無師独奏 紙腔琴
紙腔琴創製の辨
欽堂戸田先生常に文墨を弄ぶの間破窓吟風の現象より奇器妙譜の案出に意を用ひ有名なる音楽家上原六四郎氏の賛助を得且つ本邦風琴製造の鼻祖たる西川寅吉氏の妙腕に依り百方審理考究の末遂に此器を案出せられ両国橋畊江東中村楼に於て文人墨客貴顕紳士を招待し披露の宴を張て本器を吹奏す是れ本器の社会に顕出せるの嚆矢なり(明治十七年八月)旧郵便報知新聞社学士会員栗本鋤雲先生座に有て此器に紙腔琴 しこうきん の名称を附せらる蓋し未だ適切の題詞を定めざりしを以て也爾来十有三歳を重ぬる間或は此処を修良し或は彼処を改補して今や経歴の極度に達し第三第四内国勧業博覧会都度受賞の大名誉を得且全国五二品評会に於ては壹等賞を受領し良工悉く尽して実に誇張するの躊躇せざるの域に達せり即ち本器構成の概略を縷述して愛顧諸君に紹介すること此の如し
明治廿九年十一月 編者しるす
偽物御要心
近時紙腔琴の売行盛なるに乗し奸商輩紙腔琴を模造し類似の名義を附して粗製品を濫売し且弊店の名義を騙り強売行商をなす者あり乞ふ玉石混同し賜ふ勿れ
製造本舗楽器書籍店 東京市京橋区銀座三丁目二番地 十字屋
無師独奏 紙腔琴の栞
◎◎大捷軍歌の部
⦿豊島の戦 ⦿成歓の戦 ⦿平壤の戦 ⦿黄海の戦 ⦿玄武門 ⦿町田大尉 ⦿坂元少佐 ⦿旅順口の戦 ⦿雪夜の斥候 ⦿野営の月 ⦿勇敢なる水平 ⦿兵士のかがみ ⦿大寺少将 ⦿水雷艇 ⦿海城の逆撃 ⦿威海衛 ⦿樋口大尉 ⦿山縣中尉 ⦿鈴木少尉 ⦿牛荘城の戦 ⦿北白川能久親王殿下
⦿三角湧 ⦿東北男児 ⦿輜重兵
◎◎軍歌の部
⦿元寇 ⦿破邪曲 ⦿敵は幾万 ⦿よし深しとも ⦿水城 ⦿来たれやゝ ⦿加藤清正 ⦿海国 ⦿海軍 ⦿矢玉は霞 ⦿稲村が崎 ⦿旭の御旗 ⦿我海軍 ⦿朝日に匂ふ ⦿四百余洲 ⦿進撃追撃 ⦿笠置の山 一名 五忠臣 ⦿喇叭の響 ⦿富士の裾野 ⦿わづか此世 ⦿三千世万
◎◎大祭祝日唱歌之部
⦿勅語奉答 ⦿新嘗祭 ⦿元始祭 ⦿一月一日 ⦿天長節 ⦿神嘗祭 ⦿紀元節の歌 ⦿君が代
◎◎長唄の部
⦿しほくみ ⦿安宅の松 ⦿勧進帳 上巻 ⦿勧進帳 下巻 ⦿吾妻八景 ⦿老松 ⦿つるかめ ⦿舌出し三番隻 ⦿吉原雀 ⦿喜撰 ⦿娘道成寺 ⦿ひなづる ⦿宝船 ⦿外記猿 ⦿越後獅子 ⦿浅妻 ⦿高砂たんぜん ⦿宵はまち
◎◎琴歌の部
⦿六段 手事にて文句なし ⦿八千代獅子 ⦿吾妻獅子 手事にて文句なし ⦿岡崎女郎衆
◎◎清元の部
⦿神田祭 ⦿梅の春 ⦿北洲
◎◎常磐津の部
⦿将門
◎◎端唄の部
⦿松づくし ⦿春さめ ⦿金時 ⦿春にも梅 ⦿大津絵 ⦿紀伊の国 ⦿雪は巴 ⦿夕ぐれ ⦿宇治は茶所 ⦿惚れて通ふに ⦿柳ばし ⦿我が恋は ⦿忍ぶ恋路 ⦿単重の桜 ⦿十日ゑびす
◎◎琴曲地唄の部
⦿松竹梅 上巻 ⦿松竹梅 下巻 ⦿万歳 ⦿深夜の月 ⦿吾妻獅子 手事本調子 ⦿金輪 ⦿末の契り ⦿萩の露 ⦿夕空 ⦿浪花獅子 ⦿佐賀の春 ⦿越後獅子 ⦿宇治めぐり ⦿里の暁 ⦿ゆき ⦿茶の湯音頭 ⦿六段恋慕 ⦿菊のつゆ ⦿新あしかり ⦿西行桜 ⦿すりはち ⦿袖がう路 ⦿昔ばなし ⦿黒髪 ⦿御所車 ⦿小簾 こす の外 ⦿新袖の露 ⦿京の四季 ⦿やしま ⦿やしま砧地 端唄 なのは ⦿七福神 端唄 浅くとも ⦿たまがわ 端唄 竹生島 ⦿さけ ゆるし物 ⦿磯千鳥 ゆるし物 ⦿夕顔 二上り手事なし ⦿玉のうてな ゆるし物 本調子
