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「夜店風景」 立川 談志

2013年11月15日 22時57分13秒 | 伝統文化
 「夜店風景」 「書いた落語傑作選 1」 所載  立川 談志 著

 世の中には偽物売りはいくらもあるが、ここまでクダラナイと心地がいいもんで・・・・・。
サァ、皆サン、諸君、大衆、同胞(はらから)よ、皆集まってくれて「感謝、感謝、雨小便」
いや、冗談はサテおいて、今日は一つ、このセチ辛い世の中、
物質(もの)の値段は上昇(あ)がるが給料は上がらない、
上がらないから「もしも、給料が上がったら」と歌になる。
月給が上がることが現実でなく「夢」なのだ。

 で、諸君、この生活(くら)し難(にく)いこの現在で、いかにしたら、それが楽になるのか、
これが世の人々の希望であり、夢であろう。
その期待が見事に叶う解答が書かれているのが、この本だ。
この薄い本・・・・・本なんて厚けりゃいいてぇもんでない。
肝心な事が書いてないから、厚くなる。
つまり無駄ばかりだ。
物事の本質、真理なんざァ、そのものズバリ短くてすむ。
いや短いものなのである。

 なら、この薄い一冊の本に、どんな内容が詰まっているか、この興味深い内容の一端を紹介する。
五つの項目に分かれている。
まず、その一だ。
何と「一(ひ)と月、十円で食える方法(ほう)」という。
どうだ諸君、君たちは月に何円収入(はい)り、いくら支出(で)る。
何と一と月、十円で食えるのだ。
この答えがこの本の第一章に出ている。
次が凄い。
電気、ガス無くして明るくなる法。
三つ目は、釜無くして飯を炊く法。
四つ目が、酒無くして酔える法。
終わりは、泳ぎを知らずして水に溺れぬ法。
 毎年、夏になると水難の事故が多い。
これを覚えてそれらを無くすこと、また泳げない人は是非これを読んでもらいたい。

 さて、この通り、人生に有為なる事柄を書いた本、
本来、これが書店の棚に並べられると、まずは一円五十銭と値段がつくが、
これはその前の段階だから、本屋の利益が入っていない。
加えて、吾が輩の親切、世のため人のために「この本を読んでほしい」という、素直な気持ちである。
気持ちとしては無料(ただ)で進呈してもいいのだが、吾が輩にもやはり守るべき生活というものがある。
従(だによ)って紙代・印刷代だけだ。
五十銭にしてあげるから、サァ、持ってってくれ。
ハイ、次、ホラッ・・・・・オイオイそこで頁(ページ)を開けるな、読むな、
買わない奴が横から只(ただ)読んじまう。
家に帰ってゆっくり読んで人生の参考にしてもらいたい。
吾が輩は次の場所に行って人々を幸福にしてくるから、アー、グッドバイ。

 どうでえ、いい本にぶつかったねェ。
大助かりだ、「一と月、十円で食えるよ」とよ、えーと、答えは、ナニ?
「ところ天を食え」・・・・・?
ところ天が何で一と月なんだ?
ところ天は「一と突き」・・・・・、アラッ、「一と突き」、「一と月」だ。
そりゃァところ天なら「一と突き、十円」で食えらァ。
巫山戯(ふざけ)てやんねェ・・・・・喧嘩ンならねえ。
ま、これは洒落だよ。
次だ。ね、「電気、ガス無くして明るくなる法・・・・・」。
ナニ?「夜明けを待つべし」・・・・・。
当たり前じゃァねぇか。
夜が開けりゃァ明るくならァ・・・・・。
次は何だ?えーと、そうだ、「釜無くして飯を炊く法」。
「鍋で炊け」
やりやがったな・・・・・。
四つ目は?「酒無くして酔える法」。
「ビールを飲め」「ウイスキーならなおよし」
何ィ、言いやがる。
最後の一つでもありゃ安いけど・・・・・。
五つ目は?えーとぉ、「泳ぎを知らずして水に溺れぬ法」か・・・・・。
「まず裸になれ」
そりゃァそうだ。こりゃァ本物だ。
「裸になって、腹に墨で横に一文字を書く。
・・・・・はあ・・・・・?
まじないかな。
「それより深いところに入るな」・・・・・。
冗談言っちゃいけなぇ・・・・。

「夜店風景」でございます。

 馬風師匠(勿論先代「鬼の馬風」だ)が演(や)った。
バカバカしくて楽しかった。
こんな落語(もの)ァ、どこの落語集にも載るまいから、本書に記しておいた。
・・・・・けどネ、「電気、ガス無くして明るくなる法」は「夜明けを待つべし」はいい。
その通りだ。
間違ってないばかりか、人間の本質を衝(つ)いている。
人間本来明るくなったら寝りゃァいいのだ。
それを明るくして「何かしよう」なんて了見は自然に反する。
黙って夜明けを待てばいいのである。

 時代背景からいえば、その時の「ところ天」の値段でいいのだが、
やはり、「一と月、十円で食える法」というのが私ゃ好きだ。
「一と月、十円」というフレーズはいい。