 声楽家 三浦環、関谷敏子他
      

 明治四十五年二月   

 〔上の写真:左から2枚目〕
 ・中央上から:柴田環、淸水金太郎
 ・右 上から:服部曙光、不二正容、小島洋々、菅雪郎
 ・左 上から:石井林郎、倭良一、南部國彦、柏木敏

 厳寒の候益々御機嫌●被●入候段奉賀候陳バ当劇場事昨夏来新たに歌劇を起し又過般ハ伊太利の名手ザルコリー氏を登場せしめ候得共そは外国の歌劇を其侭演ぜしに過ぎずして未だ我国の真歌劇と謂ふべからず国粋、国情に適したる歌劇こそ肝要なれど今回ハ更に歩を進め謡曲熊野を歌劇となして上場せしめ我国プリマドンナの定評ある柴田環女史を熊野に少壮声楽家中随一の称ある清水金太郎氏を宗盛に当らしめ其他劇中の人員●は●て養成中の男女子歌劇部員並に女優等を出場参加せしめ此機会を以て上記八名の男子歌劇部員を新たに御紹介申上げ新規の試み定めて●との●批評 ●● 何れも我邦歌劇界の急先鋒たらん事を期し ●● 何卒成功の城に達す様御愛顧 ●● を給はん事を希望 ●● 敬具
 二月末日 帝國劇塲

     右田寅彦作 
 第一 旧劇『塩原高尾』三幕
     佐藤紅緑新作 
 第二 新派劇『日の出』二幕
     杉谷代水作歌
 第三 歌劇『熊野』  一幕
     沙翁原作 松居松葉訳 
 第四 喜劇『陽気な女房』二幕
     半井桃水新作 
 第五 浄瑠璃『梅松竹』三場 
 
 第三 
    六波羅宗盛館 
    淸水寺觀桜

 一平宗盛  淸水金太郎 
 一太刀持  松本銀杏 
 一從者   石井林郎
 一同   服部曙光 
 一同   柏木敏 
 一同   南部國彦 
 一同   倭良一 
 一同   不二正容 
 一同   小島洋々 
 一同   菅雪郎 
 一侍女  花園蝶子 
 一同   音羽かね子 
 一同   小原小春 
 一同   宇治龍子 
 一同   福原花子 
 一同   東日出子 
 一同   橘冨美子 
 一同   松本愛子 
 一同   木村重子 
 一同   大和田園子 
 一同   川窪津溜 
 一同   河合磯代 
 一同   中山歌子 
 一同   澤美千代 
 一同   夢野千草 
 一朝顔  上山浦路 
 一熊野  柴田環

 帝國劇場管弦樂部員       樂長 竹内平吉

 第一 ヴアイオリン 荻田十八三 
 同         小松三樹三 
 同         山崎榮次郎 
 第二 ヴアイオリン 吉田盛孝  
 同         小田越男
 ヴイオラ      栗本義精  
 同         粋川藤喜知
 ツエロ       小林武彦  
 同         内藤常吉
 バス        内藤彦太郎
 フルート      横山國太郎
 オーボエ      八尾五郎
 クラリネツト    横須賀薫三
 トロンペツト    吉田民雄
 ホルン       中村權三
 トロンボーン    荒木茂次郎
 ドラム       渡邊金治  

