はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その27 事件のあらまし…つづく

2022年10月16日 09時35分39秒 | 英華伝 臥龍的陣 涙の章
「夜が明けると、例の片腕の利かない男があらわれました。
子供を連れていた、『壷中』の男です。
やつは、曹操の南下がはじまる。わたしが曹操に寝返ることを恐れた『壷中』が、わたしに刺客を向けたのだといいました。
その刺客が夏侯蘭である、と」

「そうか、おまえは夏侯蘭が、許都の役人であるということを知らなかったのか」
「はい。男は、わたしに、夏侯蘭のひそむ妓楼を教えてくれました。
運よくと言いましょうか夏侯蘭は|五石散《ごせきさん》を飲んで|朦朧《もうろう》としておりました。
夏侯蘭を襲撃している最中に、また趙将軍があらわれたのです。しかも、夏侯蘭と知己の様子。
わたしはすっかり気が動転し、趙将軍もまた、『壷中』であると思い込んだのです」

「さらに、帰宅すると、一族郎党がすべて殺されていた。
そなたを追って、先に屋敷に着いていた子龍を見て、そなたは誤解をさらに深めた。
『壷中』が、おのれの秘密を守るために、自分を殺そうとした、そしてその家族をも殺した、と。
そして復讐のために、そなたは一昼夜、馬を飛ばして襄陽へ向かった。
『壷中』の人間であれば殺せれば誰でもよかったのか?」
「はい、だれであれ、殺してやろうと思っておりました」

「しかし、そなたは程子文の部屋へ行き、その遺体を見つけることとなった。
だが、なぜ程子文の部屋へ?」
「案内をされたからでございます」
「だれに?」
「片腕の利かない昔なじみ…花安英の従者めに」
そうか、と答えると、孔明は薄く瞑目するような仕草をし、しばらく沈黙した。

夕闇が迫ってきている農道では、作業をおえた農民たちが、道具を片手に、家路に向かう。
かれらにとっては、奇妙な四人組が木陰で沈黙しているように見えるはずだ。
鎧姿の老人と、片手に剣を持ったままの目つきの鋭い武人、平伏する男、その目の前に立つ背の高い、やたらと目立つ風貌の青年。
農民たちは、薄気味悪そうに目線をおくってよこし、しばらく黙って道を行く。
やがて離れてしまうと、ひそひそとやりだすのであった。

「斐仁、重ねて聞きたいのであるが、おまえが新野で会った昔なじみの男というのは、いくつぐらいの男だ」
「四十半ばくらいでございます。くわしくは判りませぬが、北方の漁村の出自と聞きました」
「たしかめるが、その男、片腕が利かぬのだな」

すると、はじめて斐仁は顔をあげて、孔明を見た。
栄養状態が悪かったのと、何日も地下牢にいたために、顔色が黄色くなっている。

「左様でございます。そいつをご存知なのですか」
「わたしは直接、会ったことはないのだが。そうか、それではっきりした。ありがとう、斐仁」

孔明は、晴れやかな笑みを斐仁に向けると、くるりと趙雲のほうに向けた。
「そういうわけでこの状況だ。わたしの身は、彼らが守ってくれるから大事無い。
あなたは新野に帰り、わが君へこのことを報告してくれ」
「なにが、そういうわけ、なのだ。話を聞けば聞くほど、状況がよくないことが明らかになるだけではないか。
『壷中』の行動は支離滅裂だ。おまえの言うような、荊州を守るための、冷静な理念を持った組織とは、とうてい思えぬ」

いきり立つ趙雲であるが、孔明はまったく動じずに、涼しげにさらりと言ってのけた。
「それはそうだろう。斐仁の行動にそって物事を見てしまうと、『壷中』というのは行き当たりばったりで人を殺す、残虐な組織にしか見えない」
「ちがうのか」
「目線を変えるのだ。なぜ、斐仁が殺そうとされなければならなかったのか? 
斐仁の抱えている秘密とやらは、われらはまだ知らぬわけだが、それを知らなくても、理由はわかる。
片腕の利かぬ男を新野で目撃したからだ。
そもそも、それが発端だったのだよ」

「だが、その片腕の利かない男とやら、『壷中』の仲間であったのだろう?」
「そうだ。そいつの役割はわかるか?」
「斐仁に嘘を教えて、程子文を殺させた。いや、下手人に仕立て上げた」
「目的は?」
「『壷中』の秘密を守るため?」

「逆だよ、子龍。その男は、斐仁に『壷中』を裏切らせ、斐仁の抱えている『壷中』の秘密を、暴露させることが目的だったのだ」
「なんのために?」
「世間の目を『壷中』に向けさせ、自分たちの人攫いから目を逸らさせるためだ」
「その男が、『壷中』を裏切っていた、ということか」
「そう。われらは『壷中』が一枚岩の組織だと想定していたから、その行動に整合性を見つけられず、混乱していた。
もっとも、現状があるのも、混乱と偶然とが、はげしく入り混じった結果だと思っているがね。
そこへ加わったのが、嫉妬と憎悪だ」

つづく

※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます(*^▽^*)
ブログ村およびブログランキングに投票してくださったみなさまも、感謝です♪
徐々に謎があきらかになっていく「臥龍的陣」。
でもここで終わりではありません、まだまだ八合目付近!
これからもお付き合いいただけたなら嬉しいです(^^♪
ほかにもこのブログには、新旧取り混ぜ、いろいろありますので、楽しんでいってくださいませ。


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