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「志村 ふくみ」 白洲 正子

2014年04月26日 00時19分18秒 | 雑学知識
 「志村 ふくみ」 出典「美は匠にあり」 白洲 正子 著

 前略

 だが、ふくみさんが草木染めに集中するようになったのは、そう古いことではない。
最初は化学染料でも、同じように染まるのではないかと思っていたが、
併用しているうちに両者の違いがはっきりと見えて来た。
化学染料を用いた作品には、何か異質な感じがあり、植物染料の方は自然と同じ次元にある。
人間の血に通うものがある。
そのことに開眼して以来、彼女は草木染めのとりことなった。
現代でも「草木染め」と称するものは少なくない。
が、どこか感じが暗かったり、泥臭さからぬけきれぬものが多いが、だんだん工夫して行くうちに、
明るく透明な色彩が出せるようになり、これが千年前の日本の色ではないかと信ずるに至った。
同じ木や草にも、切る時季があることも知った。
そういうことを昔の人は、経験から熟知しており、あまり当たり前のことだから、
何も書き残していない。
同じようなことは他にも沢山あって、染め織りに拘わらず、現代の工芸作家が苦心するのは、
そこの所なのである。

 中略

 「いわば花の命を私はいただいているわけですね。
ほんとうは花が咲くことが自然なのに、私が横どりするのだから、申しわけないのですけれど、
織物の上に花が咲いてほしい、咲かせねばならないという責任感が湧いて来て、・・・・・
それでますます深入りしてしまうんですよ」
 「花の命は短くて」というけれども、志村さんの手によって、永遠に生かすことができるならば、
植物にとってこれほど幸福なことはあるまい。
そこに志村ふくみの織物の秘密がある。
同じ染料を使っても、同じ色が出せない作家はたくさんおり、
それは本人のひたむきな努力によるとしても、天性の素質も多分あるに違いない。
志村さんの言葉を真似ていえば、彼女の体内には、自然の花と同じ血が流れており、
同じ次元で脈打っているのであろう。
その証拠には、健康な時には、糸もいい色に染まるし、藍もよく発酵するという。

 後略

 志村 ふくみ(1924年(大正13年)9月30日 - )は、日本の染織家、紬織の重要無形文化財保持者(人間国宝)、随筆家。
草木染めの糸を使用した紬織の作品で知られる。