情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、波束の収縮問題、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

物理学がハードプロブレム「クオリアの謎」を解けない理由

2019-05-07 10:19:38 | 情報と物質の科学哲学

脳科学におけるハードプロブレムの一つに
「脳という物質から何故感覚(クオリア)が生じるのか
というものがあります。

ある波長の光を見たときに
(1)ヒトの特定のニューロンが発火して
同時に
(2)そのヒトは”赤い”という感覚(クオリア)を感じるとします。

他の波長の光を見たときには
(1)その特定のニューロンは発火せず
(2)”赤い”という感覚も感じないとします。

このとき、次の対応関係が得らます:
ある波長の光 ⇔ ”赤い”感覚

この対応関係には次のような問題点があります。
”赤い”という感覚自体は言語で説明できないことです。

故に、この関係は客観的/普遍的なものには成り得なません。

関係という概念も”赤い”という概念も<BR>
(1)抽象的概念である点では同じですが
(2)言語で説明できるか否かという点で本質的に違います。

以上の議論から
「感覚や意識を言語によって客観的に説明することは原理的に不可能」
という結論が得られます。

当然、物理学によるクオリアの解明も不可能になります。

ニューロンの発火現象を物理的に測定しても、
「赤い」という言葉や”赤い”という感覚(クオリア)を確認できないことは自明です。
「脳現象は究極的には物理則で説明できる」
とする物理還元主義は砂上の楼閣です。

測定によって物理量を情報化すると物理量の次元が失われます。

視覚細胞や聴覚細胞も入力物理量の次元を消滅させます。
神経細胞の出力はどれも神経パルスという同一の形式です。

失われた物理的次元を心的次元として復活させるのが感覚や意識の役割だです。
脳は、多様な物理的次元をもつ物理空間に対応して心的次元をもつ心理空間を作るのです。

生物は、進化の過程で脳にそのような機能を獲得したものと推測されます。
図式的には次のようになるのかも知れない:
     (物理的次元)   (心的次元)
     光の波長と強度  → 色彩の感覚
  空気振動の波長と強度  → 音色の感覚

目に入る光の強度とそれに対する視覚的な印象の強さとの間には
ウェーバー・フェヒナーの法則が成り立つことが精神物理学で知られています。
音や温度などに対しても同様な法則が成り立っています。

しかし、感覚の印象の強さと感覚そのものとはカテゴリーが違ういます。
前者は量で表現できるが、後者は量では表現できません。

精神物理学的法則が成り立つからといって、感覚そのものを物理的に説明できる
とは言えません。

脳の情報処理をモデル化したニューラルネットは、パターン認識器やロボットに利用されています。
これは、神経回路を一種の計算回路とみなすことがある意味で妥当なこと示します。

情報処理の場合には数理モデル/記号処理モデルが可能です。
しかし、感覚自体にはこの種のモデル化は不可能です。
感覚と実数/記号とはカテゴリーが違うからです。

生理物理学の開祖でもあるヘルムホルツは
「神経興奮(ニューロン発火のこと)から、知覚がいかにして生じるのか」
という問いかけをしています:
大村敏輔訳・注・解説 『ヘルムホルツの思想-認知心理学の源流』、ブレーン出版(1996)

ニューロンの発火と感覚とが「どのように対応するのか」は、解明できます。
しかし、「何故、感覚が生じるか」は解明できません。
客観的性格をもつ物理則は、主観的な感覚を扱えないのです。

ファインマンは、物質現象が「何故」起こるのかを問えないと言います。
「どのよう」に起こるのかを問えるだけだと言います。
物質現象でさえもそうなのです。

遺伝子の核酸の分子構造発見でノーベル賞を受賞したクリックは、
脳神経科学に転向して意識の解明に取り組みました。
大多数の脳科学者と同様に物理還元主義を信じ、
何故意識が生じるのかをニューロンの発火現象から説明しようとしました:
クリック、コッホ
 ”意識とは何か”、別冊日経サイエンス123、特集:脳と心の科学(心のミステリー)(1998)

コッホは、日経サイエンス、2011年9月号で
「人工知能の意識を測る」という記事を書いています。
生きているヒトの意識は、ロボットの意識と同じと主張します。
強いAI主義/物理還元主義者の思い込みの強さが分かります。

「ニューロンの発火現象を調べれば意識は解明される」
という脳科学のドグマは明らかに砂上の楼閣です。

人工センサーによる臭いの識別が実用化されていますが、そのことは臭いの感覚を数値化できることを証明している訳ではありません。

感覚と実数とはカテゴリーが違うので感覚そのものを実数で表現することは不可能です。
人工知能研究者は、この事実を無視します。

詳細は、パソコンサイト 情報とは何か 情報と物質の関係から見える世界像 を是非ご覧ください!