『音色』 -第2話-

2018-11-06 06:56:39 | 作り話

ここはやっぱり田舎だ。
いまだに診療所すらない。
美容院はあるにはあるけど
あんなお釜みたいな装置が
置いてある店、怖くて行け
やしない。 

それに、小さな町だから
なんでも直ぐに
町中に知れわたる。

帰ってきたわけじゃない。 
次の哲夫の現場がたまたまここ
だっただけ。
それに永遠のここに住むわけ
じゃないし、次の現場に移動
するまでの間だけ。
栄子はそう考える事で嫌っていた
故郷で再び生活を始めることへの
抵抗感を薄めようとしていた。

 

中学卒業までは朝から晩まで
一日中この町にいた。
友達は大勢いたし、
皆と遊ぶのは楽しかった。

でもだんだんと息がつまるように
なった。

だから高校は3つ隣にある大町まで
通う事にした。
まあどちらにしてもこの町に高校は
ないから、進学するならどこか他の
町まで行くしかない。
大町は城下町で人も多い、デパート
も3つあった。 
その一つは当時としては画期的な
パルコのようなアパレルだけが
入っているビルだった。 
毎日、学校帰りにそこへ寄るのが
楽しみだった。 

だけど、だんだんそれにも
飽きてきた。
もっと都会がある事がわかったから。

「やっぱり所詮は地方都市だ」

その、アパレルビルは8年前から
売れ行き不振になり、その後
いろんな業種が入る雑居ビルに
なった。 最後には全館100円
ショップになったがそこも撤退。
とうとう3年前には解体されてしまい
今はがらんとした車が止まっていない
駐車場になった。

高校卒業後は迷わず東京の大学に
進学にした。 
大町で通った高校は県立でも結構
上位の学校だったから東京の大学に
現役で入学出来た。

この町を出て14年、
哲夫と結婚して、
すぐに陽が生まれて、
それから5年、

栄子は又この町に戻って来た。

 

続く