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帯とけの新撰和歌集
紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(二十五と二十六)
春日野のとぶひののもりいでて見よ いまいくかありて若菜つみてむ
(二十五)
(春日野の飛火の野守、出て来て見よ、今より何日あれば若菜摘みできるのだろう……かすが野の、飛ぶ火の野まもりせずに見よ、今、逝くかというありさまで、若なつもう)。
言の戯れと言の心
「かすがの…春日野…所の名…春の野…微かな野」「野…山ばではないところ」「とぶひ…所の名…飛ぶ火…ほとばしる情熱の火」「のもり…野守…役の名…山ばで無いところを守るひと」「いで…出で…さあ…誘う意を表す…ではなくて…そうせずに…前の語を打ち消して次に続ける」「見…覯…まぐあい」「いくか…幾日…逝くか」「わかな…若菜…若い女…わが汝…我が親しい女」「つむ…摘む…採る…めとる…まぐあう」「てむ…することができるのだろう…可能性についての推量を表す…してしまいたい…事態の実現への意志を表す」。
うつろはむことだにをしき秋萩に をれぬばかりもおける白露
(二十六)
(移ろうことさえ惜しまれる秋萩に、折れそうになるほども、送り置かれた白露よ……涸れゆくことさえ惜しまれる飽き端木に、折れそうになるほども、残し置かれた白つゆだことよ)。
「うつろふ…移ろう…枯れる…涸れる」「あき…秋…飽き」「はぎ…萩…端木…おとこ」「をれぬ…折れてしまう…移ろうてしまう…逝ってしまう」「おける…天の送り置いた…おとこの贈り置いた…おとこの残し置いた」「しらつゆ…白露…白つゆ…おとこ白つゆ…体言止めは詠嘆の心情を表す」。
早春の春日野の景色に包まれた、若なつみしたおとこの心情。対するは、清げな秋萩の景色に包まれた、あきのはての妖艶なる女の心情。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。