民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「八人芸」 立川 談四楼

2013年11月11日 00時05分01秒 | 伝統文化
 「記憶する力 忘れない力」 立川 談四楼 著  講談社新書 2010年

 「仕事に幅を持たせる厚み」 P-106

 前略

 立川流でいうと、落語だけでなく唄も踊りもということで、それが芸の厚みにつながるのです。
 
 この反面教師が、他の一門のある前座クンです。
ケイコをつけ、「覚えた」というので”上げ”に来たのですが、その落語を聞いて驚きました。
いわゆる”八人芸”と言われる演じ方なのです。

 八人芸とは登場人物を描き分ける時、必要以上に声音(こわね)を変えることです。
女や子どもの声を高く張り、大家や隠居の声を喉を絞って低くするというようなことで、
女を演じる際、何度も襟元に手をやったり、鬢(びん)を掻(か)き上げる仕草もそれに当たります。

 当人は人物になりきっているつもりなのですが、それは表面的ななりきり方で、
八人芸は客からすれば目ざわり耳ざわりでうるさく、落語家としてやってはならないことの一つなのです。

 お客との信頼関係が大切です。
女であること、隠居であることが伝わればいいのです。
お客が了解したらそれでよしで、あとはもう普通に演じればいいのです。
お客の信頼が得られるか否かが、そこにかかってきます。
前座や二つ目がお客に身を入れて聞いてもらえないのはそこに問題があるからで、
また、一瞬のうちにお客との信頼関係を結ぶのは至難の業で、何度も何度も高座に上がり、
ひどい目にあいながら体で覚えていくものなのです。

 中略

 前座クンは、アマチュア落語の経験がありました。
八人芸でウケてきたのです。
それでついということなのですが、プロはそんなあざとい演出はしません。
淡々と語りつつ、お客の頭の中にシーンを現出させるのです。

 後略