ブリューゲル「雪中の狩人たち」と小氷河期
Julia様が「ブリューゲルとシスレーの雪景色-暗さの文化論」で、ブリューゲル(Pieter Brueghel the Elder)の「雪中の狩人たち」(The Hunters in the Snow)を取り上げている。6月にウィ-ン美術史博物館を訪れた時のブリューゲルの部屋の感動を思い出す。(あまり確かでないが)世界で始めて雪景色を描いた絵画と説明があった記憶がある。3部作だったと思い返し、カタログを読み返すと、現存する5つの作品のうち、3つの作品がウィ-ン美術史博物館に展示されているとのこと。雪に触発されて、この連作を書き出したのか気になってきた。Wiki Pedia英語版によれば、
The Months. A cycle of 6 or 12 paintings of the months or seasons from the "Book of hours" of which five remain:
という順に作品リストがあった。ということは、雪景色から書き始めた連作だったのだろうか。どなたかご存知ならご教授願いたい。
paul-ailleurs様のサイエンスの記事の件も気になって、手元の書籍やWebを調べだした。Scott A. Mandia助教授のサイトに寄れば、ヨーロッパの小氷河期(Little Ice Age)は、1150年から1460年が一般的に涼しく、1560 年から1850年の間が非常に寒かったという。その意味では、ブリューゲルの「雪中の狩人たち」が世界始めての雪景色の絵画という説明は、それなりに古気候学的に意味があるようだ。WikiPediaによれば、特に、1650年、1770年、1850年に3つピークがあったとのこと。また、1608年のオランダは寒かったようで、前述のWIkiPediaには、H.AvercampのA Scene on the Iceという絵画が引用されている。
Scott A. Mandia助教授のサイトには、1788年の北部フランスの冬の気候とそれに続く1788年の暑い夏の結果、1788年の不作になり、1789年のマリー・アントワネットの "Let them eat cake"という発言につながったという話題や小氷河期がワインの収穫量などへの影響も書いてある。
閑話休題。
同じくScott A. Mandia助教授のサイトに、Neuberger (1970)の欧米の絵画の空の表現についての調査結果がサマライズされている。1400-1549、1550-1849、1850-1967の3期間別の統計だ。小氷河期にあたる1550-1849の期間でcloudiness, dark paintingが多く、1400-1549の期間にはSky Blueの割合が多い。小氷河期が絵画に影響を与えていると。
しかし、やはり画家は、青い空、白い雲に感動して表現するだろうし、嵐は神の怒りと畏怖するのではないだろうか?人間ドラマを背景として書かれた空の表現は、日常的な(平均的な)空を表現ではなく、逆に、画家に印象が残った日、すなわち、とても特異な天候の表現ではないか?もちろん、小氷河期は影響を認めるのだが。
先般アルテ・ピナコテークでヤコーブ・ファン・ライスダールJacob van Ruisdael (1628 - 1682)を鑑賞した。風景そのものをが主題になっている。雲の表情、樹木の表現。圧倒的な迫力の風景画である。これはどうみても写生をこえている。(ファン・ライスダールの作品Torrent with Oak Trees(1670s) の画像へのリンク)
「西洋美術史」*1 によれば、「17世紀オランダの風景画は特に写実的で、。。。構図の工夫や光や空気の印象の的確な反映によって、ありふれた風景から傑作を作り出した。ただし、当時の風景画の完成作は、実景写生ではなく、戸外でスケッチをもとにアトリエで仕上げられたものである。また、ファン・ライスダールの《ユダヤ人墓地》(画像へのリンク)のように、想像力で作られた風景画もある。(中略)この廃墟で風景では劇的性格はいっそう明らかである。」
いわんや、神話や人物を主題とした場合の風景画をや。神話や人物の心象風景を描いただろう。
ブリューゲルの「雪中の狩人たち」は、The of the seasonという連作で1-2月という季節そのものが主題。雪が降って獲物が見つけやすくなったと狩に出かける狩人たちのたくましさ、遠くに見えるアイススケートを興じる人々がブリューゲルの描きたかったテーマ。そのときブリューゲルが選んだ空の色はといえば、やはりそれなりに厳しい冬の日をイメージした色を選んだのではないだろうか。
P.S. 乾 正雄著「夜は暗くてはいけないのか-暗さの文化論」(朝日選書)は、今度一読したい。
*1 「西洋美術史」高階秀璽 監修(1990年初版)
Julia様が「ブリューゲルとシスレーの雪景色-暗さの文化論」で、ブリューゲル(Pieter Brueghel the Elder)の「雪中の狩人たち」(The Hunters in the Snow)を取り上げている。6月にウィ-ン美術史博物館を訪れた時のブリューゲルの部屋の感動を思い出す。(あまり確かでないが)世界で始めて雪景色を描いた絵画と説明があった記憶がある。3部作だったと思い返し、カタログを読み返すと、現存する5つの作品のうち、3つの作品がウィ-ン美術史博物館に展示されているとのこと。雪に触発されて、この連作を書き出したのか気になってきた。Wiki Pedia英語版によれば、
- The Hunters in the Snow (Dec.-Jan.)1565, Kunsthistorisches Museum Wien, Vienna
