はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

臥龍的陣 太陽の章 その85 子供たちとの対話 その2

2023年03月17日 09時50分44秒 | 英華伝 臥龍的陣 太陽の章
かつての趙雲もそうであった。
公孫瓚のもとにいたとき、言われつづけたのである。
ただひたすら、上長の命令を聞け、他の言葉に耳をかたむけるな、それこそがわが君に対する忠義の証しであると。
しかし趙雲は、公孫瓚の見かけよりもずっと柔弱な性質や、潘季鵬の妄執的な性格が見えた。
そして、かれらの掘った落とし穴に気づけたから、まだよかったのだ。


嘘も技術なのである。
公孫瓚時代の潘季鵬は、少年であった趙雲に見抜ける程度の『嘘』しかつけないでいた…自分ではもとより嘘などとは信じていないのだが。
だが、嘘を重ねているうちに、その技術が磨かれて、もっともらしい『真実』に聞こえるように説得できるようになってしまった。


相手が子供ならば、騙すのはたやすかろう。
これまで、どれだけ多くの子供たちが、その嘘をよすがに、死んでいったのだろう。


連日のように潘季鵬に嘲弄され、殴られているうちに、趙雲の内側は、確実に変化しはじめていた。
まだわずかにあった、潘季鵬に対する負い目は、すっかり無くなったのだ。
そのかわり、いま、胸のうちに、いまにも噴き出しそうな感情がくすぶっている。


「俺の話と、潘季鵬の話、どちらがほんとうか、おまえたち自身のあたまで、ゆっくりでいい、樊城の隠し村に着くまでに考えるのだ。
心の声に耳をすませろ。嫌だと思うことを誤魔化さず、なぜに嫌なのか、そしてなぜそう感じるのか、考えるのだ。
そして、どちらかを選べ」
「選べ、って? それでは、もしおれが潘季鵬さまの言うことを信じたら?」


張著が不安そうに言うと、他の子どもたちが抗議の眼差しを向けたようである。
しかし、趙雲は笑みをうかべ、張著のほうを見た。
「その質問が出るということは、おまえの中で、すでに答が出来上がっている、ということではないのかな」
「うん…でも、子龍さまのおはなしは、すこしむずかしいです」
「俺は口下手だからな。
あいつなら、もっと優しく判りやすいことばで、おまえたちに説明できるのだが」
「諸葛孔明という方?」


子供たちは、しょっちゅう、趙雲が孔明の名を持ち出すので、その珍しい姓名もあいまって、会ったこともないうちから、すっかりその存在に慣れていた。
「そうだ。あいつは口から生まれたようなやつだからな」
「その方が、わたしたちを助けてくれるのでしょう? 
そして、その方のところに、子龍さまは連れて行って下さるのでしょう? 
ですから、わたくしは子龍さまを信じます」


そういって、軟児は、九歳の少女らしい純真な笑みを浮かべて言った。
子供を持たぬ趙雲は、真っ直ぐな信頼を受け止めるのに照れてしまう。


「おまえは名前のとおりの子だな」
思わず言うと、軟児は首をかしげる。
「おまえの父は、おまえのことをとても慈しんでいたのであろう。おまえを名付けたであろう父君は、おまえが優しい娘になるようにと、軟児という名前をつけたのであろう」


他の子供たちは、親からもらった名の意味を聞く暇もなく攫われた者、あるいは、だまされてつれて来られた者がほとんどであったらしく、紅一点の軟児に、いいなぁ、と言う。
趙雲としては、純粋に名前の美しさを誉めたつもりであったのだが、それを聞くや、軟児は涙をぽろぽろこぼして泣き出した。
「父さんに会いたい。
文字もなにも覚えなくていい。
父さんにもう一度会いたい」


ああ、しまった。
だから俺は配慮が足りぬと己を叱りつつ、後ろでがりがりと縄を削り続ける真面目な子玲少年に、手を止めるように言って、それから涙をこぼす軟児に言った。
「泣くな。かならず、俺はおまえを父親のもとへ連れて行ってやろう。
だから、それまで泣いてはならぬ。
泣くと力が削がれるからな。笑っておれ」
「笑う?」
少女は怪訝そうに、しゃくりあげながら趙雲を見上げる。
その痛ましい声に、己をさらに責めつつ、趙雲は大きく肯いた。


つづく

※ いつも当ブログに遊びに来てくださっているみなさま、ありがとうございます♪
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださっているみなさまも、感謝です!
WBCの準々決勝の勝利の余韻にひたっているわたくし…
しかし、長丁場で選手も大変ですね。
プロは体力があるというか、鍛え方が違うのだなと感心しきりです。
わたしもがんばらねば!
というわけで(?)みなさま、今日もよい一日をお過ごしくださいねー('ω')ノ


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。