『音色』 -第6話-

2018-11-29 07:35:46 | 作り話

栄子は32歳の時に陽を生んだ。
栄子の嫌いなこの漁師町を出てから
14年目のことだ。

陽は赤ちゃんのときよく泣く子
だったかな?

もうしゃべってよい2歳くらいから
今日まで、あまりにもしゃべらない
我が子しか記憶にない。

最初は発達障害かと思った。
その後は緘黙(かんもく)。
親が過保護過ぎるからだって言われ
た事もあった。
育て方が悪いのではないのかと
悩んだ。

最初にものすごく小さな声が陽から
微かにだが聞こえた時、大泣きした。

「出るんだ! 声!」

しかし、その後もほとんど聞こえない
ような小さな声しか出せない娘に

 

「何を言っているの!」
「どうして欲しいの?」
「何か言って!」

ついつい、大きな声で感情を露わに
してしまう自分にも腹が立った。

出張でいつも家にはいない哲夫に
対しても。

 

何度も
「私にわかるように話してくれ!」
と娘に迫りながら
困惑する娘を見るたび
「ひなた、ごめんね」って何度も
泣いて謝った。

 

『私だけ...何故....?』

辛かった。