[東京 28日] - ドル円は4月17日に今年の最安値108.12円をつけた後、114円台半ばを高値として上下動を繰り返してきた。その間の相場は、政治情勢、金融政策、経済指標で、ほぼ説明できる。これらの要因から考えて、今後のドル円相場はどうなりそうか。
まずは、4月以降、どのような材料でドル円相場が動いてきたのか、整理したい。
<為替相場に影響を与えた主な出来事>
4月から5月にかけては、「欧州政治リスクの後退」「トランプ政策期待」「米連邦準備理事会(FRB)のタカ派姿勢」から、ドル円が上昇した。
主な出来事(日付は日本時間)、仏大統領選第1回投票でマクロン氏1位(4月24日)、米政権が税制改革案の概要発表(27日)、米連邦公開市場委員会(FOMC)声明「米成長鈍化は一時的」(5月4日)、米下院がオバマケア代替法案を可決、米上院が9月末までの予算案可決(5日)、仏大統領選決選投票でマクロン氏勝利(8日)。
5月から6月にかけては、「トランプ陣営とロシア政府の癒着疑惑」「米経済指標の弱さ」から、ドル円が下落した。
主な出来事は、トランプ米大統領がコミー連邦捜査局(FBI)長官を解任(5月10日)、FBI長官が解任数日前にロシア疑惑捜査の態勢強化を司法省に要請(11日報道)、米大統領が機密情報をロシア外相に漏洩(16日報道)、コミー前FBI長官が米上院公聴会で証言(6月8日)、5月米消費者物価、小売売上高ともに市場予想下回る(14日)。
6月から7月にかけては、「欧州中銀(ECB)出口政策期待の急浮上」「FRBバランスシート(BS)縮小観測」「米経済指標の強さ」から、ドル円が上昇した。
主な出来事は、FRBが利上げ、年内のBS縮小開始示唆、再投資縮小計画公表(6月15日)、ECB総裁が政策調整で景気回復に対応可能と発言(27日)、米上院共和党がオバマケア代替法案先送り(28日)、6月米供給管理協会(ISM)製造業景況指数が市場予想上回る(7月3日)、6月米非農業雇用者増が市場予想上回る(7日)。
そして、7月上旬以降、「ロシア疑惑再浮上とトランプ政策運営懸念」「米経済指標の弱さ」「米利上げ期待後退」から、ドル円が下落した。
主な出来事は、トランプ氏長男が米大統領選中にロシア人弁護士と面会(7月10日報道)、6月米消費者物価、小売売上高ともに市場予想下回る(14日)、オバマケア代替法案、米上院共和党の造反4人で可決困難に(18日)、FOMC声明、早期のBS縮小開始示唆、インフレ表現弱めに(27日)。
<米政策懸念と米指標悪化がドル安に働く可能性>
上記の通り、トランプ政権に対する見方は、米長期金利とドル円を左右する。ロシア政府との癒着疑惑などから米国民の政権支持率が低下しているため、共和党内でも「トランプ離れ」が起きている。共和党の穏健派がトランプ政権や保守派の政策姿勢と距離を置くようになり、共和党議員の意見が一致しにくい状況にある。米上院共和党でオバマケア代替法案がなかなかまとまらず、法案審議は議会休会明けに再開されそうだ。
8月の議会休会中は、公聴会での証言がないために、FBI捜査の進展が明らかにならなければ、ロシア疑惑は強まりにくいだろうし、政策運営懸念も一服するかもしれない。しかし、休会明けの9月になっても歳出削減法案が成立しないようだと、減税などの税制改革法案の審議はさらに遅れることになるだろう。トランプ政権への懸念が米金利低下とドル安に働く可能性は後退しそうにない。
一方、ECBの出口政策期待は、欧州金利上昇を通じて米国金利上昇を招き、ユーロ円だけなくドル円の上昇を招く要因にもなった。ECBが9月か10月の理事会で資産買い入れ拡大の可能性を示すフォワードガイダンスを修正した場合、資産買い入れ縮小期待がさらに強まって金利上昇に作用する可能性はある。ただ、政策正常化に向けた資産買い入れ縮小が段階的で緩やかなものであり、金融引き締め(利上げ)につながるとは限らないとした場合、金利上昇は抑制されるだろう。
