情報と物質の科学哲学 情報と物質の関係から見える世界像

情報と物質の関係を分析し、心身問題、クオリア、時間の謎に迫ります。情報と物質の科学哲学を提唱。

禁断の開かずの間を覗く「弱い測定」の功罪

2019-05-12 19:38:11 | 情報と物質の科学哲学
アハラノフ・ボーム効果の予言者として知られるアハラノフは、弱い測定という概念を提案しました。
この弱い測定に関する記事がいくつかあります:
アハラノフ、”宇宙の未来が決める現在”、『実在とは何か?』、別冊日経サイエンスNo.86、pp.48-52(2012.8)
井元信之、横田一広、”量子の開かずの間をのぞき見る”、同上、pp.53-59
細谷暁夫、”「光子の裁判」再び”、日経サイエンス、pp.34-43(2014-01)

量子現象の測定の場合、測定器が基本粒子をランダムに攪乱します。
そのため、測定前の粒子の状態を知ることは不可能とされます。

これに対して、アハラノフは「弱い測定」の概念を提案しました:
粒子への測定器の作用を極力弱くした測定を多数回行います。
そして、同じ初期状態と最終状態の組み合わせの実験結果のデータを平均します。
その平均値を「弱い測定値」と呼びます。
この弱い値は、測定前の量子状態の重ね合わせの情報を与えるというのです。

量子力学は、測定前の量子状態に関しては何も言えないとしています。
弱測定理論による予測はすべて量子力学に基づいたものですが、実験結果に対する解釈を巡って様々な批判があります。

井元らは、絡み合う2光子実験から”確率マイナス1”の結果を得たと言います。
しかし、負の確率という概念は数学的にあり得ません。

アハラノフも「負の確率」という表現には反対しています。

細谷は、二重スリットの一方に僅か偏光するガラスを置いたときの弱い測定の思考実験を考えました。
これによれば検出した光子が偏光板付のスリットを通った確率が分かるそうです。
そのときの弱い測定値を量子力学で計算すると負になりました。
この値を負の確率と解釈している。

細谷は、負の数があるのだから負の確率があってもいいと言います。
何ともよく分からない論法です。

二重スリット実験で1個の光子が片方のスリットだけを通るという考えは量子力学で否定されていっます。
その場合には干渉縞は出来ないからです。

細谷による奇妙な干渉縞は、通常の干渉縞とはかなり違います。
しかし、その奇妙な干渉縞は1個の光子が偏光板付のスリットと通常のスリットを
「同時に通過する」ことで生じるものなのです。
負の確率という表現で関心を惹きたいのだろうが、読者に不信感を与えるだけです。

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量子現象の確率は何の属性か?

2019-05-12 16:57:25 | 情報と物質の科学哲学
古典物理学は、現在の状態から過去未来の状態を決定するニュートンの運動方程式に基づいています。

気体や液体などを構成する個々の分子の状態もこの法則で表される。<BR>
しかし、1c.c.あたり10の19乗個オーダーという膨大な数の分子集団の振る舞いを扱う場合、個々の分子の状態をすべて正確に記述することは不可能です。

そこで、熱統計力学では止むなく統計的手法を用いますが、それでも多くの法則が成り立つのです。
しかし、古典物理学では確率が本質的役割を果たすことはありません。
古典物理学で確率が使われる理由は、人間の知識不足によるものです。

一方、量子力学は量子現象にはもともと確率的性格があるとします。
アインシュタインは、ボルンへの手紙の中で「神はサイコロを振らない」という有名な言葉でこの主張に反対しました。

アインシュタインは、放射性元素の崩壊や原子における電子の遷移は偶然に起きると考えました。
これは、人間の知識不足による止むを得ないものでした。
この考えが隠れた変数の理論という概念につながるのです。

ところで、量子現象のような奇妙な現象に対して従来の確率概念を適用できるのでしょうか?
この疑問に対して次のような見方を提案します:
量子現象に関する確率は量子だけの属性ではなく、「量子」「現象を起こす装置(スリット、偏光板)」「検出器」からなるシステム全体の属性である。
量子現象の確率は、これらの協調によって初めて定義できるからです。

確率を計算する際にはデータの分類が必要です。
分類の仕方は、観測者が決めるものです。
ここに主観的な影響が生じます。

従って、量子現象に関する確率は絶対的、客観的な量ではありません。

量子現象に特有な確率を扱う「量子確率論」があります:
(1)二重スリット実験で片方のスリットのみを開けたときの結果を合わせたものと
(2)二つのスリットを同時に開けた結果とが一致しない
「干渉効果」を確率論として説明するために考案されたものです。
(大矢雅則ほか編 『数理情報科学事典』、pp.1059-1063、朝倉書店(1997))

量子確率論における確率は、対象とする現象の属性である点では通常の確率論と同じです。

量子がジグザク運動していると仮定し、それを確率過程で表すことによってシュレーディンガー方程式と等価な方程式を導く研究もあります:
長澤正雄 『シュレーディンガーのジレンマと夢 -確率過程と波動力学-』、
森北出版(2003))

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物理量の測定から量子現象の分類へ

2019-05-12 16:44:50 | 情報と物質の科学哲学
古典物理学における測定は、単位物理量と測定対象の物理量との比を求めるものです。
このときの測定は量を対象としたものであり、測定結果を実数世界に写像します。
古典物理学は、量的世界を記述する実数的体系なのです。