⦿滝き尽し ⦿七小町 ゆるし物 本調子 ⦿松の壽 二上り
◎◎端唄の部
⦿霧の雨 本調子 ⦿書送る ⦿秋の夜 ⦿梅と松 ⦿流行歌琉球節 ⦿我が物 端唄 ⦿淀の川瀬 端唄 ⦿福寿草 地歌 ⦿つるの声 地歌
⦿四段砧地
◎◎流行歌の部
⦿壮士節 ⦿伊勢音頭 ⦿ゑんかいな ⦿近来節 ⦿ちやゝらかぶし ⦿トコトンヤレ ⦿御江戸日本橋 ⦿梅は咲たか ⦿今度このたび ⦿丹後の宮津 ⦿こんゝちきや ⦿御琴こと ⦿かんゝのふ ⦿梅が枝 ⦿まりうた ⦿てんてつとん ⦿来いといふたとて ⦿殿の帰り ⦿蝶々とんぼ ⦿たかい山から ⦿ちょんきな
◎◎唱歌の部
⦿栄行く御代 ⦿あまつひかけ 一名 天長節 ⦿進めゝ ⦿織なす錦 ⦿忠臣 ⦿花咲く春 ⦿富士山 ⦿操練 ⦿地久節の歌 一名 皇后宮御降誕祝歌 ⦿金剛石 ⦿岸の桜 ⦿年立つ今朝 ⦿咲け花よ ⦿笠置の山 一名五忠臣 ⦿観兵式之歌 ⦿うつくしき ⦿閨の板戸 ⦿蝶々 ⦿海ゆかば 将官及び相当官に対し敬礼を表するときに用ゆ ⦿富士筑波 ⦿遊猟 ⦿見渡せば ⦿同窓会の歌 ⦿みてらの鐘の音 ⦿天長節兒歌 ⦿思ひ出れば ⦿虎狩 ⦿あふげは尊し ⦿たまき ⦿隅田川 ⦿ほたるの光 ⦿春の弥生 ⦿霞か雲か ⦿四季の月 ⦿大和撫子 ⦿皇御国 ⦿五常の歌 ⦿此なる門 ⦿大原女 ⦿数へうた ⦿王の宮居 ⦿子守謡
◎◎琴曲地唄の部追加
◎萩の露 ◎袖の露
紙腔琴の栞おわり
紙腔琴は手軽なる尺余の函に機を設け蓋に紙片を覆ひ其機を運転するに從ひ空気の作用にて自ら音節を調へ曲度に合し坊間に流布する長歌、端唄 琴歌、清元、常磐津、唱歌、軍歌、大祭祝日唱歌、清楽、楽隊の譜、讃美歌等の諸曲は勿論何歌にても意の如く奏せしむ且機運の際手段を要せざる故三歳の童子にして堪能の音楽師と一般能く節奏の妙を得べし斯く仕用の自在なれば花の晨や月の夕雅莚に携へて佳與を添へ又閑しきつれゞの日に弄び無柳を慰め心耳を楽ましむ当今無比の名器にて諸新聞の報ずる処社会の評判頻りなる已に諸賢の知らるゝ処也殊に第三回内国勧業博覧会に於ては官中へ御買上の栄誉を得且つ第三回第四回内国勧業博覧会及び五二会全国品評会に於ては賞状を拝受し曩には 皇后陛下 皇太子殿下を初め奉り小松、伏見、北白河、閑院、久邇、各宮殿下の御用品の恩命を蒙り貴顕紳士は云ふも更ら都鄙おしなべての御愛顧に製造さへも間に合はねど尚此上の奮発に精励無類の逸品をどんゝ発売致すべければ偏にゝやんやと御愛顧御買上の程を仰ぎまつる
諸新聞紙腔琴品評 〔省略〕
広告 〔上の写真参照〕
明治二十九年十一月十日印刷
同年 廿日発行
編輯兼発行者 東京府平民 倉田繁太郎 京橋区銀座三丁目貳番地
印刷者 岩手県平民 平野善太郎 日本橋区北島町壹丁目廿三番地
発行所 十字屋音楽部 京橋区銀座三丁目貳番地