帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子(拾遺三)きゝにくき物

2012-02-10 00:02:55 | 古典

  



                                 帯とけの枕草子(拾遺三)きゝにくき物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感覚で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺三)きゝにくき物


 文の清げな姿

 聞きづらいもの、声の良くない人が、もの言って笑ったり、うちとけている気配。居眠りして陀羅尼読んでいる。お歯黒つけながらもの言う声。殊にどうという事の無い人は、もの食いながらもの言うのよね。ひちりき習っている間。 


 原文

 きゝにくき物。こゑにくげなる人の物いひわらひなど、うちとけたるけはひ。ねぶりてだらによみたる。はぐろめつけて物いふこゑ。ことなることなき人は、物くひつゝもいふぞかし。ひちりきならふほど。 


 心におかしきところ

 利きにくきもの、小枝憎げな男が情けを交わし笑ったりしてうちとけている様子・聞きにくい。寝言で陀羅尼読んでいる・御利益なし。お歯黒つけて情けを交わす小枝の男。異なることのない(一義な物言い)の人は、物食いながら物言うのよねえ・聞きづらい。ひちりき倣うさわがしい火門・小枝効いていない。 


 言の戯れと言の心

 「きゝにくき…聞きにくい…利きにくい…効きにくい」「こゑ…声…小枝…小身の枝…おとこ」「こ…小…接頭語…小さい」「ものいふ…もの言う…言葉を交わす…情を交わす」「わらひなど…笑いなど…つぼみが開く…花が咲く…おとこ花咲く」「など…他にも意味のある言を示している」「ことなることなき人…殊なる事のない人…異なる言のない人(一義な物言いの人)…事成ることのない男」「ひちりきならふ…篳篥習う…ひちりき倣う…ひちりき似…やかましい…さわがしい」「ひちりき…管楽器の一種…やかましくて下手に吹くと不快な音のする楽器」「ならひ…習い…倣い…模倣…似」「ほど…間…程度…ほと…陰…火門…思火の門」「と…門…女」。


 伝授 清原のおうな 

  聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。