帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子(拾遺十四)筆は

2012-02-23 00:03:27 | 古典

  



                     帯とけの枕草子(拾遺十四)筆は

 

 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺十四)ふでは

 
 文の清げな姿

 筆は冬毛、使うも見目も良し。兎の毛。


 原文

  ふでは、ふゆげ、つかうもみめもよし、うのけ。


 心におかしきところ

 夫手は、柔らかげ、使うも見めもよし。浮の気。

 (夫手は、冷たげ、使うも見めも、それでいい、憂の気)。


 言の戯れと言の心

 「ふで…筆…夫手…彼の手」「手…身体の一部…手段…手法…技巧」「ふゆげ…鹿や兎等の秋に生え換わった冬用の毛…夏毛より細く密集していて柔らかく暖かそうに見える毛…冬げ…寒気」「ふゆ…寒い…冷たい…情がない」「け…毛…気…気配…気分…心地」「よし…良し…好し…縦し…ゆるす…不満でもやむを得ない…どうにも仕方がない」「うのけ…兎の毛…浮の気…浮気…妻は天にも浮かぶ心地…憂の気…いやな気分…わずらわしい心地」。



 女の気分を浮き浮きさせるのも、厭と感じさせるのも、夫君のお手(手の感触・手法・お手なみ)による。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子(拾遺十三)硯の箱は

2012-02-22 00:49:08 | 古典

  



                                 帯とけの枕草子(拾遺十三)硯の箱は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺十三)すゞりのはこは


 文の清げな姿

 硯の箱は、重ねの蒔絵に雲鳥の紋。


 原文

 すゞりのはこは、かさねのまきゑに雲鳥のもん。


 心におかしきところ

 す擦りの端こは重ねの真木枝に、心雲たつ、女の門。


 言の戯れと言の心

 「す…女…洲…おんな」「はこ…箱…端子…身の端」「かさね…重ねて…三重ならなお愛でたい」「まきゑ…ま木枝…真のおとこ」「枝…身の枝…おとこ」「雲鳥…雲居の鳥…心に雲立つ女」「雲…煩わしいばかりに心に湧き立つもの…情欲など」「鳥…言の心は女」「もん…紋…紋様…門…おんな」。



 雲や鳥などの「言の心」は、古代人の共有した思いである。万葉集の歌を読みましょう。

 巻第十 春相聞 寄雲

 白檀弓いま春山に去る雲の 逝や別れむ恋しきものを


 夏雑歌 詠鳥

 あひ難き君に逢へる夜ほととぎす 他の時よりは今こそ鳴かめ


 秋雑歌 詠雁

 秋風に山とへ越ゆる雁鳴は いや遠ざかる雲隠りつつ


 秋雑歌 詠鳥

 妹が手を取石の池の浪間より 鳥音異に鳴く秋過ぎぬらし


 歌は、それぞれ「清げな姿」をしている。それは字義をたどればおおよそわかる。それに憶見を加えることが解釈ではない。次のような「心におかしきところ」を感じることができれば、歌は解ける。


(……白けた真弓、いま春の山ばに去る雲のように、逝くのね、別れでしょう、恋しいものを)。


(……合い難き君に合える夜、ほと伽す、他の時よりは、今こそ泣くでしょう)。


(……飽き風に山ば辺を越え、かりする女の声は、いや遠ざかる、雲隠れつつ)。


(……愛しい女の手を、取り居し逝けの浪間より、とりの声、異に泣く、飽き過ぎたらしい)。


 このように聞くには、「雲…情欲」「鳥…女」の「言の心」の他に、「白…色の果て」「弓…おとこ」「相…逢…合…和合」「ほととぎす…鳥…女…ほと伽す」「秋…飽き満ち足り」「山…山ば」「雁…鳥…女…かりとり…めとり」「池…逝け」「浪…心波」などの、言の戯れや言の心を心得なければならない。


 このようなことは、江戸時代の大真面目な学者や歌人たちには見向きもされなかった。近代人の論理的思考によって排除される事柄でしょう。歌の解釈が国文学という名に学問と成った現代ではなおのこと、許容されない事柄である。かくして、残念ながら、「古今伝授」などに埋もれてより、数百年も「和歌」の真髄は埋もれ木となり続け、「枕草子」も清げな姿しか見えなくなった。


 少なくとも言葉という代物だけは、人の論理的な思考に適うものではないと知って、ひとたび、そのような思考を脱して、古代人の作り上げた「言の戯れと言の心」の世界に飛び込めば、伝統ある「和歌」や「枕草子」の「心におかしきところ」や、有るかも知れない「深き心」を、観じることができるでしょう。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。

 


