はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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赤壁に龍は踊る・改 一章 その15 美周郎と鳳雛のうわさ

2024年12月31日 10時23分18秒 | 赤壁に龍は踊る・改 一章
「そういえば、美周郎は音にうるさい人物だという話だな」
と、趙雲が琴の音のする窓のほうを向いたまま言う。
「楽団が演奏をまちがえると振り返るという。よほど耳がいい人物らしい」
「耳もよければ顔もよく、軍才もあって、育ちもいい。加えて妻は絶世の美女。
こんなに恵まれた人物がいるものなのだな」
孔明が琴の音にうっとりしながら言うと、趙雲はかれにしてはめずらしく、
「人柄はどうだろうか」
と、意地悪なことを言った。
「兄によれば、ほがらかな人物らしいよ。
それはそうだろうな、すべてに恵まれていながら、不機嫌でいることのほうが難しいだろう。
鄱陽《はよう》から柴桑《さいそう》まではたいした距離ではないから、二、三日のうちにやってくるはずだ。
さて、どんな人物か楽しみだな」
「おまえは前向きだなあ。おれはすこし怖いぞ。そんなに恵まれている奴に会ったことがないからな」
「目の前にいるじゃないか」
孔明が冗談を言うと、趙雲は一瞬、目を丸くしたが、やがて苦笑した。
「そうだった、おまえがいた」
「美周郎のところにも曹操からの揺さぶりがあるだろうが、かれはおそらく、それを突っぱねるだろう。
名門の貴公子が、宦官の孫に頭を下げるいわれはないからな。
それに、美周郎にしても子敬《しけい》(魯粛)どのにしても、みな荊州《けいしゅう》の事情によく通じている。
冷静に状況を分析して、勝てると算段するにちがいない。
われらは安心して大船に乗った気分でいればよいというわけだ」


「そこだ」
趙雲が身を乗り出す。
「どこ?」
「江東の人間は、おれたちが予想している以上に荊州の事情に詳しい様子だ。
じかに荊州を見てきた魯粛ならわかるが……」
「荊州の事情にも通じている人間が、江東の家臣たちに情報を流しているのさ」
「細作《さいさく》が?」
「いいや、そうではない。美周郎のところに仕えている者が情報を流しているのだろう」
「というと?」
「龐統《ほうとう》、あざなを士元《しげん》。鳳雛《ほうすう》という号を得た男だ。
わたしの姉の嫁ぎ先の男なのだが、聞いたことはあるかい」
「そういえば、わが君が言っていたな。
臥龍と鳳雛、両方を得れれば天下をとれるかもしれないと教えられたと」
「そんな大胆なことを言うのは水鏡先生《すいきょうせんせい》(司馬徽《しばき》)だな。
まあ、しかし当たらずとも遠からずだ。わたしのことはあなたもすでによくわかっているだろう」
「よく言うよ」
「鳳雛先生もまた、大きな才能を秘めた人物だ。ただ、いささか弱点があってね」
「どんな?」
「人見知りなうえに、案外、小心なところがある。
まあ、慎重とも言い換えられるが、石橋をたたいて渡る人間だよ。
一昨年あたりから襄陽《じょうよう》を出て、美周郎のもとで働いていると人づてに聞いた」
「人づてというと……おまえとは姻戚なのだろう? 仲はどうなのだ」
孔明はふふ、と笑って答える。
「あなたらしい率直な問いだな。仲はあまりよくないというのが正直なところだ。
わたしはかれが嫌いではないのだが、しかし向こうがわたしを苦手に思っているようだ」
「へえ? 喧嘩でもしたのか」
「喧嘩も出来ないほどに避けられている」
「それはよくないな。相性が悪いのか」
「そうなんだろうね。かれは悪いやつではないから、きっかけがあれば上手くやっていけると思っているよ」
「しかし、鳳雛ともいわれる男が、美周郎のところにいるというのは、いささか厄介だな」
「なにか仕掛けてくるかな?」
「用心するに越したことはない。おれの目の届くところにいろよ、軍師」
「もちろんさ」


そんな会話をしていくうちに、夜は更けた。
激動の柴桑の一日目は、こうして終わったのである。


つづく


※ 今年もご愛顧くださったみなさま! どうもありがとうございました!
みなさまに大いなる幸あれー!
今年は私的にいろいろあり、連載が途切れることがあったので、来年は、なるべく長期の休みをしないよう気をつけたいです;
来年もがんばります! みなさまもよいお年をお過ごしください(^^♪

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