帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (二十五と二十六)

2012-04-01 00:07:07 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集

 
 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(二十五と二十六)


 春日野のとぶひののもりいでて見よ いまいくかありて若菜つみてむ 

                                                    (二十五)

(春日野の飛火の野守、出て来て見よ、今より何日あれば若菜摘みできるのだろう……かすが野の、飛ぶ火の野まもりせずに見よ、今、逝くかというありさまで、若なつもう)。


 言の戯れと言の心

 「かすがの…春日野…所の名…春の野…微かな野」「野…山ばではないところ」「とぶひ…所の名…飛ぶ火…ほとばしる情熱の火」「のもり…野守…役の名…山ばで無いところを守るひと」「いで…出で…さあ…誘う意を表す…ではなくて…そうせずに…前の語を打ち消して次に続ける」「見…覯…まぐあい」「いくか…幾日…逝くか」「わかな…若菜…若い女…わが汝…我が親しい女」「つむ…摘む…採る…めとる…まぐあう」「てむ…することができるのだろう…可能性についての推量を表す…してしまいたい…事態の実現への意志を表す」。

 

 うつろはむことだにをしき秋萩に をれぬばかりもおける白露 

                                    (二十六)

 (移ろうことさえ惜しまれる秋萩に、折れそうになるほども、送り置かれた白露よ……涸れゆくことさえ惜しまれる飽き端木に、折れそうになるほども、残し置かれた白つゆだことよ)。


 「うつろふ…移ろう…枯れる…涸れる」「あき…秋…飽き」「はぎ…萩…端木…おとこ」「をれぬ…折れてしまう…移ろうてしまう…逝ってしまう」「おける…天の送り置いた…おとこの贈り置いた…おとこの残し置いた」「しらつゆ…白露…白つゆ…おとこ白つゆ…体言止めは詠嘆の心情を表す」。



 早春の春日野の景色に包まれた、若なつみしたおとこの心情。対するは、清げな秋萩の景色に包まれた、あきのはての妖艶なる女の心情。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。