蔵書目録

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歌劇 「カバレリア、ルスチカナ」 (歌詞) 帝国劇場 (1911.12)

2024年03月21日 | 帝国劇場 総合、和、洋

   

      歌劇 
  カバレリア、ルスチカナ 
 
 歌劇 カバレリア、ルスチカナ野人の意氣歌詞
  
本歌劇は伊太利の音樂家マスカニーが初めて名を爲 な したる懸賞入選の作にして舞臺は伊太利シヽリー島の一村落、事は耶蘇復活祭 イースター の當日、敎會堂を右に見 みた るルシアといへる老婆が田舎茶屋を開き居る廣場の一部に起る。若き農夫トリードウといふもの、ローラ―といふ女 をんな 、と相愛の仲となりしが、兵役果 は てヽ故郷に歸り見れば、ローラはアルフイオといふ富める運送屋が妻となり居れり。トリードウは悶々の情を慰 なぐさ めんため、サンツッツアといふ農夫の娘と契り初 そ む。サンツッツアは心を盡して彼を愛するに至り、ローラは心安からず、再び昔の情人 じょうじん に秋波を送る。爰 こゝ に於いてサンアトツッツアの嫉妬となり、トリードウに怨言を試みるに、トリードウ今は心は全くローラに奪はれて、サンツッツアが誠ある言 ことば は耳にも入らず、折しも禮拜 らいはい の爲めに來 きた れるローラにつゞいて敎會堂に入去 いりさ る。サンツッツアは口惜 くちを しさに前後を忘れ、偶 たまた まそこに來 きた れるローラが夫アルフィオに、彼が妻とトリードウとの交情 なか をば包 つゝ まず語る。アルフィオ奮然トリードウに決闘を挑 いど む。トリードウこゝに至り、初 はじ めて自己の罪を知り、サンツッツアを母に托し敵の爲に仆 たを さる。以上を此 この 歌劇の梗槪とし、今囘上場せらるは、サンツッツアがトリードウに嫉妬心を述べ、却つて其身を棄 す てらるヽに至る、人間の感情が恐ろしきばかり高潮に達せる件 くだん を選みたるものなり。
  
     役割
  農夫トリードウ   ザルコリー
  娘サンツッツア   柴田環子
  馬車屋女房ローラ  音羽かね子
  敎會參詣者     福原花子
  同         上山浦路  
  同         川窪鶴子
  同         夢野千草
  同         河合磯代
  同         中山歌子
  同         大和田園子
  同         澤美千代  

