情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、波束の収縮問題、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

時間とは何か 新しい時間論 時間は情報概念である!

2019-05-08 15:50:12 | 情報と物質の科学哲学
「時間とは何か」に関しては、「心とは何か」と共にギリシャ時代から議論が絶えません。
一般の人にも関心があるので多くの本が出ています:
 
松田卓也、二間瀬敏史
 『時間の本質をさぐる-宇宙論的展開-』、講談社現代新書、講談社(1990)
 
入不二基義
 『時間は実在するか』、講談社現代新書、講談社(2002)
 
吉永良正編
 『時間とは何か』、別冊日経サイエンスNo.180(2011)
 
時間の概念は、子供の頃から経験的に無意識に習得するので心の隅々に染み込んでいます。
そのため、
(1)「時間の流れ」や「時間の矢」の直観を心の中から取り除くことは不可能であり
(2)恰も時間という実体があるように錯覚します。

物理的時間は物理量ですが、物質の質量や電荷などの物理量と違い物質の属性ではありません。
これが時間概念の際立った特徴であり、そのため極めて難解なものになっています。

ところで、
(1)時計で振り子の周期を計る場合と
(2)秤で石の質量を計る場合とでは
「計る」という言葉の意味が全く違うことに注意すべきです。

(1)前者は振り子の往復運動という変化する現象(コト)の属性を計っているのに対し
(2)後者は石の質量というモノの属性を計っています。

そこで、
時間は変化する現象の情報的属性である」「情報は情報概念の一種である」
という「時間=情報を提唱します。
この説は、時間には実体がないことを含意します。

時間は、物質と同じ仕方でこの宇宙に実在しているものではありません。
「時間は実在するか」という問いに対しては「時間は情報的実在である」と答えます。

時間を情報概念として定義すると、時間が持つ様々な性格をうまく説明できます:
(1)情報にはシステム依存性があるので
(2)物理学、脳科学、心理学、社会学、歴史学、生物学、動物の種や個体
などのシステムにそれぞれ固有の時間概念を措定することが可能になるからです。
(3)時間概念の定義に「周期性」という時間に関係した概念を用いる同語反復を避けられます。

「時間=情報」説は直ちに「空間=情報に拡張できます。
時空間は光伝播によって決まる幾何学的存在ですから「時空間=情報」説は合理的です。

時間や空間それ自体が物質に作用することは決してありません。
このことも「時空間=情報」説を裏付けます。

「時間=情報」説は、時間論の様々な混乱を解消する時間論のコペルニクス的転回と言えます。

相対論の本には「空間が物質の運動に影響する」という初心者に誤解を与える説明があります。
物質の運動に影響を与えるのは空間そのものではなく重力場や電磁場なのです。
時間および空間という概念は、自然現象を整合的に記述するために物理学者が導入したものです。
 
「時間=情報」説によれば時計は
(1)「時間という実体を計る」機械ではなく
(2)「時間情報を定義して出力する」機械になります。
 
言い換えると、時計は物質現象を利用して時間情報を定義して出力する機械です。
これを「時計=時間を定義して創発する機械」説と名付けます。
物質による情報の定義と創発の例になります。
ディジタル時計は、生成された時間情報を文字盤などの情報表現物質で出力します。
 
アナログ時計にはこの情報表現物質はありません。
時計の針と文字盤を人が見て時間情報を得ます。
 
「時間=情報」説の妥当性を述べます。
(1)時計を用いて時間情報を生成し
(2)それを情報表現物質として出力し
(3)情報を読取り器で読取って制御に利用するシステムがあります。
 
人工衛星や自動制御システムがその例です。
このシステムは時間情報を利用した情報駆動型制御システムです。
 
単なる補助パラメータである物理的時間には物質的作用はありません。
 
自由空間において毎秒1メートルで等速運動する時計を考えます。
この時計は、時刻表示がそのまま距離表示になっています。
 
前述の「時計=時間情報生成機械」説を参考にすると、
この機械(時空計)は、時間情報と距離情報を同時に生成していることになります。
 
特殊相対性理論における光は、時間情報と空間情報を規定する情報表現物質になります。
 
物理学を根底で支えているのは光速度不変の原理です。
この原理によると時間と空間は独立した概念ではなく、互い密接に関係しています。
 
光速が時間軸目盛りの情報と空間軸目盛りの情報を同時に規定しています。
この事実は、光が自然界における情報表現物質であることを意味しています。
 
光を用いた距離計と時計の原理を示します:
 
