はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 太陽の章 その15 ふたたび、新野

2022年12月28日 10時13分35秒 | 英華伝 臥龍的陣 太陽の章



陳到は、これは下手をすると、今晩どころか、明日も家に帰れないであろうと覚悟をきめた。
陳到が市井で捕らえた『壷中』の女は、まったく口を割ろうとしなかった。
新野の妓楼の若き元締めたる藍玉《らんぎょく》の言ったとおり、城の女のなかでも、気丈で賢い者を選んで取調べをさせている。
だが、女は頑として口を開かなかったのだ。

この女を捕えたあと、陳到は藍玉の妓楼に足を向けたが、そこには肝心の藍玉がいなかった。
妓楼のだれもかれもが口が堅く、すこしばかり脅しつけても、その居場所を言おうとしない。
長期戦になるのも面倒だったので、陳到は人に妓楼を見張らせ、自分はとりあえず屯所にもどってきた。

人攫いの『壺中』につながる女が捕らえられたというので、なかば興味本位で、武将たちがあらわれては、女の様子を見にやってくる。
張飛などは、
「なかなか美形だってのに、もったいねぇ」
と軽口を叩き、それでも女には優しい男なので、あんまり痛めつけるなよ、といって去っていった。

劉封などは、女をさっそく拷問にかけるべきだといって、あやうく陳到の制止を待たずに、拷問吏のところへ引っ立てようとさえした。
たしかに、拷問の末に、女が口を割る可能性はある。
しかし、女の、深い憎悪のまなざしを見たときに、陳到は、
『この女は、最初から死ぬつもりであるのだ』
と直感した。
殉教者のように進んで責めを受け、死んでいくことだろう。
新野を混乱させるために、敵から派遣された細作とは、どうも毛色がちがう。

どうしたものか。
陳到が困り果てているところへ、思いもかけず、孔明の指示に従い放った間諜が戻ってきた。
「早すぎるな」
陳到が言うと、間諜の男は、ひどく傷ついたような顔をしたが、すぐにその表情を引っ込めて、苦笑いを浮かべた。
「おそらく、そう仰るであろうと思っておりました。蔡夫人の件、すぐに調べが付きました」
「おお、ご苦労」
「それとほかに、お耳に入れたい事柄がございます。
じつは、陳将軍より指示がある以前に、一部の豪族たちの動きに不審な点がございまして、われらも独自に動向を見張っておったのです」
「なるほど。して、不審な点、とは?」
陳到が尋ねると、間謀の男は、周囲をちらりと気にして、暗にここでは話せない、と目で訴えてきた。

陳到は、合点すると、女の尋問の監督を部下たちにまかせて、人気のない、城壁の上へ行った。
そこからだと、新野の街が一望できる。
夜の帳にひっそりと静まりかえったなかに、ちらちらと蛍の光のようにまたたいているのは、兵士たちのもつ篝火であろう。

趙雲と孔明は、この城壁に並んで、よく話をしていた。
ここだと、邪魔が入ることも少なく、見晴らしがよい。
そのため逆に外界を意識するので、内に籠もった話に展開しないからちょうどよいのだと、孔明は言っていた。

陳到は、自分を能力的にはるかに上回る変わり者の若者二人が好きだった。
かれらが襄陽城で無事だとよいが、と思う。
襄陽城と斐仁をめぐる今回の騒動は、なにか得体の知れない気味悪さに付きまとわれている気がする。
謎が多すぎるのだ。
ひとつ解明すれば、またひとつ謎が生じる。

孔明の言いつけどおり、陳到は、嫌がる部下たちを指揮して、斐仁の管理していた東の蔵を、徹底して調べ上げた。
壁も壊せるところは壊し、官給品の流通に、不明点がないかどうかも徹底して調べた。
なにか出てくるだろうと予想していた。
そうでなければ、なぜ兵士たちが揃いも揃って、東の蔵にはなにかあると怯える理由がわからない。

陳到自身も、どうして無人の東の蔵で、誰かに見られているような、えたいの知れない悪寒を感じるのか、その理由を知りたかったし、今回の調査で、それが明らかになるだろうと期待もしていた。
なのに、なにも出てこなかった。

つづく


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本日分より、陳到たちのエピソードが入ります。
すべての謎は明らかになっていくのか? 
どうぞこれからの展開をおたのしみにー!


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