 舞臺はシヽリー島中の一村落の十字街、下手の奥に敎會堂、上手に一軒の旅宿 はたごや と年寄つたるルシアの住居 すまゐ を見る。 
 幕開くと敎會に參詣の娘大勢出 い で來り、 
   合唱         
  美しい聲をして、鳥がマートルの木で歌ふ  
  オレーンヂの花、シトロンヤベーも照り輝く
  美しい聲をして、鳥がマートルの木で歌ふ
  あゝ樂しきは眞盛 まさか り!
  人生 いのち と愛とに活々 いき〱 と
  吾等の胸には一樣に、歡喜の歌が歌はれて  
   (打連れて敎會堂へ赴く、トリードウとサンツッツア出て來 きた り) 
 トリードウ 
  サンツッツアこゝに居 を るのか。 
 サンツッツア
  こゝであなたを待つて居りました。
 トリ
  復活祭だのに敎會へも行 ゆ かずに?
 サン 
  あなたに話があるのです。
 トリ
  おれはお母 つか さんを探して居たのだ。
 サン
  デモ私はあなたに話があるのです。
 トリ
  こゝぢやいけない。
 サン 
  一體 いつたい あなたは何處へおいでになつたの?
 トリ
  何を云ふのだい、きまッた事ぢやないか、フランクホルテに行つたのさ。
 サン
  いゝえ、噓を云ふても駄目です。
 トリ
  サンツッツア己 おれ の云ふ事を信じるがいゝではないか。
 サン
  噓を云ふものではありません、あなたが山の小路 こうぢ をまがる處 ところ を見た人もあります。そして今朝あけ方にあのローラさんの戸 と のそばに貴方 あなた が居たのを見た人がちやんとあるのです。
 トリ
  それぢやおれを疑 うたぐ つて後をつけ廻すのだな!
 サン
  いえ決して左樣 さう ではないのですが、アルフイオが私に先程さう云ひました。
 トリ
  おまへは疑惑、私は情 なさけ 、疑惑と情を取り換へねばならぬのか。
 サン 
  そんな事は戲 たはむれ にも云ふものぢやありません。
 トリ
  甘い言葉を用ひて己 おれ の不快を鎭 しづ めんとしても無效 だめ な事だ。
 サン(弗 むつ として)
  それでは貴方は那 あ の人を愛して居るのですね。
 トリ
  否 いや 。 
 サン
  夫 それ はもう、ローラさんは私より美しいのですからね。
 トリ
  そんな事を云ふなよ、私は愛しては居ないんだ。
 サン 
  愛して居るのよ〱、あッ、ほんとに憎い、アヽ性惡男 しやうわるをとこ !
 トリ
  サンツッツア!
 サン
  あの毒々しい女に、貴方はとう〱心を奪はれましたね。
 トリ
  こら、サンツッツアよ、おれはお前の樣な女の嫉妬の奴隷にはなりません。
 サン
  お打ち下さい、お罵 のゝし り下さい。‥‥でも私は貴方を愛して居ます。私の心は裂ける程苦しくとも、私は貴方をお許 ゆるし します。
      (ローラ登場)
    南部伊太利の風俗にて、一の花の名を取り、其花を題目にして、その語尾を歌詞の語尾と合はせて歌ふ慣 ならひ あり。ローラはジヤジヨロー(菖蒲 しやうぶ )の名を取り、 
 ローラ
  菖蒲の花〱、天 あま が上にはいく萬の天の使 つかひ あり、美 うる はしく愛らし、かく愛らしく、うるはしきは地の上に那 あ の方ひとり菖蒲の花よ〱。
       (ふいとトリードウを見て、)
 ローラ
  おやトリードウさん、アルフイオは此處を通りましたか。 
 トリード
  己は今此處へ來たばかりで、一向知らぬが。
 ローラ
  蹄鐵屋 かなぐつや の處に居るかも知れませんから、今にも來るかも知れません、あなたは敎會には行かないの?          
       (サンツッツアの居るのを見て、少しく嫉妬して)
  敎會に行かずに、貴方は此處の會堂前の廣場で禮拜をするのね。 
 トリ
  でも、サンツッツアが今己 おれ に話があると云ふから‥‥
 サン
  私は話をして居たのよ、今日は復活祭で神樣は何から何までお見通しなさる日だと申す事です。
 ローラ
  それでも貴方は禮拜にこないの?
 サン
  私は参りません、敎會に行く人は罪なき人ばかりです。
 ローラ
  私は神樣にお禮を云ひませう、そして此地に接吻 キツス しましやう。
        (地にキツスする事は南部伊太利の風俗にて、神に深謝するときに行 おこな はる。)
 サン
  お尤 もつとも です、ローラさん。
 トリ
  さあ行かうよ〱、此處に何も用はない。
 サン
  お待ちなさい、私は尚 ま だお話が少しあります。
 ローラ
