表紙には、「三木 ピアノ オルガン カタログ」とあり、また「昭和七年 〔一九三二年〕 八月」の日付の書き込みがある。〔下は、その一部。図版など多数省略。〕
優良国産
三木 ピアノ オルガンは……
昭和時代の要求に適合して新しく生れた革命的ピアノ、オルガンであります。
弊店楽器部開設以来五十年の実験が具体化された理想的ピアノ、オルガンであります。
より進歩せる技術とより進化せる組織のもとに出来上つた合理的ピアノ、オルガンであります。
堅牢にして優美廉価にして安全な実用的ピアノ、オルガンであります。
大阪市東区北久寶寺町四
三木楽器店
御注文に際して
Miki Organ
第壹号形 (三十九鍵 一列笛) マホガニー仕上
高サ 二尺六寸 幅 二尺三寸 奥行 九尺一寸 荷造容積 五オ 正味重量 約三貫 荷造重量 約六貫
正価 金貮拾八円 (荷造費 一円)
第二号形 (四十九鍵 一列笛) マホガニー仕上
高サ 二尺七寸五分 幅 二尺八寸五分 奥行 九尺二分 正味重量 約五貫 荷造重量 約九貫
正価 金四拾八円 (荷造費 一円五拾銭)
第五号形 (六十一鍵 一列笛) マホガニー仕上
高サ 三尺三寸三分 幅 三尺一寸八分 奥行 一尺二寸二分 正味重量 約十三貫 荷造重量 約二十一貫
正価 金八拾五円 (荷造費 五円)
第六号形 (六十一鍵 高音 中音二列笛) 二個ストップ付 マホガニー仕上
高サ 三尺四寸 幅 三尺二寸五分 奥行 一尺二寸八分 荷造容積 二十三オ 正味重量 約十四貫 荷造重量 約二十三貫
正価 金百十円 (荷造 六円)
第八号形 (六十一鍵 総二列笛) 八個ストップ ボックス ヒューマナー付 マホガニー仕上
高サ 三尺六寸五分 幅 三尺七寸 奥行 一尺六寸五分 荷造容積 三十九オ 正味重量 約二十二貫 荷造重量 約三十九貫
正価 金百六拾円 (荷造費 拾円)
第拾壹号形(六十一鍵 総四列笛) 十三個ストップ付 マホガニー仕上
高サ 三尺九寸 幅 四尺六寸六分 奥行 二尺五寸 荷造容積 六十七オ 正味重量 約三十八貫 荷造重量 約六十三貫
正価 金五百五拾円 (荷造費 拾五円)
Stool
オルガン用椅子
ピアノ用椅子
Miki Piano
竪形新壹号(普及型) 七オクターブ (八十五鍵) 象牙 斜絃式総鉄骨 外廓黒塗
高 四尺三寸五分 幅 二尺一寸 長 五尺 正量 五十五貫 荷造総量 八十八貫 荷造容積 七十二オ
正価 金四百五拾円 (荷造費 金参拾円)
竪形壹号形 七オクターブ (八十五鍵) 象牙 斜絃式総鉄骨 外廓黒塗
高 四尺三寸五分 幅 二尺一寸 長 五尺 正量 五十五貫 荷造総量 八十八貫 荷造容積 七十二オ
正価 金五百五拾円 (荷造費 金参拾円)
竪形新貮号 七オクターブ (八十五鍵) 象牙 斜絃式総鉄骨 外廓黒塗
高 四尺二寸五分 幅 二尺二寸 長 五尺○五分 重量 六十二貫 荷造重量 九十五貫 荷造容積 七十八オ
正価 金六百五拾円 (荷造費 金参拾円)
竪形貮号形 七オクターブ (八十八鍵) 象牙 斜絃式総鉄骨 外廓黒塗
高 四尺三寸五分 幅 二尺二寸 長 五尺二寸 重量 七十貫 荷造重量 百十貫 荷造容積 八十一オ
正価 金七百五拾円 (荷造費 金参拾円)
平台壹号形 七オクターブ三分ノ一 (八十八鍵) 象牙 斜絃式総鉄骨 外廓黒塗
高 三尺三寸 幅 四尺九寸 長 五尺三寸 重量 七十八貫 荷造重量 百三十貫 荷造容積 七十四オ
正価 金千参百円 (荷造費 金四拾円)
平台参号形 七オクターブ三分ノ一 (八十八鍵) 象牙 斜絃式総鉄骨 外廓黒塗 〔上の右〕
高 三尺三寸 幅 五尺 長 七尺 重量 百五貫 荷造重量 百五十五貫 荷造容積 八十三オ
正価 金千八百円 (荷造費 金五拾円)
上の写真2枚は、『昭和八年度 音楽教科図書目録』 大阪開成館 にある広告である。
ピアノを御撰定なさる前に 是非御一読を!
