民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「悟りの怪」(さとりの化け物) 野村 純一

2013年06月10日 00時15分11秒 | 民話(昔話)
 「悟りの怪」(さとりの化け物) 「会津百話」より 「昔話の旅 語りの旅」 野村 純一
 
 山の小屋に、じいさまがひとりでいやったど。

 そうしたら、へたな奴が寄って来て、マンダリマンダリしていると。
そうしたら、気味(きんび)が悪(わり)くなって、囲炉裏(ゆるり)さ燃していた。

 燃えほたを取って、叩(はた)くべぇとすると、
「にしゃ、その燃えほたでおれを叩(はた)くべぇと思う気持ちだなあ」
火箸を掴むと、
「にしゃ、その火箸でおれを叩(はた)くべぇと思う気持ちだなあ」
そう言(ゆ)ったけど、何を掴んでも、じっき悟られてしまうもんだから、
じいさまは仕方がねぇもんだから、黙って曲げ物を始めやったど。

 そうしたら、曲げ物が手がらターンとはずれて、ぶっ飛んで、
へたな奴の額(ひてい)にパチーンとぶっかったど。

 そうしたら、へたな奴は、たまげて逃げて行ってしまったど。

 それは悟りと言(ゆ)うものだったと。