  今日は復活祭で、神樣は何でも御覽になるとの事、其神樣のお目にお二人を任 ま かして、私は敎會に行きますよ〱。
                     (ローラ去る)
 トリ
  そら見ろ、貴樣は下らぬ事を云ふ女だ。
 サン
  そんな事を私に云はれるのは、貴君 あなた の自業自得と云ふもの。
 トリ
  ヱー、忌々 いま〱 しい。
 サン
  アヽ腹が立つ、私の胸を割 さ いて殺しなさい。
 トリ
  サア、行け。
 サン
  マアお待ちなさい。
 トリ
  行 ゆ けと云ふのに。
 サン
  トリードウさん、待つて。
 トリ
  行け。
 サン
  トリードウさん、待つて頂戴、待たないの?それぢやあなたは私を見捨てる氣?
 トリ
  何故貴樣は己 おれ が去れと云ふのに、己に尾 つ いて來るのだ?
 サン
  イヽヱ、トリードウさん。
 トリ
  何故一體貴樣は己の跡をつけるのだ!!!
 サン
  マアお待ちなさい、それでは、貴方は私を遂に捨てる積 つも りなのね?(之より男聲女聲二部合唱となり)聖 きよ き敎會 みや の門 かど に迄も、人の心を疑ひて深ぐるか、疑ふか。
 サン
  否 いヽえ 、トリードウお待ちなさい。(男聲女聲二部合唱)否 いヽえ 、トリードウ待て!
 トリ(男聲女聲二部合唱)
  疑 うたが ひて〱〱、人を探 さ ぐるか。
        (此時 このとき オーケストラにて、サンツッツアの苦悶を奏出す)
 サン
  貴方を愛するサンツッツアが涙を以て貴方に願ふに、貴方はサンツッツアを逐 お ひ去らしめなさるか。
        (此獨唱終はらざる間 うち にトリードウ歌ふ)
 トリ
  行け、また己に無駄に口をきかせるか、行けと云ふのに何故行かぬ。
 サン
  否 いヽえ 、トリードウ、今少し待つて!
 トリ
  人に罪を被 き せてから、後で後悔しても駄目な事。
 サン
  トリードウ。
 トリ
  ヱー煩 うる さい!
 サン
  トリードウ!待つて!
 トリ
  行け。
 サン
  否 いや 。
 トリ
  行け。
 サン
  トリードウ。
 トリ
  行け。  
 サン(男聲女聲二部合唱)
  アー否 いや よ、トリードウ止 とゞ まつて!   
 トリ(男聲女聲二部合唱)
  行けと云ふに分らぬか、幾度も同じ事を繰返させる、懊 うるさ い奴!
 トリ
  後悔しても駄目の事だ。
 サン
  否 いや 。
 トリ
  行け。
 サン
  否。
 トリ
  行け。
 サン
  泣いて願つても捨てるのですか、何故捨てるのです?
 トリ
  行け、懊い。
 サン
  何 ど うして貴方は私を捨てるのです?
 トリ
  行け、後悔しても駄目、行け。
 サン
  貴方を愛するサンツッツアを捨てるのですか‥‥
  何うして捨てるのですか?
 トリ
  行け。
 サン
  何うして捨てるのですか。
 サン(男聲女聲二部合唱)
  貴方はかくして私を捨 すて る氣?
  それでは眞乎 ほんと に貴方は捨てたいのですね。
 トリ
  懊い幾度云はせるのだ、下らぬ願 ねがひ は止 や めにしろ。
 サン
  トリードウ、待つて、待つて‥‥アヽそれでは愈々 いよ〱 捨てる氣だね。
 トリ
  後悔しても駄目な事。エー懊い。
 サン
  如何にあなたが怒つても、その怒 いかり は恐れはせぬ、
        (音樂急調となる)
  アヽ汝 なんぢ !偽善者のトリードウよ。
  幸 さち ある復活祭の此日、汝を呪ふ、汝を呪はんとす。
                             (幕)


  明治四十四年十二月十五日發行  定價金五錢
  
〔蔵書目録注〕
  
 下は、本書の広告で、帝国劇場の明治四十四年十二月の絵本筋書の見返しにある。

 
  
  歌劇カバレリア、ルスチカナ歌詞
            定價金五錢
カバレリア、リスチカナは伊太利の音樂家マスカニーの初めて名を爲したる榮譽の歌劇にして、今囘當劇場に於いて伊太利の聲樂家ザルコリ氏と、本邦の聲樂家柴田女史とに依りて唱和さる。歐洲の都市に演ぜらるゝ歌劇と雖も多く此上に出づるものあらざるべし。
本書は右歌劇の大體の結構を叙述して、今囘演奏の部分を盡く邦語に譯したるものなり。歌章の意味を知曉せざれば歌曲を樂む趣味葢し完きを得ざらん。開幕前に必ず御閲覽を給へ。



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