〓私しか知らない殺人事件

関わりはＫとだけだったので、もう没交渉である。
ところが、Ｋの悪妻が母親を連れてスタジオの方に訪ねてて来たので驚いた。
特にこれという話はなく雑談ばかりだったのだが、
私には理由が解っていた。間違い電話をかけてしまったことが唯一のミスだと当事者だから気が付いているに決まっているので、私がどう解釈したかを探りに来たのだろう。
私は正直気味が悪くて仕方がなかったのであえて口にしなかった。
それにしても自分の親をもだしに使うとは恐れ入った。しきりとＫの持病の話をしていたがその実冷凍食品を買うだけで食事も作らなかったのは間違えなく、家の中で別居し放置していたのが事実であろう。
男でのない電器店では仕事は皆無に等しいはずだ。　店はどうするのか？だけ聞いてみたらもう代役がいるとの事その名前は○×といった。
間違え電話の本当にかけたかったであろう相手である。それを口にしたときの私の反応を伺うような言い方だった。
もちろん私は知らぬふりを決め込んだ。
それに安心したかのようだったが、家はそのまま住み続けると聞いた。
直接手をかけたわけではないだろう。だから殺人というのは言い過ぎかもしれない。しかし、取るべき手段は明らかに常軌を逸していると思う。帰ってみたら事切れていたとしても救急車の手配ぐらいするのが常識だろう。
しかし、結果として保険金自分の家を手にしたことは紛れもない事実なのだ。 世の中にはきっとこんな事例を探せばごまんとあるのかもしれない。
悪女以上の人間だと私は思っている。
それから一年もしないうちに風の噂で自宅を売り店を閉め行方が解らなくなったと聞いた。
清張の小説ー悪い奴らー以上のモンスターだと言う思いは消えないが今まで誰にも話したことはない。
ただの私の勘違いであることを祈るばかりである。
（了）