一方、量子現象の測定の場合、
(1)スピンや偏光の向きの測定あるいは粒子の検出のように質を対象とするのが特徴であり、
(2)測定と言うより分類と言うべきものです。

このときの測定結果は、実数世界ではなく論理世界に写像されます。
その意味で、量子力学質的世界を記述する論理的体系なのです。

ベルの不等式を検証する実験結果の分析は論理的なものです。

図式的には次のようになるでしょう:

 【古典物理学における測定】 モノあるいは物理量の測定
    ↓(量から質への転化) ↑(質から量への転化)
 【量子力学における測定】  コトあるいは量子現象の分類

量子力学は物質世界を説明する理論ではなく、物質(モノ)と情報(コト)とが
もつれあう奇妙な世界を説明する理論なのです。

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量子現象は情報物質現象である

2019-05-12 16:27:02 | 情報と物質の科学哲学
量子現象に関する測定は、対象の物理量に力学的かつ予測不能な影響を与えます。
測定値は、測定器と量子の物理量との相互作用によって定義され創発される情報です。

光子の偏光や電子のスピンなどの測定値には測定器に対するシステム依存性があります。

量子状態の絡み合いは、物質現象としてではなく情報物質現象として理解すべきものです。
ベルの不等式は、粒子の物質的絡み合いではなく量子情報の絡み合いを扱う式です。

測定によって得られる情報を用いて量子現象を説明しようとする限り
「測定と無関係に確定した物理量が実在する」
としたアインシュタインの主張には根拠がないことが分かります。

古典物理学の基本的性格:
測定は、対象とする物理量に本質的な影響を与えない。
測定と無関係に決まった物理量が実在する。

量子力学の基本的性格:
【測定が本質的役割】
      ↓
【対象と測定器の相互作用によって測定値情報が確定し実在化】
      ↓
【情報概念が不可欠】
 この情報概念は、情報理論の確率的性格を持つものではありません。

物理学者の情報概念は、情報理論のものか日常的なものかの何れかです。
これでは情報概念が本質的役割を果たす量子現象は決して理解できません。

量子力学は、量子レベルの現象を
(1)物質現象として説明する理論ではなく
(2)情報物質現象として説明する理論として理解すべきものなのです。

次のような奇妙なタイトルの本があります:
筒井泉『量子力学の反常識と素粒子の自由意志』、岩波科学ライブラリー179(2012)
コンウェイとコッヘンによる自由意志定理が簡単に紹介されています。
素人にはチンプンカンプンです。

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EPR実験はミステリーではない!

2019-05-12 15:43:58 | 情報と物質の科学哲学
シュレーディンガーは、観測問題に対するコペンハーゲン解釈の欠陥を突くために
量子状態の絡み合い量子もつれエンタングルメント)という概念を提唱しました。

量子力学の不完全性を突くためにアインシュタイン・ポドルスキー・ローゼンは、
次のような思考実験(EPR実験)を提出しまた:

絡み合う量子状態にある二つの量子を反対方向に送出する粒子源があります。
粒子源から離れた所にある測定器(AとB)は、二つの粒子の量子状態(スピンや偏光)を
測定します。
但し、粒子源/測定器の三者間には通信手段がないとします。

測定器Aが測定した値をα、測定器Bが測定した値をβとします。
(1)二つの粒子は絡み合い状態にあるので、
(2)Aが測定値αを出した瞬間に(Bが測定する前でも)自動的にβも確定します。
逆も同様です。

これらは、量子力学による理論的帰結です。
この状況を量子状態の絡み合いと言います。

アインシュタインらは、次のように主張しました:
EPR実験は、通信手段のない粒子源/測定器の三者間に何らかの遠隔作用がないと
不可能だ。
遠隔作用は、量子力学でも認められない。
遠隔作用を仮定しないと得られないEPR実験は、量子力学が不完全であることを示す。

EPR実験と同じ性格を持つ実験結果は、量子力学の予想通りでした。
恰も気味の悪い遠隔作用(エーレンフェストによる表現)が存在しているように見えます。

これらの状況を量子のミステリーと呼ぶことがあります:
マーミン(町田茂訳) 『量子のミステリー』、丸善(1994)

測定器Aの操作と測定器Bの操作は独立なので、両者に力学的な因果関係は
存在しません。
それにも関わらず、
(1)AとBにおける実験結果をある形式で表現したものを分析すると
(2)そこに強い相関関係があるのです。

(1)Aの測定結果とBの測定結果を力学的因果関係で結びつけて考えると
(2)気味の悪い遠隔作用が存在している錯覚に陥ります。

しかし、
(1)二つの測定結果の強い相関は測定器間の力学的因果関係によるものではなく
(2)測定器間の位相的(空間的)な関係(二つの偏向板の相対角度など)によるものです。

EPR実験結果に気味の悪い遠隔作用や非局所性などのミステリーを感じる必要は全く
ありません。

アインシュタインやボームら量子力学不完全派は、
「量子状態は観測に無関係に確定している筈だ」と主張しました。
量子力学には発見されていない隠れた変数があるというのです。

ベルは、もし隠れた変数があるなら成り立つべき不等式を発見しました。
この不等式は数学的に導かれるもので、物理学とは無関係なものです。

アスペらは、量子の絡み合いを利用した実験でベルの不等式を検証しました。
その結果、
(1)ベルの不等式は成り立たない
(2)隠れた変数は存在しない
ことが実証され、量子力学の正しさが改めて確認されました。
つまり、量子力学が不完全ではないことが証明されたのです。

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