はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その28 包囲

2022年10月17日 09時49分27秒 | 英華伝 臥龍的陣 涙の章
孔明の言葉に、趙雲はすばやく反応し、眉をしかめる。
「抽象的な言い方はよしてくれ。
嫉妬と憎悪だと? だれの、だれに対する嫉妬と憎悪だというのだ? 
|麋子仲《びしちゅう》どののことか? |程子文《ていしぶん》か? それとも|花安英《かあんえい》か?」
「どれもちがう。その男は、姿こそ、はっきりとわれらの前に現していないが、わたしなどより、あなたがよく知っている人物だ。
その姿を示す痕跡は、随所にちりばめられていた。あなたも見ていたはずだよ」

そこまで言われても、趙雲には、いったいだれのことを指しているのかがわからない。
新野城の面々を劉備から、下働きにいたるまで、片っ端から思い出してみるのであるが、やはり、これほど大胆な行動を起こせそうな、斐仁ともつながりのある人間を思い出すことができなかった。

性質が大胆で、斐仁と繋がる、という共通点だけを挙げれば、陳到が浮かぶのであるが、あの家族が大好きで、子供が大好きな男が、とても『壷中』に賛同しているとは思えない。
それに、片腕が利かないという、見逃せない特徴があるのだ。

考え込む趙雲の姿に、孔明は、またも、やれやれ、というふうにため息をついた。
「子龍、わたしとしては、思い出してもらいたくないのだ。
その人物が誰であるかを知れば、あなたはきっと、新野に帰りたくないとダダをこねるだろうからね」
「知らなくても、帰るつもりなぞない。こんな病み上がりのような斐仁と、先日まで瓜売りをしていて、体がなまった老人に、おまえのお守りができようはずがないからな」

「どこまで無礼な若造かっ」
老人は嚙みつかんばかりの勢いで抗議する。
趙雲は、なんとなく、この老人を怒らせるのが面白くなってきた。
「齢も四十を過ぎると、とたんに体は衰えていく。
見たところ、貴殿は、五十は過ぎておられるようだが」

すると、老人は鼻を鳴らし、得意そうに、みごとな白髯をなぜると、胸を張った。
「それがどうした」
「ほんとうに五十すぎているのか」
からかったつもりだった趙雲は、素で絶句した。
しゃんとした足腰、鋭い眼光、光沢のある肌、たしかに、髪と髭はヤギのように真っ白であったが、よくよく見ると、老人と呼ぶにはためらわれるほど元気そうであった。

おどろく趙雲を見て、老人?はますます得意になった。
「それがしはおまえなんぞより、戦場にて、はるかに経験を積んでおる。
それに、孔明さまが少年のときから知っているのだぞ。
あの当時からまばゆい方だと思ったものだ。変わっておられぬ」
「見た目はたしかに非凡だが」
「中身もともなっておられる、無礼者め」

「子龍。とりあえず揉めている場合ではない。軍師として、今後の指示を出す。
あなたは新野に帰れ。そして、わが君にすべて報告し、信頼できる兵士たちをあつめ、襄陽へ来てくれ。
ただし、どんなときでも、決して、ひとりになるな」
「武人に対して、ずいぶんな指示だな。軍師はどうする」
「わたしは襄陽城に戻る」
「なんのために? 襄陽城にもう用事はあるまい。
従者たちを心配しているのならば、俺が襄陽城へ行き、連中を迎えに行く。
軍師こそ、先に新野へ戻り、わが君へご報告申し上げよ」
「わたしが襄陽城に戻らねば意味がないのだ。
襄陽城へ戻り、『壷中』の|主《あるじ》と話をつける」

なにを突飛な、と反論しようと趙雲が口を開くと、地面に平伏したままであった斐仁が、ぴくりと体を震わせた。
「ご一同、なにかが来ます」

その言葉に、武人らしく素早く反応し、身構える趙雲と老人であるが、孔明だけは、予想でもしていたのか、平然とつぶやいた。
「ほら、迎えが来たようだ」
見ると、すでに日の暮れかけた地平の向こうに、数十騎もの兵士たちが、こちらに向かってきていた。

「『壷中』か?」
趙雲は、孔明を守るようにしてその前に立ち、薄闇につつまれはじめた周囲を|睥睨《へいげい》する。
しかし、気づけば前方だけではなく、兵士たちは孔明たちの背後にまで配置されていた。

つづく

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