コラム(174):迷妄の日本核武装論
先日、新聞の広告欄に、宗教団体が核装備を肯定する書籍広告を大きく掲載していました。人びとの心に平和を説くべき宗教団体が、大量殺戮兵器を肯定していることに違和感を抱きました。
核抑止論は過去の遺物
幸福実現党の母体である宗教法人幸福の科学は「核武装をして国を守る準備をしないと(中略)千万人単位の人が殺される可能性がある」と主張しています。これは、教団や教祖自体に内在する恐怖心に対し、宗教的に解決する力を持ち合わせていないことを物語っています。
宗教的な教えの代わりに、核による大量殺戮の恐怖心や他の様々な不安や恐怖心を煽ることで、教団への求心力を高めようとしているのです。
しかし、教団内部だけの話だけであればいざ知らず、幸福実現党として国政選挙で訴えるようになると注意が必要だと思います。
保守の一部にも「日本は核装備をすべきだ」という意見があります。その論拠は、「アメリカに依存することなく、中国、ロシア、北朝鮮に対し、抑止力として持つべき」というものです。最近では米大統領候補のトランプ氏の発言などから、こうした声が大きくなっているようです。
核兵器が抑止力になるという考え方は、核攻撃を受けないための抑止力との意味で、戦争が起きないということではありません。現に核保有国同士である中ソ紛争は起きています。
また、核抑止の考え方は、核兵器使用を前提にしたもので、東西冷戦時代の米ソの「恐怖の均衡」で成り立っていたにすぎず、ソ連の崩壊とともに、抑止力としての効力はなくなっています。
核の拡散こそ防がねばならない
今日では、中小国が核を持ち始めるようになりました。中小国は隣国と敵対することが多く、隣り合う国が核武装を始めると隣国にまで「核ドミノ」が起きます。その結果、隣国同士の紛争がエスカレートすれば核兵器が使用される危険性が一層高まってきます。
実際、北朝鮮と中国の関係に象徴されるように、小国が核兵器を保有すると隣接する核保有の大国を脅かす「弱者の恫喝」として使われます。中国がかつてのように北朝鮮を抑えることができなくなっているのはこのためです。
また、核保有国が増えると問題になるのは核の保管で、これがテロリストなどの手に渡ると、国際社会の安定と平和が脅かされます。
たとえ、核拡散防止条約(NPT)が核保有大国の利益のためにつくられたものであっても、核兵器をこれ以上保有する国を増やすようなことがあってはなりません。非締約国であるインド、パキスタン、イスラエル、南スーダンの早期の批准が望まれます。
憲法改正で戦後が終る
日本の核保有論者は反米ナショナリズムの人が多いと思われます。そして、未だに大東亜戦争の敗北を精神的に引きずっていて、日本はアメリカの半従属国家であるとの思いがぬぐい切れていないようです。したがって、安倍総理の米国議会演説や戦後70年談話の精神を高く評価していない人が多く、オバマ大統領の広島訪問も歓迎していたとは思えません。
これらの人びとは、アメリカに対する精神的なわだかまりを取り除かない限り、いかなる方策をとろうともアメリカからの脱却はできません。脱却する道は、アメリカによって作られた憲法を改正すること以外にはなく、憲法が改正されてはじめて日本の戦後が終ったと言えるのではないでしょうか。
核なき世界を日本がつくる
日本の外交力は安倍政権の発足とともに大きく変わりました。平和的な外交姿勢は、世界中の国々の日本への信頼度を高め、G7会合で見られたように日本の占める位置や影響力が大きくなっています。
また、近隣のASEAN諸国や、アジア・アフリカ諸国からも信任を得ています。
国際社会でのまとめ役だけでなく、繁栄と平和的安定のための支援国として日本の存在が不可欠となっているのです。
宗教家に代わる演説
日本は唯一の被爆国であり、核の悲惨さを知っているからこそ、核兵器廃絶の訴えが国際社会に説得力をもっています。
オバマ大統領は、G7後の広島訪問の際、こうスピーチしています。
より高い信念という名の下、どれだけ安易に私たちは暴力を正当化してしまうようになるのか。
どの偉大な宗教も、愛や平和、正義への道を約束するにもかかわらず、信仰こそ殺人許可証であると主張する信者たちから免れられないのです。
自分たちとは違う人々を抑圧し、人間性を奪うため、こうしたものと同様のストーリーが頻繁に利用されたのです。
私たちの心を変えなくてはなりません。戦争に対する考え方を変える必要があります。紛争を外交的手段で解決し、紛争を終わらせる努力をしなければなりません。
平和的な協力をしていくことが重要です。暴力的な競争をするべきではありません。私たちは、破壊をせず、築きあげていかなければなりません。なによりも、私たちは互いのつながりを再び認識する必要があります。同じ人類の一員としての繋がりを再び確認する必要があります。つながりこそが人類を独自のものにしています。
核を保有する国々は、勇気を持って恐怖の論理から逃れ、核兵器なき世界を追求しなければなりません。
また、安倍総理はこのようにスピーチしました。
すべての人命は、かけがえのないものです。私たちは一つの家族の一部であるという考え方です。これこそが、私たちが伝えていかなくてはならない物語です。
世界中のどこであろうとも、再び、このような悲惨な経験を決して繰り返させてはならない。この痛切な思いをしっかりと受け継いでいくことが、今を生きる私たちの責任であります。
彼らはまさに宗教家が語るべき言葉を世界に向けて発信したのだと思います。
改めて、核なき世界をつくることが日本の使命であることをしっかりと胸に刻みたいと思っています。
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