附『特許響鳴盤調節装置に就いて』
驚異と礼讃の標的 三木ピアノ生る
ピアノは遠く泰西に其端を発したのでありますが爾来我国に於ても完全に普及せられ今日では最早娯楽品としてのみでなく我国民情操教育上必須品として各学校に備へられるは勿論、各家庭、音楽堂等社会のあらゆる階層に普遍的に行き亘り全く実用化され日本化されました。随って最早漫然と外国製品を謳歌するの時代は過ぎましたと同時に其の製作に際しても盲目的模倣の時代は去りました、まして俄仕立の組立ピアノの類に到っては一顧の値もなくなりました。今回三木ピアノ創製に際しまして弊店は深く茲に意を用ひ年来の実際的経験を基礎とし新時代の趨向を見究め多少とも我国民性を打ち込み我気風に適ふ様万全の努力を払ひました。これ真に日本生れのピアノであり正に時代が要求する独創的国産ピアノと云って憚らないのであります。
一、何故品質優秀なるか?
浜松市に於ける新工場を総べる専任技師河合小市氏は三木ピアノの生みの母であります。彼の生涯の過半三十余年の長日月の間曾ては日本楽器製造株式会社の技師長であり日夜楽器製造の改良発明に精進し其の天稟の才と入神の技は夙に斯界の至宝としてたゝへられて居ります。近くは広く欧米先進国の実情を調査研究し其の長を採り短を捨て加ふるに現代科学の偉力を如何なく按配する等彼の技能は今や其の最高潮に達したのであります。而して楽器報国の一念に燃ゆる氏が畢生の業として全心血を傾注し遂に此の理想的実質ピアノを創造するに到ったのであります。
随ってピアノの生命とも云ふべき
音色の優美 音量の豊富 音律の正確
音調の持続力 各部の耐久力
等所謂品質上の必須条件に於て悉く百パーセントの合格率を示してゐる事は当然の帰結であります。
一、何故価格至廉成るか?
一、品質と値段の合理的均衡とは?
一、ピアノを撰定なさるには?
日本、仏蘭西 特許登録済 ピアノ響鳴盤 サウンドボード 調節装置に就いて
従来往々ピアノは数年使ふと音色が変る(鳴りが悪くなる)と云ふ批難を耳にしました。それには種々原因もある事ですがピアノの最も肝要部即ち響鳴盤の変化から起る止むない原因がその主なるものであります。
以下此の響鳴盤の構造と作用の大略を申上げて特許調節装置の要点を御説明申上げ度いと存じます。
この響鳴盤の用材は「松」です丁度ヴァイオリンの表甲板と同質で其の形式や作用も全く其れと同様であります。
即ち盤の中央部に高くふくらみを持たせ其の上に駒を取り付け其の駒によって両端をピンで張られた絃を支へて居るので絃の張力(ピアノ一台の絃の張力は約五千貫)の幾部が常に強大な力で駒を通じて響鳴盤を圧して居ります
併し絃の張力と響鳴盤の弾撥力(ふくらみ)との間には常に程よい均衡が保たれて居るのでありまして絃に與へられた振動は響鳴盤全体に平均且つ完全に響鳴拡大して音を発する仕組みになって居るのであります云はゞ板張の太鼓の様なものでピアノにとっては心臓部であります(俗にピアノの太鼓と呼ばれるのもこれが為です)随って此の響鳴盤の製作用材及工作には少なからぬ注意が払はれるのでありますが特に用材の乾燥について然りとします
用材は自然乾燥の方法で再び伸縮せぬ程度にまで乾燥した木材(少なくとも十数年)を用ひるのが理想的でありますが湿気の多い我国では実際的にも又経済的にもかゝる用材を用ひる事は至難であります随って人工的最善の方法と設備によって充分乾燥した用材を撰ぶのであります、併しながら月日の経つに随って響鳴盤が多少自然に収縮する一方、強い絃の張力で盤の弾撥力(ふくらみ)が次第に衰へ遂に絃の張力と響鳴盤の弾撥力との間の程よい均衡が保たれなくなり惹いて絃の振動を平均に伝道する働が貧弱になる結果所謂『鳴りの悪いピアノ』になるのであります約言すれば響鳴盤の弾撥力(ふくらみ)が衰退する結果「鳴りが悪くなる」のであります、是れが其の原因の根本的なものと考へられます、そこでこの衰退した響鳴盤の弾撥力(ふくらみ)を何等かの施工によって若返らしめる事が出来れば必ず新しい時と同様の音色に復活する事は自明の理であります
然るに現在一般ピアノの製作仕組では折角此の理を知りながら如何とも施工の方法がないのであります、幸ひ河合氏は永年ピアノ製作設計に従事する傍ら此の欠点を補ふ装置に就いて専念研究の末遂に他に類例のない独創的装置を発明考案するに到ったのであります、然も此の新らしい考案は独り三木ピアノにのみ装置せられるのでありまして断然他の模倣を許さないのであります
こゝに始めて「音色の変らぬ」優良国産ピアノが実現したのであります
発明以来欧米各国の特許出願中でありましたが現在までに日本政府と仏蘭西政府の特許登録済となりました(独逸には既に古くから此れと類似のものが考案せられて居るそうで未だ登録済にはなりません)ので此れを機会に発表する事にいたしました
日本政府特許第八三六四四号
仏蘭西政府特許第六九四七八〇号
三木楽器店
大阪市東区北久宝寺町四
支店 神戸市元町三丁目