はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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臥龍的陣 涙の章 その33 気高き虜囚

2022年10月22日 10時13分10秒 | 英華伝 臥龍的陣 涙の章
『その男』、潘季鵬《はんきほう》は、おもしろそうに目を細め、孔明を見る。
「貴殿は、かつて子龍を、袁紹の義勇軍から公孫瓚《こうそんさん》のもとに導いた人物。
そして公孫瓚の滅亡後、『壷中』に加わり、いま、襄陽の人間を裏切り、独自にあたらしい『壷中』を組織している人物」
「まあ、ほとんどそのとおりといってよかろう。襄陽城の『壺中』が、貴殿を警戒する理由がよくわかる。
貴殿は聡すぎるのだ。『壷中』にいれてしまえばよかった、などと襄陽城の人間はうそぶいていたがね、それがしは、貴殿のような男が『壷中』にいたら、分裂は、もっと早くに起こったのではと思う」

「思いもかけない高い評価をありがとう。
ところで、わたしは襄陽城へ行きたいのだが、あなた方は、わたしを案内してくれるために、出向いてくれたとみてよいのかな?」
孔明の言葉に、潘季鵬は、面白そうに鼻を鳴らした。
「襄陽城に向かい、それでどうされる? それがしの反乱を報告するのかね?」
「もしそうだとしても、あなたに喋ると思うか? 
正直なところ、わたしはあなたと口を利きたくない。
叔父のことを思えば、復讐の心がもたげてくるのも事実なのだ」

「それがしは、貴殿の叔父君とは関係ない。その頃はまだ、公孫瓚のやつと袁紹を相手に戦っていたころだ」
「それでも『壷中』にはちがいない。
天下にあまたいる民の怨嗟の声をすべて聞いたつもりになって、その代表として、正義の味方を気取っている男に用はないのだ」
「辛辣だな」
「そうかな? 所詮《しょせん》おまえは士人であるから、農民のことは他人事なのだと思っているのならば間違いだ。
大局を見ずに、砂上の楼閣を築き、人の運命を翻弄しているのはあなただ。
曹操の南下を知らせる狼煙《のろし》は、明日にでも上がってもおかしくないというこの状況にあって、あなたは、人を混乱させることしかしていない」

それまで、鷹揚《おうよう》な笑みを崩さず、余裕の面持ちをみせていた潘季鵬の顔が、はじめて曇った。
「ならば、貴殿はなにをするつもりなのだ?」
「弱者であれ強者であれ関係ない。わたしは荊州人のすべてを救いたい。
強者だけしか見ていない襄陽城の『壷中』と、弱者だけしか見ていないあなたの『壷中』は邪魔だ。
道を開けてもらいにゆく」

「なんと不遜な。口ばかりならば、なんとでも唱えることができようぞ」
「黙れ。二度と言わせるな。わたしはおまえと口を利くことすら、いとわしいと思っているのだ。
おまえはわたしの友を傷つけた。
さらにまだ、わが行く手を阻むというのであれば、もう容赦はせぬぞ」
「たった一人で武器ももたぬ貴殿に、なにができると?」
「人を殺すために必要なのは、武器ばかりではなかろう。
それに、いまのおまえは、わたしに、髪の毛ひとすじほどの傷を付けることもできぬはず。
襄陽城の『壷中』は、わたしを捕えよと言ってきたはずだ。
それを始末してしまえば、おまえの反乱がばれてしまうからな」
「そこまで読み通しての言葉か。子龍は、良いともがらを持ったものだな」
「ムダ口は利かぬ。さあ、襄陽城へ参るぞ」

潘季鵬の目に、苛立ちと殺気を読み取りつつ、孔明は傲然《ごうぜん》と頭をあげて、兵士たちに囲まれるようにして、襄陽への道を向かいだした。

つづく


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おかげさまで、「臥龍的陣」の完了も間近です。
続編のほうも着手にとりかかれています。
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