赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

②日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋 ——日鉄が中国や韓国に買収されると考えたら——

2025-01-19 00:00:00 | 政治見解
❷日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋
——日鉄が中国や韓国に買収されると考えたら——




昨日からの続きです。

U.S.スティールの買収問題は、米国の安全保障政策に関する重要問題にも関わらず、例によって日本のメディアも的外れであるため、国際政治学者に登場を頂いて、根本の問題は何なのかというところから解説をしていただきました。許可を得て掲載します。


【前日解説の概要】

日鉄のU.S.スティールの買収が非常に難しくなってきました。これは国防問題の重要性というのがわからないと「なぜこのような企業間のものに政府が口出しをするのか」という話になるのですが、石破首相の責任も非常に大きいと私は思います。

今はまだ現役大統領であるバイデンが反対して中止命令を出したのですが、トランプも反対しているのです。だから、はっきり言って、民主党も共和党も両方反対しているので、この買収を実行するのはものすごく難しいと言えます。この件については、日鉄の読みが非常に甘かったとしか言いようがありません。

日本製鉄は、ポンペオ氏を当問題の弁護士として雇いました。日鉄の幹部はアメリカの政治情勢が何もわかっていないということだと思います。ポンペオ氏は反トランプであり、トランプに嫌われている人です。次期大統領に嫌われている人を弁護士として持ってきて、この問題を通そうと日鉄は考えています。アメリカの政治が残念ながら見えていません。非常に残念です。



日本製鉄が中国や韓国に買収されたら日本人はどう思うか?

やはり、商売の論理・ビジネスの論理・経済の論理だけではなく、この世には「国家の論理」というものもあります。安全保障や国防という問題があるので、それは一企業など業界の利益を超えているものです。いざというときに国防で大事な産業は、全て自国の資本に置いておきたいということが背景にあります。これを逆に考えてみたら、仮に日本製鉄が韓国の会社に買収されるとなったら、どうなると思いますか?チャイナの会社に買収されるとなったらどうなるのか考えてみてください。

あるいは、そこまで反日ではなくてもいいですけど、インドの会社に買収されたらいかがでしょうか。そのようになると、日本人は安心していられません。そういう逆の立場に立ってみれば、よくわかることです。ここの部分は日本の政治力も低いので、日米関係は対等な関係ではありません。私は対等の関係に早くすべきだと思います。

いざとなれば、アメリカは鎖国してもやっていけるような国なのです。アメリカには希少金属も含めて全ての国内資源が賄えます。そして、食料もエネルギーも輸出できるほど持っているのです。2023年にアメリカは世界一の産油国になっていました。サウジアラビアよりもロシアよりも石油を掘っていたのです。そういう国ですだから食料もハイテク機器も輸出できるし、いざとなれば外国から輸入しているものも全て国内で賄えます。自給自足どころか輸出ができる国なのです。

その国に日本は国防をおんぶされているレベルであり、そういう状況においてアメリカの国益にならないと大統領が言っているものに抗ってひっくり返すことは日本の国益にもならないと思います。

実際、U.S.スティールの競争力は落ちているのです。日本製鉄が買収しなければ、向こう側から「助けてほしい」と言ってくるでしょう。それは技術供与などが大きいと思います。国内で妨害したと言われているクリーブランド・クリフスという会社がありますけど、ここが買収すると独占禁止法違反になってしまうのではないかという危惧もあるようです。クリーブランド・クリフスの方は、この買収を露骨に反対しました。要するに、自分たちがU.S.スティールを買収したいのです。

向こうも国内的にもできにくい状況があるということです。放っておけば向こうから「助けてほしい」と言ってくるので、そういう状況を待っていた方が日本としては得だと思います。

しかし、ここまで踏み込んでしまったので、今の日米関係を非常に悪くする材料になってしまっているのです。ハイポリティクスとローポリティクスという言い方があります。ハイポリティクスというのは国防や安全保障の問題です。ローポリティクスというのは経済の企業間の利益の問題のことを指します。

これがハイポリティクスであるということは国家の存亡がかかった問題だから、こちらの方を優先するのは当然のことだと理解してください。また、石破の打つ手が悪いのです。トランプ政権と仲が悪いのですけど、バイデン政権が現役であった11月下旬に「日鉄のU.S.スティール買収を承認してほしい」という手紙をバイデンに書いていました。



安全保障という考え方を日本人はもっと真剣に考えるべき

石破首相は1月6日の年頭の記者会見でも、バイデン大統領が日本製鉄によるU.S.スティール買収を禁止したことに関して「政府として重く受け止めざるを得ない。個別企業の経営に関する案件にコメントするのは控えたいが、米政府には懸念払拭に向けた対応を強く求めたい」と強調していました。なぜ買収に安全保障上の懸念があるのか、アメリカ側からきちんと述べてもらわなければ、これからの話し合いにもなりません。

いかに同盟国であっても今後の関係において、この点は非常に重要と考えているそうです。これはトランプに対して喧嘩を売っているとしか思ません。これは、まずいでしょう。こういうことをやるなら外交官僚ではなく、それこそ安倍元首相のように個人的な関係(パイプ)を持って、そういうところも表に出さず水面下で根回しをしておくべきことです。

このようなうまくいっていないときに、こういうことを言ったらもっと問題がこじれてしまいます。日米関係全体に悪い影響が出てくるというか、悪い影響を現実に与えているのです。これは石破外交の失敗でもあると言って良いでしょう。

これは日鉄側の一つの言い方なのですが、すでに日本製鉄が契約してしまったので買収を実行しないと大きな罰金が取られると言っています。これも要因なのかもしれません。しかし、考えてみると会社同士で決めたものを国家安全保障上の理由だと言って、大統領が中止命令を出したということは不可抗力でしょう。

こういった場合は契約を履行しなくても、罰金はないということが通ると思います。それは、アメリカの裁判所でも通る常識ではないでしょうか。これが禁止されるなら、全て罰金の条項は無効にしてほしいという裁判を起こすことは当然だと思います。これはビジネス上の判断ではなく、国防上の判断で大統領が介入したわけだから不可抗力です。私は、そのように思います。

(了)
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