    杉谷代水作歌 
 第三 歌劇 熊野 ゆや 一幕

 オーケストラにて陰鬱なる前楽 プレリユード を奏する事暫時 しばらく 幕徐 しづか に上 あが る
    (上)
 合唱  「夢の間をしき春なれど、ゝ、
      憂きには堪へぬ眺めかな、」
 ゆや唱 「ふるさとの
      老木 おいぎ の柞 はゝそ 風をいたみ、
      しづ心なき物おもひ、
      都の花に引きとめられ、
      こゝろ空なら我身かな。」
        (朝顔、侍女 こしもと 登場)
 侍女・白「のうゝ池田の宿 しゆく より朝顔が参つて候 さふらふ
 ゆや、白「なに朝顔が参りしとや
 朝顔、白「そういふお聲は熊野様か
 ゆや、白「おゝ朝顔か。あら珍らしや、近うゝ、さて母人 はゝびと の御 おん いたはり何と御入あるぞ
 朝顔、白「はや、頼み少 すくな う御入候。これに御文 ふみ の候、御覧候へ。」
 ゆや、白「悲しやな、げに頼み少 すくな う御入りなり……
  (母の文)ゆや白
       『すぎし二月 きさらぎ の頃申しゝ如く、何とやらんこの春は、年ふりまさる老木の枝 えだ 、今年ばかりの青葉をだに、待ちもやせじと心弱き涙にむせぶばかりになん。さるべくはよき様に申し、しばしの御暇 いとま 賜はりて、命のうちに見えおはせ。かへすゞも見参 まゐ らせたくこそ。
 ゆや 唱「老いぬればさらぬ別れのありといへば、
      ……
 朝顔、唱「さらぬ別れのありといへば、」
  (ふみ)ゆや 朝顔 合唱
     「いよゝ見まほしき君かな、その歌をだに朝夕に、口吟 くちずさ みゝ、」
 ゆや 唱「あら悲しや何とせん、
      この上は朝顔をも連れて参り、
      今一度御暇を申して見ん。」
        (平宗盛、侍女、登場)
 宗盛 唱「いかに熊野、常にかはりしあわゝしさ何としつるぞ。」
 ゆや 唱「老母のいたはり殊の外に候とて、この朝顔が参りて候、今はかやうに候へば、御暇を賜はりて、東國 あづま へ下り候べし。」
 宗盛 唱「老母のいたはりはさる事なれども、この春ばかりの花見の友、いかでか見すて給ふべき。」
 ゆや 唱「御詞 おことば をかへせば畏れなれども、花は春あれば又咲くもの、-
 ゆや 宗盛 合唱
     「これは仇なる玉の緒の、ながき別れとなりやせん。」
 ゆや 唱「たゞ御暇 おいとま を賜はり候へ。」
 宗盛、唱「いやとよ、さ樣に心弱きこそ、母の爲めにも惡 あし からめ、せめて御身を慰めの、花見の車、幸ひ空も麗 うらゝ かなり、後ともいはずこれより直樣 すぐさま 、皆々も用意せよ。」
 ゆや、唱「情 なさけ あまりて
 侍女合唱「‥‥‥心なき
 朝貌、唱「君の仰せの
 ゆや 朝貌 侍女 唱
     「‥‥‥是非もなや。」
     (ダークチェーング)
   (下)(宗盛、熊野、朝顔、從者、侍女 こしもと 、登場)
 侍女 從者 合唱
     「名も淸き
      水のまにゝとめくれば、
      川は音羽の山櫻、
      はてなき花の九十九折、車大路や六波羅密、愛宕 おたぎ の寺も打ち過ぎぬ」
 宗盛、唱「人樂 たのし み、
 ゆや 唱「-人愁ふ。」
 宗盛、唱「げにさまゞの、
 ゆや 唱「思ひを包む花衣。
 侍女 從者 合唱
     「名も淸き、水のまにゝとめくれば、川は音羽の山櫻、
      はてなき花の九十九折り、車大路や六波羅蜜愛宕の寺も打ち過ぎぬ」
 ゆや 唱「その垂乳根 たらちね を慕 した ふなる、
      子安の塔はこれとかや。」
 宗盛、唱「はや淸水寺の境内なり、あら面白の花の盛りや、花の本の酒宴をなさん。」
 侍女 從者 合唱 
     「春前雨あって花の開くこと早く、
      花外風無うして香の來ること遲し、
      大悲擁護の八重一重、
      ふかき情 なさけ を人や知る、
      げに思ひなき眺めかな。」
 宗盛、白「いかに熊野、一 ひと さし舞ひ候へ。」
 ゆや、白「あら笑止、妾 わらは に舞へと候ぞや。」
 侍女 從者 合唱
     「物思ひ、
      立舞ふべくもあらぬ身の
      袖翻 ひるがへ す春の風。」
 ゆや、唱「見渡せば、
 侍女、從者 合唱
     「雲かあらぬか殘 のこ んの雪か、
      白妙匂ふ朝霞、
      かすみの袖も賴みなや、
      心して吹け春の風。」
 ゆや 唱「いかにせん都の春もをしけれど、
         なれし東 あづま の花やちるらん。」
 宗盛、唱「實 げ に道理 ことわり なり憐れなり、早々暇 いとま 取らするぞ。東へ下り候へ。」
 ゆや、唱「何御暇候とや、あらうれしやな尊 たふと やな。これ觀音の御利生なり。さらばこのまヽ御暇と、」
 朝貌 侍女 從者 合唱
     「ゆふつげ鳥の諸翼 もろつばさ 
      飛び立つ心東路や
      ゆかしなつかし垂乳根の」
 朝貌 ゆや 侍女 從者 合唱
     「面影うかぶ池田の里、
      故郷に急ぐ旅路かな。ゝ。       

    

 上の写真は、明治四十五年三月一日発行の 『グラヒック』 第四巻 第四号 より 

       杉谷代水作歌 歌劇『熊野』 Japanese Opera “yuya.”    
 〔左の写真〕 清水寺観櫻  右、平宗盛 左、熊野 
 〔右の写真〕 六波羅宗盛館 右、平宗盛 左、熊野


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