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帯とけの新撰和歌集
言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿のみ。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(六十一と六十二)
青柳の糸よりかくる春しもぞ みだれて花のほころびにける
(六十一)
(青柳の枝垂れ糸、撚りかける春だからこそ、乱れて花が開きはじめたことよ……若ものが、たいそう撚りかける張る下ぞ、乱れて、お花ほころんだなあ)。
言の戯れと言の心
「青柳…青い木…青年男子」「木…男」「いと…糸…程度のはなはだしい様…たいそう」「よりかくる…撚りをかける…力を発揮しょうと張りきる」「春…季節の春…情の春…ものの張る」「しもぞ…だからこそ…限定、強意を表す…下ぞ…身の下ぞ」「花…木の花…男花…おとこ花」「ほころび…花の開きはじめ…綻び…破綻…外に表われること」「ける…けり…気付き、詠嘆」。
いもが紐とくとむすぶと龍田山 いまぞもみぢの色まさりける
(六十二)
(わが妻の、紐とくとき結ぶとき、龍田山、今ぞ、紅葉のような色優ることよ……愛しい女の紐とくと、ちぎりを結ぶ門、絶った山ば、いまぞ飽きの色増さることよ)。
「むすぶ…紐を結ぶ…ちぎりを結ぶ」「と…するときに…とともに…門…女」「たつた…龍田…紅葉の名所…所の名…名は戯れる、立多、絶った」「山…感情の山ば」「もみぢ…黄葉紅葉…秋の色…飽きの色…飽き満ち足りた色情…厭きの気色」「の…のような…比喩を表す…が…主語を示す」「色…色彩…色艶…色香…色情」。
春の柳や花の様子を詠んだ「清げな姿」をしている。言の戯れに顕れた「心におかしきところ」は、心にも身にも春を迎えたわかもののありさま。対するは、秋の龍田山にたとえて我が妻の色香を詠んで「清げな姿」をしている。言の戯れに顕れた「心におかしきところ」は、飽き満ち足りたか絶えたか山ばの色情のありさま。
両歌、ほぼ同じ土俵に並べ、「各々相闘之」と漢文の序でいうのは、相乗効果によっていま一入の歌の色艶が増すからでしょう。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。