帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋(六十七と六十八)

2012-04-25 00:04:33 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿の
み。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(六十七と六十八)


 桜色にまさる色なき春なれば あたら草木も物ならなくに 
                                    (六十七)

 (桜色に優る色彩のない春なので、残念ながら他の草木なんて、ものの数でもないなあ……お花の色に勝る色ごとのない青春なので、惜しいことに女も男も、もの慣れず成らなかったなあ)。


 言の戯れと言の心

 「桜色…薄紅がかった白…男の色香…おとこ花の色」「色…色彩…色情」「まさる…勝る…優る…増さる」「はる…春…青春…春情…張る…張りきる」「ば…原因理由を表す…ので…だから」「あたら…惜しいことに…残念ながら」「草木…桜以外の草木…女と男」「草…女」「木…男」「ものならなくに…物のうちではないなあ…ものの数ではないなあ…もの慣れていないなあ…もの成らずだなあ…和合成らずだなあ」「なくに…詠嘆を含んだ打消を表す」。



 白露の色はひとつをいかなれば 秋の木の葉をちゞに染むらむ 
                                    (六十八)

 (白露の色は白一色なのに、どうしてなのか、秋の木の葉を千々に染めるのだろう……白つゆの色は、一つなので、どうしてか、飽きのこの端を、縮み初めるのだろう)。


 「白露…白つゆ…おとこ白つゆ」「色…色彩…色情」「ひとつ…一色…一回きり」「を…のに…けれども」「秋…飽き…厭き」「このは…木の葉…この端…この身の端お…おとこ」「ちぢ…千々…数が多いこと…いろいろ…縮…縮小」「そむ…染める…初める」「らむ…だろう…推量する意を表す…どうしてだろう…原因理由を推量する意を表す」。



 春歌の清げな姿は桜花の礼讃。心におかしきところは、はるものだから若い男女がもの慣れず成らなかったさま。

 秋歌の清げな姿は黄葉紅葉の色とりどりの美しさ礼讃。心におかしきところは、一過性のおとこのもの成らぬさま。

 歌は上のような艶情が「玄之又玄」なる奥に隠れている。歌の様を知り言の心を心得る人ならば、その心におかしきところがわかるでしょう。

 

 伝授 清原のおうな

 
 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず


  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。