帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋(五十七と五十八)

2012-04-19 00:05:01 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿の
み。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(五十七と五十八)


 いざけふは春の山辺にまじりなむ 暮れなばなげの花のかげかは 
                                    (五十七)

 (さあ今日は、春の山辺にわけ入ろう、日暮れとなれば、無くなりそうな花の影ではないか……いざ、京は春の山ばの辺りで、交じろう、果てれば、なけなしのお花の陰りだろうか)


 言の戯れと言の心

 「いざ…さあ…人を誘う時に発する言葉…始めようとする時に発する言葉」「けふ…今日…京…絶頂…宮こ…感の極み」「はる…季節の春…春情」「山…山ば」「まじりなむ…まじってしまうだろう…まじってしまおう」「まじり…混じり…同化…交じり」「くれ…暮れ…日の暮…暗くなるとき…ものの果て」「なげ…無げ…こと無げな…何も無さそうな」「花…木の花…男花…おとこ花」「かげ…影…陰…陰り」「かは…だろうか…疑問を表す」。



 かむなびのみむろの山を秋ゆけば 錦たちきる心ちこそすれ  
                                    (五十八)

 (神奈備の御室の山を、秋に行楽すれば、錦を裁ち着る心地がするなあ……おんなの靡くみもろの山ばを、飽きのために逝けば、にしきを絶ち切る心地がするよ)


 「かむなび…神奈備…所の名…名は戯れる、かみ靡、女靡く」「かみ…神…上…女」「みむろ…御室…神の社…みもろ…三諸…複数」「山…山ば…感情の山ば」「秋…季節の秋…飽き…厭き」「ゆけば…行けば…行楽すれば…逝けば」「にしき…錦…色彩豊かな織物…錦木…男木…にし気…にし木…しに気…しにおとこ」「たちきる…裁縫し着る…裁断する…絶ち切る」。

 

 春歌の清げな姿は花見する男たちの様子。心におかしきところは、京の宮この果てでの、男のむなしきありさま。対する、秋歌の清げな姿は紅葉狩りする男の様子。心におかしきところは、あきの山ばの限りでの、むなしき男の心地。


 作者や作歌事情は記さないので、愚意など考慮しなくていい。


 歌の様を知り言の心を心得た大人が、歌の清げな姿と心にをかしきところを、ただ楽しむための歌集。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。