FRBの保有債再投資縮小は、具体的な計画が明示され、比較的早期(おそらく9月)の開始も示唆されているため、すでに米金利に織り込まれた部分が大きく、追加的に米金利を上昇させる効果は小さいだろう。むしろ、FRBの景気やインフレについての判断が下方修正されることにより、利上げ期待が後退して米金利低下とドル安が進む可能性が高まりつつある。
米国では、個人消費関連の統計が弱い。新車販売が過去6カ月のうち5カ月で減少したのは、自動車ローンの拡大と延滞率上昇に対応した金融機関の貸し出し厳格化も影響しているが、原因はそれだけではないだろう。個人の消費性向は昨年12月に92.0%まで高まった後、今年5月には91.2%まで低下しており、昨年9月の91.0%以来の低水準だ。トランプ政策期待の高まりと後退を映しているなら、消費性向は回復しにくいだろう。減税を期待して消費支出を前倒ししていた部分があれば、その反動が生じ、前倒ししなかった場合に比べて消費性向がやや低下する可能性もある。
7月は、米ミシガン大学消費者期待指数が前月比3.7ポイント低下、コンファレンスボード消費者期待指数が3.7ポイント上昇と、好対照の結果となったが、小売売上高や個人消費支出などの消費関連指標は明確な改善とはなりにくいのではないか。
最終需要の大部分を占める個人消費が弱い割に、企業関連の統計は強めだ。6月の米ISM製造業景況指数は2014年8月以来の高水準となり、米鉱工業生産も3カ月前比などの伸びが高まっている。ただし、こうした統計は個人消費の動きとほぼ一致するか、やや遅れて動くケースが多い。企業が供給したほどには需要が伸びずに在庫が積み上がり、生産活動が鈍化する可能性がある。そうなると、雇用にも影響が及ぶようになる。
ISM指数と相関の強いNY連銀製造業景況指数とフィラデルフィア連銀製造業景況指数は、いずれも6月に改善した後、7月に悪化した。ISM製造業景況指数や非農業部門雇用者増が7月に悪化(鈍化)して米金利低下とドル安に働く可能性がある。
<円高に転じてドル円下落拡大も>
ただ、ドルも弱いが、円も弱い。ドルは幅広い通貨に対して下落してきたが、円もドル以外の通貨に対して下落(クロス円が上昇)してきた。
背景には、米金利低下の一方で米株価が上昇してきたことがある。7月のFOMC声明がインフレや個人消費の判断をやや弱めたと受け取られて米長期金利低下とドル安が進む一方、長期金利低下やドル安を受けて米株価が上昇したため、リスクオンの円安圧力から多くのクロス円レートが強含んだ。ドル円はドル安によって下落したものの、円安によって下落が減殺されたのだ。
もっとも、米金融当局の姿勢変化ではなく米経済指標の悪化により長期金利が低下した場合、期待成長率が低下するために、株価は下落しやすくなる。これまで、米金利と反対方向の株価の動きがドル円の変動を減殺してきた(米金利低下・ドル安と株高・円安)が、米金利と同方向に株価が動くとドル円の変動が大きくなりやすい(米金利低下・ドル安と株安・円高)。
例えば、米国の株価指数が10%下落すると、ドル円には金利変化による影響とは別に5円程度の円高圧力がかかると推定される。今後も株高・円安がドル円下落を減殺し続けるか否かは、米経済指標の動向にかかっているだろう。
以上、ロイターコラム
トランプが叩かれることがあるとドル安、円高に振れるが、何もないとドル高、円安基調にある。
それは、黒田バズーカは打ち続けているため、もっと円安に振れて当たり前です。
日本がデフレからインフレターゲット2%が達成できれば、異次元の金融緩和は終了するのだが、デフレから中々脱出できてない。建設国債を発行して公共事業をドーンとやれるのは今なのですが・・・