(距離計)
(1)任意の波長を持つレーザー光を用意します。
(2)光干渉計によりその波長を測定し、それを単位距離として定義します。
   これを用いて空間軸の目盛りを作ります。
(3)その目盛りに基づいた距離計を作ります(レーザーを用いた距離計)。
 
(時計)
(1)先の波長の半分の長さを持つレーザー型共振器を作ります。
(2)共振器の左端からレーザーを発射し、同時にカウントを始めます。
(3)レーザーが右端で反射されて左端に到着したときにカウント数を1つ増します。
(4)これを時間目盛りの単位時間として定義します。
   これを用いて時間軸の目盛りを作ります。
(5)前述のカウンター出力を用いて時計を作ります。

外部作用のない物体は等速運動するという慣性の法則とを参考にすると、
この物体は古典力学における時間情報と空間情報を同時に規定する情報表現物質になります。
この物体の運動の軌跡を基にして空間軸の目盛りと時間軸の目盛りを作ることができます。

そうすれば、ニュートンの「流れる時間」という不自然な仮説を排除することができます。
これも「時間=情報」説の正当性を裏付けるものです。

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実在とは何か 実在の多義性

2019-05-08 09:50:00 | 情報と物質の科学哲学
ヒト、ロボット、コンピュータ、機械、測定器などのシステムにとって特定の対象が実在するかしないかは理論的には決まりません。
 
対象がそのシステムに影響を与えるか否かによって実在性が決まると考えるべきです。
 
物質的あるいは非物質的に影響しない対象を実在すると考えるのはオッカムの剃刀に反します。
 
オッカムの剃刀:
 「存在は必要もなしに増加してはならない」という概念節減の原理。
 中世の哲学者オッカムによる。(『集英社国語辞典』)
 
同じものが実在したりしなかったりする例は無数に有ります:
*色や音は、健常者には実在しますが、先天的視聴覚障害者には
 実在しません。
*色や音は、健常者には実在しますが、測定器には実在しません。
*AさんのクオリアはAさんには実在しますが、Bさんには実在しません。
*心は、普通の人たちには実在しますが、唯物論者には実在しません。
*数や普通名詞は、プラトン主義者には実在しますが、
 非プラトン主義者には実在しません。
*神は、信者には実在しますが、信者でない人には実在しません。
*霊や死後の世界は、信じる人には実在しますが、信じない人には
 実在しません。
 
非物質的な対象について実在という言葉を使う場合には必ず制限付きなのです。
これを無視した途端に無用の混乱、誤解、不信、争いが生じることは周知の事実です。
 
情報は、高等動物だけに実在するものではありません。
測定器、コンピュータ、ロボットなど無機物にも実在します。
 
この場合、情報は情報表現物質に担われて実在しています。
これを情報的実在と名付けます。
 
情報の実在を認めないと測定器、コンピュータ、ロボット、動物の現象は理解できません。

物質や物理量の実在と情報の実在では実在の意味が違います:
物体の質量は、物体に実在します。
物体の質量の測定値という情報は、測定器に実在します。
物体の名称、形、色(クオリア)は、物体にではなく脳神経回路の現象に担われて実在します(心的実在)。

情報の実在性は、システム依存的なのです。
 
以上のことから分かるように実在という言葉には多義性があります:
物理的実在物質的実在情報的実在心的実在機能的実在
 
このような状況を実在の多義性と名付けます。
 
物理学者は、実在という言葉を物理的実在あるいは物質的実在という極めて狭い意味で使います。
 
量子力学的現象は、このような狭い実在概念のみでは決して理解できません。
量子力学にとって測定器というシステムに依存する情報的実在という概念が不可欠だからです。
 
数学においても数学的実在という概念が考えられます。
数学という体系(システム)において不可欠な諸概念がそれに該当します。
 
例えば、数的概念、幾何学的概念、論理的概念、等々は数学的実在といえます。
実数論においては無限小数という概念が不可欠です。
しかし、実数には定義不可能なもの(非論理的実数)も含まれます。
この実数が果たして数学的に実在すると言えるのかは、極めて疑わしいのです。
 
