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帯とけの枕草子〔二百九十八〕まことにや、やがては下る
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないままに読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百九十八〕まことにや、やがてはくだる
まことにや、やがてはくだる、といひたる人に(ほんとうなの、このまま都落ちするというのはと言っている女に……ほんとうなのか、このまま山ば下る、と言う男に)、
思ひだにかゝらぬ山のさせもぐさ たれかいぶきのさとはつげしぞ
(思いもかけない気高いところのくすぶる女よ、だれが伊吹の里と告げたのよ……思いの火もかからぬ山ばの、くすぶる女よ、だれが井吹のさ門と告げたのよ)。
言の戯れと言の心
「まことにや…ほんとうでしょうか…ほんとうなのか」「やがて…このまま…すぐに」「くだる…都から下向する…宮仕えを退く…落ちぶれる…山ばから池(逝け)へと下る」「かゝらぬ…掛からない…さしかからない」「させも草…もぐさ…くすぶる草…くすぶる女」「草…言の心は女」「いぶきのさと…伊吹の里(もぐさの産地)…井吹く山ばを下った里」「井…おんな」「さと…里…女…さ門…おんな」。
「させも草」を詠んだ歌を聞きましょう。浮かれ女と呼ばれた和泉式部は、ほぼ同時代を生きた人、当然、言の戯れと言の心は共通している。
和泉式部集 拾遺 久しくとはぬ人に
けふもまたかくや伊吹のさしも草 さらばわれのみ燃えやわたらん
(今日もまたこうなのね、伊吹産のもぐさ、君来なければ、われだけ、燃えつづけるでしょう……京もまたこうなのか、井吹きのくすぶる女、君がそうなら、われの身、独りで燃え続けそうね)。
「けふ…今日…京…山ばの頂上…井吹くところ」「いぶきのさしも草…伊吹産のもぐさ、火つきがよく燻りが長持ちするなど品質が良いという…井吹く山ばのくすぶる女」「伊吹…所の名…井吹き」「井…女」「草…女」「らん…推量の意を表す…事実を婉曲に又は詠嘆的に述べる」。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。