帯とけの枕草子(拾遺十二)薄様色紙は

2012-02-21 00:09:07 | 古典

  



                     帯とけの枕草子(拾遺十二)薄様色紙は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺十二)うすやうしきしは


 文の清げな姿

 薄様の色紙は、白いの、紫、赤いの、刈安草染、青いのも良い。


 原文

 うすやうしきしは、しろき、むらさき、あかき、かりやすぞめ、あをきもよし。


 心におかしきところ

 薄様の色士は、白らじらしい、斑咲き。元気色、かりやす初め、若きも好し。


 言の戯れと言の心

 「うすやう…薄様…薄く抄いた(紙)…(情の)薄いさま」「しきし…色紙…色士…色男…色し…色おとこ」「白…白紙…白々しい」「赤き…赤色の…元気色の」「かりやすそめ…茅の一種の草を染料とする染め…かりやす初め」「かり…ひきぬく…つみとる…めとり…まぐあい」「や…感嘆・疑問詞」「す…洲…巣…女」「染…初…初めて」「青…若い色」「も…さらにもう一つ添える意を表す…意味を強める」。



 この章は、男の品定め。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子(拾遺十一)綾の紋は

2012-02-20 00:04:43 | 古典

  



                      帯とけの枕草子(拾遺十一)綾の紋は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺十一)あやのもんは


 文の清げな姿

 綾の紋は、葵、かたばみ、あられ地(小紋地)。


 原文

  あやのもんは、あふひ。かたばみ。あられぢ。


 心におかしきところ

 妖の門は、合う日、片ばみ、あられち。

 
 言の戯れと言の心

 「あや…綾…綾織物…彩り綺麗な文様…怪…妖…あやしい」「もん…紋…紋様…門…身の門…おんな」「あふひ…葵…逢う日…合う日…合う日に限って」「かたばみ…草花の名…片ばみ…不都合な状態になり」「片…不都合」「ばみ…ばむ…接尾語…の状態になる」「あられぢ…小紋地…荒られ路…あられ血」「あら…感嘆詞・詠嘆詞…新たな…荒ら」「ぢ…地…路…女…ち…血」。



 言の戯れと言の心を心得たおとなの女には、清げな言葉に包んで何を言っているのかわかるでしょう。

 「もん」が「門…おんな」と聞こえる人には、奥の暗いところの裏の意味が見える。

 枕草子の文は、和歌の言葉や表現形式と同じ。
和歌には、紀貫之が新撰和歌集序でいう「花実相兼」や「玄之又玄」なる意味がある。暗い奥にあるものとは何か。和歌を一首聞きましょう。

 古今和歌集 巻第十七 雑歌上 題しらず よみ人しらず

 わがうへにつゆぞをくなるあまの河 とわたる舟のかいのしづくか


 「わが頭上に露ぞおくなる天の河 水門わたる彦星の乗る舟の櫂のしづくか」と聞けば、七夕の夜、彦星が年に一度織姫星に逢える喜びを思い、空を見上げていて、秋の夜露にぬれた情景。これは歌の花で「清げな姿」。


 「玄之又玄」なる「心におかしきところ」は、「わたしの飢へに、白つゆ贈り置く成る女の川、門わたる夫根のかいのしずくか」。絶妙の艶がある歌となる。


 「うへ…上…飢え…渇き」「つゆ…露…おとこ白つゆ」「あま…天…女」「川…女」「と…水門…門…女」「舟…ふ根…おとこ」「かい…櫂…掻きわけおし進む具」。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。


帯とけの枕草子(拾遺十)織物は

2012-02-18 01:15:58 | 古典

  



                                 帯とけの枕草子(拾遺十)織物は



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺十)をりものは


 文の清げな姿

 織物は、紫。白い。紅梅も良いけれど、見飽きすることこの上なし。


 原文

 をり物は、むらさき、しろき。こうばいもよけれど、みざめこよなし。


 心におかしきところ

 折り逝ったものは、斑咲き、白々しい。好配(見目の好いつれあい)もよいけれど、見て興の覚めることこの上なし。


 言の戯れと言の心
 「をりもの…織物…折り物…逝くもの…おとこ」「むらさき…紫…斑咲き」「しろい…白い…色の果て…白々しい」「こうばい…紅梅…染め色の名…紅配…綺麗なつれあい…好配…好きつれあい」「ばい…梅…男木…はい…配…配偶者」「みざめ…見ていて興がさめる…見慣れて情熱が冷める」「見…目で見ること…覯…まぐあい」「こよなし…甚だしさこの上もない」。


 
おとなの女たちのための、絹織物の選び方。男の品定め方、簾越しに見える顔だけで選ぶな、彼お見て選べ。


 伝授 清原のおうな
 
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。