「さとりの化け物」 日本昔話百選 稲田浩二・和子 三省堂 2010年版
ざっとむかしあったと。
じいさまが夜なかに山小屋で、たったひとり火に当たっていらしたと。
すると何かが音をさせないではいってきて、火のはたへ寄って来たから、
「これは性(しょう)の知れない化け物だな」と思っていらしたと。
そうしたれば化け物が、
「われは、性の知れねえ化け物だな、と思っているな」
と言うて、じいさまの思ったことを、そのまんまぴたりと当てたんだと。
じいさまは、たまげて、
「人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえ」
と思っていると、
「われは、人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえと思っているな」
と言ったと。
-----悟りの化け物をごぞんじか。
人間の思うことをみんな悟ってしまう化け物で、もとは奥山にいたもんだと。
----- ま、しょうがねえ。
火でもたいて当たらせべえと思って柴(しば)を折ると、
それがはね飛んで、化け物の鼻柱のあたりをピンとはじいてしまったと。
「いや、人間ちゅうがん(やつ)は、考えもつかねえことをする。おっかねえもんだな」
と言って、悟りの化け物は、山へこそこそと逃げ込んでしまったと。
いちが栄えもうした。
----- -----福島県南会津郡 -----
ざっとむかしあったと。
じいさまが夜なかに山小屋で、たったひとり火に当たっていらしたと。
すると何かが音をさせないではいってきて、火のはたへ寄って来たから、
「これは性(しょう)の知れない化け物だな」と思っていらしたと。
そうしたれば化け物が、
「われは、性の知れねえ化け物だな、と思っているな」
と言うて、じいさまの思ったことを、そのまんまぴたりと当てたんだと。
じいさまは、たまげて、
「人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえ」
と思っていると、
「われは、人の心の中を見透(みとお)すから、これは悟りの化け物であんべえと思っているな」
と言ったと。
-----悟りの化け物をごぞんじか。
人間の思うことをみんな悟ってしまう化け物で、もとは奥山にいたもんだと。
----- ま、しょうがねえ。
火でもたいて当たらせべえと思って柴(しば)を折ると、
それがはね飛んで、化け物の鼻柱のあたりをピンとはじいてしまったと。
「いや、人間ちゅうがん(やつ)は、考えもつかねえことをする。おっかねえもんだな」
と言って、悟りの化け物は、山へこそこそと逃げ込んでしまったと。
いちが栄えもうした。
----- -----福島県南会津郡 -----