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帯とけの枕草子〔二百九十六〕ある女房の
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないままに読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百九十六〕ある女房の
或る女房が、とをたあふみのこなる人をかたらひてあるが(遠江の国守の子である人と語らっているけれど…十多合う身の子である人のをと情けを交わしているけれど)、同じ宮人(女官・女房)と、しのびてかたらふ(忍んで語らう…密かに情けを交わす)と聞いて、恨み言を言ったところ、「おやなどもかけてちかはせ給へ。いみじきそらごとなり。ゆめにだにみず(親にもかけて誓わせてくれ給え、ひどい虚言である、浮気するなど・夢にも見ない……わがおとことやらに、かけて誓わせてくれ給え、ひどい噂なのだ、他の女は・夢にも見ない)」なんて言うのには、何と言うべきでしょうかと、問うたので、
ちかへきみとをたあふみの神かけて むげにはまなのはしみざりきや
(誓え君、遠江の神・守にかけて、むやみやたら浜名の橋は見なかったか……誓え子の君、十多合う身の下身にかけて、やたら、端間と名のつく身の端、見なかったか)。
言の戯れと言の心
「おやなど…親の国守…おや…お、や…おとことやら」「や…疑問詞」「とをたあふみ…遠江(遠州)…十多逢う身…十多合う身…お盛んな合う身」「こなる人…子である男…そんな子の君をもった男」「かみ…神…守…下身」「はま…浜…言の心は女…濱…嬪…端間…おんな」「はし…橋…端…身の端」「見…見物…覯…媾…まぐあい」。
今の人々には「橋」が「端…身の端…もの」と戯れるなど信じ難いでしょう。それは、早くに、秘伝となって埋もれた古今和歌集の歌を聞き損なっているからで、この戯れを知れば、次の歌の「清げな姿」だけでなく「心におかしきところ」が聞こえるでしょう。
巻第十四 恋四 よみ人しらず
さむいしろに衣片敷き今宵もや 我をまつらむ宇治の橋姫
「衣…寝具用衣…衣の言の心は心身…心身を包んでいるので心身の換喩」「宇治…憂し…つらい」「橋姫…橋の女神…端姫…端秘め」。
巻第十九 雑体 伊勢
なにはなる長柄の橋も尽くるなり 今はわが身を何にたとへん
「なには…難波…何は…ものは…あれは」「長柄…汝柄…その本来の性質」「橋…端…身の端」「つくる…尽きる…事が終る…果てる」「身…見…媾…まぐあい」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。