帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百九十六〕ある女房の

2012-02-04 00:02:53 | 古典

  



                                帯とけの枕草子〔二百九十六〕ある女房の



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないままに読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百九十六〕ある女房の


 或る女房が、とをたあふみのこなる人をかたらひてあるが(遠江の国守の子である人と語らっているけれど…十多合う身の子である人のをと情けを交わしているけれど)、同じ宮人(女官・女房)と、しのびてかたらふ(忍んで語らう…密かに情けを交わす)と聞いて、恨み言を言ったところ、「おやなどもかけてちかはせ給へ。いみじきそらごとなり。ゆめにだにみず(親にもかけて誓わせてくれ給え、ひどい虚言である、浮気するなど・夢にも見ない……わがおとことやらに、かけて誓わせてくれ給え、ひどい噂なのだ、他の女は・夢にも見ない)」なんて言うのには、何と言うべきでしょうかと、問うたので、

 ちかへきみとをたあふみの神かけて むげにはまなのはしみざりきや

 (誓え君、遠江の神・守にかけて、むやみやたら浜名の橋は見なかったか……誓え子の君、十多合う身の下身にかけて、やたら、端間と名のつく身の端、見なかったか)。


 言の戯れと言の心

 「おやなど…親の国守…おや…お、や…おとことやら」「や…疑問詞」「とをたあふみ…遠江(遠州)…十多逢う身…十多合う身…お盛んな合う身」「こなる人…子である男…そんな子の君をもった男」「かみ…神…守…下身」「はま…浜…言の心は女…濱…嬪…端間…おんな」「はし…橋…端…身の端」「見…見物…覯…媾…まぐあい」。



 今の人々には「橋」が「端…身の端…もの」と戯れるなど信じ難いでしょう。それは、早くに、秘伝となって埋もれた古今和歌集の歌を聞き損なっているからで、この戯れを知れば、次の歌の「清げな姿」だけでなく「心におかしきところ」が聞こえるでしょう。


 巻第十四 恋四 よみ人しらず

 さむいしろに衣片敷き今宵もや 我をまつらむ宇治の橋姫

 
  「衣…寝具用衣…衣の言の心は心身…心身を包んでいるので心身の換喩」「宇治…憂し…つらい」「橋姫…橋の女神…端姫…端秘め」。


 巻第十九 雑体 伊勢

 なにはなる長柄の橋も尽くるなり 今はわが身を何にたとへん

 
 「なには…難波…何は…ものは…あれは」「長柄…汝柄…その本来の性質」「橋…端…身の端」「つくる…尽きる…事が終る…果てる」「身…見…媾…まぐあい」。 

 

 伝授 清原のおうな
 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。