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帯とけの新撰和歌集
言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿のみ。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(五十五と五十六)
花の色はかすみにこめて見せずとも 香をだにぬすめ春の山風
(五十五)
(花の色は霞にこめて見せずとも、香りだけでも盗み取れ、春の山おろしの風……お花の色情は、彼済みのためにこもって、見せずとも、彼おだけでも、たに、窃みとれ、春情の山ばの心風)。
言の戯れと言の心
「花…木の花…梅…男花…おとこ花」「色…色彩…形あるもの…色情」「かすみ…霞…か澄み…か済み」「か…香…彼…あれ」「に…のために…原因理由を表す」「こめて…込めて…籠って」「見…目で見る…覯…まぐあい」「かを…香を…彼お…わがおとこ」「だに…だけでも…たに…田に…谷…女」「ぬすめ…盗め…窃め…他人の物を我がものとせよ」「はる…季節の春…春の情」「山風…山に吹く風…山おろしの風…山ばでの激しい心風」。
男の歌。山の木の花見物として清げな姿をしている。「心におかしきところ」は、ものの山ばの果てでの自己犠牲的むさぼりの心。
恋しくば見てもしのばむもみぢ葉を ふきな散らしそ山おろしの風
(五十六)
(恋しければ見ては偲ぼうとする紅葉を、吹き散らさないでよ、山おろしの風……乞いしければ、見て偲ぼうとする飽き色の端を、吹き散らさないでよ、山ばおろしの心風)。
「こひ…恋ひ…乞い」「見…覯…媾…まぐあい」「しのばむ…偲ばむ」「む…意志を表す」「もみぢ葉…秋の色した葉…飽き又は厭き色した端」「はを…葉を…端お…身の端…おとこ」「ふきなちらしそ…吹き散らすな…吹き果てるな」「やまおろし…山おろし…山ば下ろし」「風…心に吹く風…飽き風…厭き風」。
女の歌。紅葉見物の歌として清げな姿をしている。「心におかしきところ」は、ものの山ばでの限りなきむさぼりの心。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。