夏休みは、子どもたちとって天国であるのはいつの世でも同じだ。
朝から夜まで楽しいことの連続だが、今日は紙芝居の話をしよう。
昼寝が終わった頃、の中心地である桜の木の下のちょっとした空き地に、自転車に乗った紙芝居のおじさんがやって来る。
拍子木を叩く音に引き寄せられるように、あちこちから子どもたちが集まって来る。
紙芝居そのものもテレビのない時代の子どもたちには楽しみだったが、それより楽しみなのが上演前に販売されるお菓子類だ。
定番は、もなかの皮を厚くしたような丸いお菓子の上に、短い割り箸に巻き取られた水飴が載ってるもの。
先ずお菓子をかじった後に、割り箸を二つに割って残りの水飴をくねくねと回す。
だんだん色が白くなってくる。
これを舐めながら紙芝居を観る。
題目はほとんど覚えてないが、「黄金バット」「ダッちゃん坊や」?というものがあったように思う。
それと、恐竜が登場する物語があり、ドキドキしながら観ていた記憶がある。
今思うに、あのおじさんの語り口が上手で、子どもたちを夢の世界へ誘ってくれていたのだろう。
さて、終わって帰宅したら、すぐにやることがある。
肌色をした煎餅のようなものにプリントされた型抜きである。
複雑なものほど価値が高く、運良く抜けたものを次回に持っていくと、賞品をくれるのだ。
たしか、水飴など売ってるものをくれたように思う。
ところが、割らずに上手く抜くことは容易でなく、私たちは、水に浸して柔らかくした上で、形に沿って縫い針でトントン押して型を抜いたこともある。
しかし、これが滅多に上手くいかず、ふやけ過ぎて広がったりしてしまうこともしょっちゅうだった。
紙芝居が来る日は、おちおち昼寝もできないが、寝ないと母親に叱られて行けなくなるので、狸寝入りもしばしばだった。
蝉の鳴き声の狭間をつくようなあの拍子木の音。
たった5円か10円で、素晴らしい味と夢をくれた紙芝居。
私が中学へ通う頃には、もう、紙芝居はやって来なくなった・・・。
-S.S-