帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (四十一と四十二)

2012-04-10 00:01:02 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 紀貫之の云う「歌の様」を知らず「言の心」を心得ないで、近世以来、解き明かされてきたのは歌の清げな姿のみ。歌の「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解け、生々しい人の心が浮言綺語の戯れのような歌言葉のうちに顕れ、貫之の云う「絶艶の草」が実感できるでしょう。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(四十一と四十二)


 みよし野の山辺にさける桜花 しら雲とのみあやまたれつつ 
                                   (四十一)

(み吉野の山辺に咲いた桜花、白雲だとばかり見間違えていることよ……み好しのの山ばの辺りにさいたおとこ花、しらけた心雲、門の身、見あやまたれ、つつ)。


 言の戯れと言の心
 「みよしの…み吉野…所の名…み好しの」「やまべ…山辺…山ば付近」「さくらばな…桜花…木の花…男花…おとこ花」「しらくも…白雲…しらけた心雲…しらけた情欲」「のみ…ばかり…限定する意を表す…との身…との見」「と…と…門…女」「み…身…見…まぐあい」「あやまたれ…過たれ…誤解され」「つつ…反復や継続の意を表す…筒…空しきおとこ」。



 しら雲の中にかくれてゆく雁の 声はとほくもかくれざりけり 
                                   (四十二)

(白雲の中に隠れて飛びゆく雁の、声は遠くとも、きえないことよ……白い心雲の中で、ひっそり逝くかりひとの、声はとおくなるとも、なくなりはしないなあ)。


 「白雲…しらけた心雲…しらけた情欲」「かくれて…隠れて…ひっそりと」「ゆく…行く…逝く…はてる」「かり…雁…鳥…女…刈り…めとる…まぐあい」「とほく…遠く…大きく」「かくれざり…隠れない…なくならない…見えなくならない」「けり…伝聞回想…詠嘆、感動」。



 両歌は、清げな姿に隠して、しら雲の情態となった男と女のありさま詠んだ歌。

 
 おとなたちは、歌の「玄之又玄」のうちにある艶なる情を楽しんでいる。



 伝授 清原のおうな

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

  聞書 かき人しらず

  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。