- The Gloomy Day (Feb.-Ma.) 1565, Kunsthistorisches Museum Wien, Vienna
- Hay-Harvest (June-July) 1565, National Museum, Prague
- The Harvesters (Aug.-Sept.) 1565, Metropolitan Museum of Art, New York
- The Return of the Herd (Oct.-Nov.) 1565, Kunsthistorisches Museum Wien, Vienna
という順に作品リストがあった。ということは、雪景色から書き始めた連作だったのだろうか。どなたかご存知ならご教授願いたい。
paul-ailleurs様のサイエンスの記事の件も気になって、手元の書籍やWebを調べだした。Scott A. Mandia助教授のサイトに寄れば、ヨーロッパの小氷河期(Little Ice Age)は、1150年から1460年が一般的に涼しく、1560 年から1850年の間が非常に寒かったという。その意味では、ブリューゲルの「雪中の狩人たち」が世界始めての雪景色の絵画という説明は、それなりに古気候学的に意味があるようだ。WikiPediaによれば、特に、1650年、1770年、1850年に3つピークがあったとのこと。また、1608年のオランダは寒かったようで、前述のWIkiPediaには、H.AvercampのA Scene on the Iceという絵画が引用されている。
Scott A. Mandia助教授のサイトには、1788年の北部フランスの冬の気候とそれに続く1788年の暑い夏の結果、1788年の不作になり、1789年のマリー・アントワネットの "Let them eat cake"という発言につながったという話題や小氷河期がワインの収穫量などへの影響も書いてある。
閑話休題。
同じくScott A. Mandia助教授のサイトに、Neuberger (1970)の欧米の絵画の空の表現についての調査結果がサマライズされている。1400-1549、1550-1849、1850-1967の3期間別の統計だ。小氷河期にあたる1550-1849の期間でcloudiness, dark paintingが多く、1400-1549の期間にはSky Blueの割合が多い。小氷河期が絵画に影響を与えていると。
しかし、やはり画家は、青い空、白い雲に感動して表現するだろうし、嵐は神の怒りと畏怖するのではないだろうか?人間ドラマを背景として書かれた空の表現は、日常的な(平均的な)空を表現ではなく、逆に、画家に印象が残った日、すなわち、とても特異な天候の表現ではないか?もちろん、小氷河期は影響を認めるのだが。
先般アルテ・ピナコテークでヤコーブ・ファン・ライスダールJacob van Ruisdael (1628 - 1682)を鑑賞した。風景そのものをが主題になっている。雲の表情、樹木の表現。圧倒的な迫力の風景画である。これはどうみても写生をこえている。(ファン・ライスダールの作品Torrent with Oak Trees(1670s) の画像へのリンク)
「西洋美術史」*1 によれば、「17世紀オランダの風景画は特に写実的で、。。。構図の工夫や光や空気の印象の的確な反映によって、ありふれた風景から傑作を作り出した。ただし、当時の風景画の完成作は、実景写生ではなく、戸外でスケッチをもとにアトリエで仕上げられたものである。また、ファン・ライスダールの《ユダヤ人墓地》(画像へのリンク)のように、想像力で作られた風景画もある。(中略)この廃墟で風景では劇的性格はいっそう明らかである。」
いわんや、神話や人物を主題とした場合の風景画をや。神話や人物の心象風景を描いただろう。
ブリューゲルの「雪中の狩人たち」は、The of the seasonという連作で1-2月という季節そのものが主題。雪が降って獲物が見つけやすくなったと狩に出かける狩人たちのたくましさ、遠くに見えるアイススケートを興じる人々がブリューゲルの描きたかったテーマ。そのときブリューゲルが選んだ空の色はといえば、やはりそれなりに厳しい冬の日をイメージした色を選んだのではないだろうか。
P.S. 乾 正雄著「夜は暗くてはいけないのか-暗さの文化論」(朝日選書)は、今度一読したい。
*1 「西洋美術史」高階秀璽 監修(1990年初版)
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いや~~なんとすごいご探究心ですねぇ~/kaminari/}
ブリューゲルの輪が広がっていくようですごく嬉しいです!!
>
雪景色から書き始めた連作だったのだろうか。どなたかご存知ならご教授願いたい
それについては、乾 正雄氏のご本でも触れていましたので後でまた書きに参りますね!!
ブリューゲルの絵には、こうして皆さんをひきつけて止まない魔力があるようですね
ここでTBを一度送らせていただきます
この絵はScience誌の表紙で見たのですが、なぜか印象に残る絵でした。この絵の中に自分がいるような気がしたことを覚えています。それとak96様もご指摘のように、氷上の人が動きが自分の固定観念を大きく壊すような動きをしていたために、私(現代人)と同じだと感じたことも大きかったのではないかと思っています。
これからも、いろいろと紹介をお願いします。
なんとか回答らしき記事作成してみました。
上記のコメントで、Kaminariが残って
しまってすいませんでした。
削除していただくか雷マークでもお付けくださると
幸いです(*- -)(*_ _)
TBまたさせていただきます。
本当にいつもありがとうございます