実在とは何かについての特集記事があります:
「別冊日経サイエンスNo.186 実在とは何か」、(2012.8)
 
様々な実在論がありますが、前述の分析から「どれが正しいのか」と問うことには殆ど意味がありません。
 
心のみが実在すると主張する唯心論があります。
物質のみが実在すると主張する唯物論もあります。
両者の議論が収束する兆しはありません。
 
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実在とは何か 実在の意味が違う量子力学と古典物理学

2019-05-08 09:06:14 | 情報と物質の科学哲学
実在という概念に対する量子力学の考え方:
(1)測定前の電子のスピンや光子の偏光の量子状態は未確定
(2)測定によって量子状態が確定し実在化
(3)測定値は特定の値の中からランダムに生じる
(4)その確率は波動関数ψの絶対値の2乗に比例する
 
このように測定に依存する物理量の実在性という概念は、
量子力学特有のものです。
 
古典物理学では測定と無関係に確定した物理量が実在します。
 
「測定前の粒子の位置は、未知でも粒子は特定の位置にある。」
アインシュタインが生涯固執したこの主張は、量子力学では
認められません。
 
量子力学における「実在性」には次の2種類があると考えるべきです:
(粒子の検出前) 粒子は情報的に実在している
(粒子の検出後) 粒子は物質的に実在している

アインシュタインはパウリに対して
「月は見ていないときにはないのか?」
という有名な問いかけをして、物理量の実在に対する量子力学の
考え方を批判しました。
 
アインシュタインは「観測者に無関係な実在論」に生涯固執しました。
そのため彼は古典物理学者に分類されています。

パウリは、
「針の先で何人の天使が踊れるか」というような何も知り得ない
ことに頭を悩ますべきではないとアインシュタインに忠告しました。
 
アインシュタインは、マッハの思想に基づいてニュートンの絶対空間と
絶対時間を否定しました。
それにも拘わらず、彼は量子力学に対してはマッハの思想を無視したのです。
ボーアらコペンハーゲン派は、そのことでアインシュタインを厳しく
批判しました。
 
中世のスコラ哲学者たちは、「針の先で何人の天使が踊れるか」について
真剣に議論しました。
このような形而上学的議論を批判するときに、この例え話が使われます。
 
(以下、『集英社国語辞典』から引用)
 スコラ哲学:中世ヨーロッパで成立した哲学
  カトリックの教義を信仰をもって受け入れ、ギリシャ哲学の助けで
  信仰の哲学として体系化
  「スコラ」は教会や修道院付属の学校の意
 形而上:形がなく、感覚ではその存在を知ることのできないもの
  時間・空間を超えた、抽象的、観念的なもの
 形而上学:
  【哲】事物の本質や存在の根本原理を思惟・直観などによって
     究めようとする学問
(引用終わり)
 
『岩波理化学辞典』には「物理量」という単独の項目はありません。
これは、『岩波情報科学辞典』に「情報」という単独の項目がないの
と同じです。
「物理量」や「情報」という用語は、多様に使われるため一義的な
説明ができないからでしょう。
『岩波生物学辞典』には生物に関係する情報の項目があます。
 
ニュートン(阿部良夫訳)『自然哲学の数学的原理』、大思想文庫11、
岩波書店(1935) からニュートンの絶対空間/絶対時間に関する記述を
引用します:
「絶対時間」
絶対の、真の、数学的時間は、それ自身として基本性によって、他の対象に関係なく、一様に流れてゆく。それはまた、継続期間ともよばれる。
「絶対空間」
絶対の空間は、基本性により、他の対象に関係なく常に等しく且つ不動でありつづける。
(引用終わり)
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