丹沢の魅力は大正の大震災で揺り落された全山ガレ肌の高山的風貌、随所に巨瀑を懸けた悪場の溪谷、また未だ開かれない原生林の秘境のあることなどであらう。山域は相、甲、駿の三国に跨り南北約二〇粁、東西約五〇粁に及んでいて棲んでいる獣類も熊、鹿、羚羊、猪、猿等で折々登山者が目撃するところである。現在、一般の丹沢登山式は尾根歩きより変化のある谷歩きに重点を置いていて、悪場の多い溪谷ほど若人が蝟集しているらしいが、山相の複雑な丹沢にあっては、一応尾根筋を踏み入る人は、谷歩きの前に少くとも表尾根、鍋割山稜及び塔ノ岳から北に続く丹沢、蛭ヶ岳の所謂主脈を縦走して丹沢の山貌、溪相を認識してからにして戴きたい。その他登山の計画には、充分に予備知識を得、季節と天候を選択し、服裝と携帯品をぬかりなく準備した上で、その山の特殊条件を良く研究して欲しい。なお資料の一つとして山と渓谷社発行の「丹沢の山と渓」の一読を推奨する。
※初めて登山する人は文獻でよく研究し、経験者のリーダーに随った方がよい。
※防寒、雨具、ランタン、磁石、地図、水筒等は必携である。
※登山の際は下車駅、宿舎には必ず予定コース、氏名等を記載して欲しい
表尾根縱走 (健脚向)
丹沢第一課と云われるコースであるが、一上一下なかゝアルバイトを強要される。長い大平山の登りが終ると漸く足が定ってくる。
三ノ塔の頂上へ出ると秦野盆地の美しい田畑の絵模様や、江ノ島・大島を浮べた相模湾が展開する。大山を後に烏尾を過ぎるとゴツゝとした岩の尾根道は急な登りを見せて行者岳へ続く。涸沢は所々に白いガレを光らせ、底知れない深さに落ちこんでいる。行者の切立った岩場を急降して再び萱戸の尾根を登ると新大日である。まもなく山毛欅の林を抜けて塔ノ岳の頂上に達する。玄倉川へ荒々しいガレ条を幾つも流した西丹沢の上に富士がそびえ、優美な箱根連山が手にとどきそうに迫ってくる。
コース
新宿 ー 急行一時間八分 ー 大秦野駅 ー バス三〇分 一 蓑毛 ー 橋を渡らず川に沿って一時間 ー ヤビツ峠 ー 右へ林道沿いに下り一五分 ー 富士見橋 ー 橋を渡って左折し五分 ー 三ノ塔登山口 ー 道標にて右に上り一時間 ー 大平山頂上 ー 痩尾根を下り上り一五分 ー 三ノ塔 ー 急峻を下り一五分 一 烏尾山 ー 尾根を二〇分 ー 行者ヶ岳 ー 急峻を上り四〇分 ー 新大日 ー 左へ濶葉樹林の尾根二〇分右へ下れば札掛へ一時間半 ー 木ノ又大日 ー 最後の急峻二〇分 ー 塔ノ岳(一、四九一米) ー 左へ尾根道一時間半 ー 一本松 ー 尾根を左にまいて下り三〇分 —大倉 ー 道標沿いに村道一時間 ー 渋沢駅 ー 急行一時間一二分 ー新宿
地図 秦野(五万分ノ一)
徒歩 二〇粁 七時間半
運賃 新宿 一 大秦野 一三〇円
渋沢 一 新宿 一四〇円
(バス)大秦野 ー 蓑毛 二〇円
秋季割引往復(バス共)
二六〇円(十一月末まで)
鍋割山稜 (一般向)
時間的には表尾根より長いがアルバイトはさほどでもない。明るさ静けさを愛する人々のコース。
大倉尾根の馬の背を越して四十八瀬川の源頭を廻り込むと、右はブナやかえでの濶葉樹林で、左は茅戸の気持ちの良い展望の開けた一起一伏の尾根径が続く。やがて西丹沢のドウガク・檜洞・臼・蛭の群峰は圧倒的な迫力を持って迫ってくる。
コース
新宿 ー 急行一時間一二分 ー 渋沢駅 ー 徒歩一時間 ー 大倉 ー 徒歩一時間 ー 一本松ー 徒歩二時間 ー 馬の背 ー 西へ四十八瀬川の源頭を廻って一五分 ー 大丸 ー ブナ林の間を抜けて尾根道を一五分 ー 小丸 ー 尾根径上り下り四〇分 ー 鍋割山 ー 逆落しの急斜面を二〇分 一 鍋割峠 ー 溪路を下り二五分 ー 雨山峠分岐 ー 山腹を捲いて下り川原を歩き一時間半 ー 稲郷 ー 川沿いに二五分 ー 宇津茂 ー なだらかな峠道を五〇分 ー 三廻部 ー 徒歩一時間 ー 渋澤駅 ー 新宿
徒歩 三二粁 一一時間 地図 秦野(五万分ノ一)
運賃 新宿 一 渋沢 一四〇円
このコースは相当時間がかかるので、前日塔ノ岳尊仏小屋又は大倉に一泊して早朝出発する方がよい。
丹澤主脈縦走 (健脚向)
丹沢山塊を南北に縦断するこのコースは塔ノ岳から丹沢山を経て主峰蛭ヶ岳に至り姫次岳から燒山へ抜ける蜿蜒三六粁、所要時間約一一時間の徒歩行程である。その変転極まりない風光と展望は丹沢独特のもので、この山系の観察には好適の縦走路である。
