『音色』 -第5話-

2018-11-15 09:46:18 | 作り話

ピアノを習い始めたのはおばあ
ちゃんと見ていたテレビ番組が
きかっけ。

商店街に1台のピアノが置かれて
いて、誰が弾いてもいいの。
通りがかりの人が何気なくピアノの
前に座ったと思ったら、突然何かを
弾き始める。
すごく上手い人もいれば、何だか
さっぱり解らないのもあった。

夢中で見ていたのはそこが宮崎県
って所だったから。
私が生まれた時、お父さんは宮崎県
の日向市って所でお仕事してたの。
お父さん 私の名前を日向
(ひゅうが)って書いて
(ひなた)って名前にしょうとした
らしい。 それをお母さんが、それ
じゃあ女の子っぽくないからって
「陽」って書いて「ひなた」と
読む名前にしたの。

そんなに熱心に見ていたつもりは
無いのだけどおばあちゃん、突然
「あんた、ピアノ習ってみるかい!」
って。

お母さんは最初、ピアノ教室には
いい返事をしなかった。 この前
から3駅隣の「大町」で事務の仕事
をしているから。 朝9時前に出て
夕方5時に戻ってくる。
途中で抜け出して、私をピアノ教室
まで送り向かいをするの出来ない
んだって。

「それに、今の哲夫の給料と私の
パート代じゃあ、これから学費も
かかることだし…」

「私の年金から出すから、あんたは
心配いらないって!」
おばあちゃんいつも強引だ。

 

それで大町市とは反対方向で1駅先
の湯川駅のピアノ教室へ通うことに
なったの。

ピアノ教室にはバスで行くよ。 
おばあちゃんは「途中、途中で止ま
るバスの方が風情があっていいだろ」
だって。

今度小学校に入ったら子供部屋が
もらえるんだ。 今住んでいるアパ
ートの隣部屋、そこも空いてるから。

この家は海から近い所に建っている
けど、どの部屋からも海は見え
ないよ。
海風が強いからそうしたみたい。
でも今度の私の部屋からは背伸び
するとちょっとだけ海が見える。
海はいつも違う表情をしている。
波の動きを見ているだけで、聞こえ
ないのに波しぶきの音まで聞こえて
来る気がするから不思議だ。

 ピアノのは楽しいよ。
鍵盤を強くおせば大きい音が
早く弾けば早い音が出るから。

それに私が弾くピアノの音
誰にでも聞こえるみたいだし。

この3月には発表会。
だけどいつも右手と左手が同じ動き
をするから心配だ。

「週1回の練習だけじゃあねえ~」

おばあちゃんはそう言うとどこか
らか古い電子ピアノを貰ってきた。

「ほら、あの魚屋さんの三瓶さんっ
ているだろ、 あそこの上の子が昔
ピアノを習っていたけど高校に通っ
た後はもうやらないって。 それで
じゃまだし、要らないってさ」

ただじゃ悪いからって、おばあちゃ
ん、町に1軒しかない和菓子屋さん
でお饅頭を買って渡したんだって。

お母さんは「野暮ったい味」って言
うけど、私はほんのりとした甘さの
ここのお菓子が好きだ。