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帯とけの新撰和歌集
言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿のみ。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(五十七と五十八)
いざけふは春の山辺にまじりなむ 暮れなばなげの花のかげかは
(五十七)
(さあ今日は、春の山辺にわけ入ろう、日暮れとなれば、無くなりそうな花の影ではないか……いざ、京は春の山ばの辺りで、交じろう、果てれば、なけなしのお花の陰りだろうか)。
言の戯れと言の心
「いざ…さあ…人を誘う時に発する言葉…始めようとする時に発する言葉」「けふ…今日…京…絶頂…宮こ…感の極み」「はる…季節の春…春情」「山…山ば」「まじりなむ…まじってしまうだろう…まじってしまおう」「まじり…混じり…同化…交じり」「くれ…暮れ…日の暮…暗くなるとき…ものの果て」「なげ…無げ…こと無げな…何も無さそうな」「花…木の花…男花…おとこ花」「かげ…影…陰…陰り」「かは…だろうか…疑問を表す」。
かむなびのみむろの山を秋ゆけば 錦たちきる心ちこそすれ
(五十八)
(神奈備の御室の山を、秋に行楽すれば、錦を裁ち着る心地がするなあ……おんなの靡くみもろの山ばを、飽きのために逝けば、にしきを絶ち切る心地がするよ)。
「かむなび…神奈備…所の名…名は戯れる、かみ靡、女靡く」「かみ…神…上…女」「みむろ…御室…神の社…みもろ…三諸…複数」「山…山ば…感情の山ば」「秋…季節の秋…飽き…厭き」「ゆけば…行けば…行楽すれば…逝けば」「にしき…錦…色彩豊かな織物…錦木…男木…にし気…にし木…しに気…しにおとこ」「たちきる…裁縫し着る…裁断する…絶ち切る」。
春歌の清げな姿は花見する男たちの様子。心におかしきところは、京の宮この果てでの、男のむなしきありさま。対する、秋歌の清げな姿は紅葉狩りする男の様子。心におかしきところは、あきの山ばの限りでの、むなしき男の心地。
作者や作歌事情は記さないので、愚意など考慮しなくていい。
歌の様を知り言の心を心得た大人が、歌の清げな姿と心にをかしきところを、ただ楽しむための歌集。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。