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帯とけの新撰和歌集
言の戯れを知らず、貫之の云う「言の心」を心得ないで、解き明かされてきたのは和歌の清げな姿のみ。公任の云う「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(六十七と六十八)
桜色にまさる色なき春なれば あたら草木も物ならなくに
(六十七)
(桜色に優る色彩のない春なので、残念ながら他の草木なんて、ものの数でもないなあ……お花の色に勝る色ごとのない青春なので、惜しいことに女も男も、もの慣れず成らなかったなあ)。
言の戯れと言の心
「桜色…薄紅がかった白…男の色香…おとこ花の色」「色…色彩…色情」「まさる…勝る…優る…増さる」「はる…春…青春…春情…張る…張りきる」「ば…原因理由を表す…ので…だから」「あたら…惜しいことに…残念ながら」「草木…桜以外の草木…女と男」「草…女」「木…男」「ものならなくに…物のうちではないなあ…ものの数ではないなあ…もの慣れていないなあ…もの成らずだなあ…和合成らずだなあ」「なくに…詠嘆を含んだ打消を表す」。
白露の色はひとつをいかなれば 秋の木の葉をちゞに染むらむ
(六十八)
(白露の色は白一色なのに、どうしてなのか、秋の木の葉を千々に染めるのだろう……白つゆの色は、一つなので、どうしてか、飽きのこの端を、縮み初めるのだろう)。
「白露…白つゆ…おとこ白つゆ」「色…色彩…色情」「ひとつ…一色…一回きり」「を…のに…けれども」「秋…飽き…厭き」「このは…木の葉…この端…この身の端お…おとこ」「ちぢ…千々…数が多いこと…いろいろ…縮…縮小」「そむ…染める…初める」「らむ…だろう…推量する意を表す…どうしてだろう…原因理由を推量する意を表す」。
春歌の清げな姿は桜花の礼讃。心におかしきところは、はるものだから若い男女がもの慣れず成らなかったさま。
秋歌の清げな姿は黄葉紅葉の色とりどりの美しさ礼讃。心におかしきところは、一過性のおとこのもの成らぬさま。
歌は上のような艶情が「玄之又玄」なる奥に隠れている。歌の様を知り言の心を心得る人ならば、その心におかしきところがわかるでしょう。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず
新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。