このルートは非常にアルバイトを強要されるので、前日に塔ノ岳の尊仏小屋に宿泊して早朝発ちしなければならない。途中避難小屋の設備も水場もわかりにくいので充分な研究と、時間の余裕を見て行動を起して欲しい。ここのは簡単ながら参考になる行程を誌してみた。
コース
新宿 ー 急行一時間一二分 ー 渋沢駅 ー 徒歩一時間 ー 大倉 ー はずれの登山口から左の山径を登る一時間半 ー 一本松ー 草山の上り二時間 ー 塔ノ岳(宿泊) ー 北へ下り樹間の尾根を三五分ひらけて ー 龍ケ馬場 一 緩い尾根道上り二〇分 ー 丹沢山 ー 左のツルベオトシを下り上って三〇分 ー 不動ヶ峰 ー 樹間の尾根を三五分 一 鬼ヶ岩峠 ー 唯一の岩場を下り蛭に取ついて二五分 ー 蛭ヶ岳 ー 熊笹の間を一気に下り四〇分 ー 原小屋沢分岐点 ー 草山を上り三〇分 ー 姫次岳 ー 八丁坂を下り四〇分 ー 黍殻 ー 担々たる尾根道を三〇分 ー 燒山 ー 一〇分ほど戻り左に下り尾根道を一時間半 ー 平戸 ー 串川に沿って村道を三〇分 ー 鳥屋 ー バス一時間 ー 橋本駅 ー 横浜線一五分 ー 原町田駅(乗換)新原町田駅 ー 急行三五分 ー 新宿
(バス鳥屋終発一六時四〇分)九月調
地図 上野原・秦野・八王子・藤沢(五万分ノ一)
徒歩 約三六粁 一一時間
運賃 新宿 一 渋沢 一四〇円
(バス) 鳥屋 ー 橋本 九〇円
橋本 ー 原町田 三〇円
新原町田 ー 新宿 七〇円
向ヶ丘
向ヶ丘遊園 稲田登戸駅下車
遊園は六萬余坪の秋草ゆたかな丘陵の上にある。北は多摩の流れを隔てて東京都に対し、南は緩い谷あいとなって、その中に色々な運動施設や娯楽設備が設けられている。この丘陵附近一帯は梨、栗、柿の産地で秋の幸を味うハイキングには良い場所である。
運賃 新宿ー稲田登戸 四〇円
入園料 大人 二〇円 小人 一〇円
豆電車 大人二〇円 小人一〇円
空中ケーブル 片道 往復
大人 三〇円 五〇円
小人 一五円 二五円
運動場 一日
第一グランド 休日 五〇〇〇円
〃 平日 三〇〇〇円
第二グランド 三〇〇〇円
第三グランド 二〇〇〇円
野球場 三時間
平日 三〇〇円
土曜 四〇〇円
休日 五〇〇円
野外劇場 一日
休日 三〇〇〇円
平日 一五〇〇円
飛行塔、メリースクーター、ベビー列車、サークリング、回転ボート、豆自動車、スリラーカー、ビックリハウス、スクーター
各一回 一〇円
ウォーターシュート 二〇円
ローラースケート 三〇分 三〇円
ピンポン 一人一時間 一五円
団体割引もある。詳細は本社開発課へ。
秋の味覺 もぎ取り即賣
小田急沿線は新鮮な果実に惠まれている。特に次の場所では安価にもぎ取りが楽しめる。
梨もぎ 稲田登戸・稲田多摩川・向ヶ丘遊園附近 九月上旬より一〇月中旬まで
柿もぎ 柿生・鶴川附近 一〇月中旬より一一月下旬まで
お問合せは小田急京橋・新宿案内所へ。
弘法の松・枡形城址 (家族向き)
弘法大師の杖に根が生えて繁茂したと伝えられる弘法の松は、周囲六米の巨松である。この丘から箱根・大山・丹沢と重畳たる相模の山脈を一望の下に収めることができる。これから一上一下の快適な丘歩きが始る。
枡形城址は畠山重忠の従弟、稲毛三郎重成の館址で、多摩川の右岸の丘上にあり、鎌倉幕府の前衞基地として重要な役割を果した。
コース
新宿 ー 電車三三分 ー 西生田駅 ー 駅前の道を線路沿いに踏切を渡って二〇分 ー 高石 ー 左折し踏切を渡って山径を二〇分 ー 弘法の松 ー 東へ丘の上の道を五〇分 ー ゴルフ場 ー ゴルフ場を右にみて舗装道路を五分程歩き再び右の山径を二〇分 ー 枡形城址 ー 左の山径を五分 一 戸隠不動 ー 右折して線路沿いに川を渡り二〇分 ー 稲田登戸駅 ー 電車二八分 ー 新宿
地図 溝ノ口(二萬五千分ノ一)
徒歩 九粁 約三時間
運賃 新宿 ー 西生田 五〇円
稲田登戸 ー 新宿 四〇円
〔蔵書目録注〕
裏表紙の向ケ丘遊園の隣の写真は、当時のロマンスカーにあった日東紅茶のスタンド。
上の表尾根にあるカラー写真は、最近撮影のもの。
(左)ニノ塔(大平山)から富士山(十二月初旬)。
(中)三ノ塔から富士山(一月初旬)
(右)塔ノ岳から富士山(十一月下旬)