「大放言」 その20 百田尚樹 新潮新書 2015年
環境を変えれば自分が見つかるのか P-38
「自分探し」の秘密がだんだんとわかってきた。どうやら彼らは自分を取り巻く環境を変えれば、「自分」が出てきて見つかると思っているようだ。外国放浪はそのために必要だったのだ。そして、これまで眠っていた「本当の自分」は、これまでの自分とは比べ物にならないほど素晴らしい存在であると信じているらしい。
一見、納得できる気もするが、冷静に考えると、ひどく他力本願な考え方でもある。
昔は、自分が生まれ変わるためには、何かに必死で打ち込んだり、努力したり、勉強したり、働いたりしなければならないと思われていた。少なくとも私たちの世代、(私は昭和31年生まれ)ではそうだった。ただ、当たり前の話だが、そういう努力は苦しい。できたらもっと効率よく、楽して生まれ変われたら、そっちの方がずっといい。
それで手っ取り早く生み出されたのが、外国へ放浪するということではないだろうか。昔から若者は何か辛いことがあったり大きな挫折を経験したりすると「自分を見つめ直す」「人生を考え直す」という目的で旅に出た。「インドに行ったら人間が変わった」というセリフは、一昔前によく聞いた。失恋した女の子が旅行に行くということもよくあった。あるいはそのまま蒸発ということもあった。まあ言ってしまえば、こどもが泣きながら走って逃げていくようなものだった。
しかし今どきの「自分探し」にそうした悲壮感はない。まるでレジャーみたいにウキウキして「自分探し」の旅に出る。そして前述の青年のように、平気で人前で「自分探しの旅に行きます」と言ってのける明るさがある。また「自分探しの旅」の写真をフェイスブックに随時アップして友人たちのコメントがつくのを楽しんでいる者も少なくない。どうやら現代の「自分探しの旅」というものは、孤独でもなんでもなく「観光旅行」と同じくらい公認された存在になっているようだ。
環境を変えれば自分が見つかるのか P-38
「自分探し」の秘密がだんだんとわかってきた。どうやら彼らは自分を取り巻く環境を変えれば、「自分」が出てきて見つかると思っているようだ。外国放浪はそのために必要だったのだ。そして、これまで眠っていた「本当の自分」は、これまでの自分とは比べ物にならないほど素晴らしい存在であると信じているらしい。
一見、納得できる気もするが、冷静に考えると、ひどく他力本願な考え方でもある。
昔は、自分が生まれ変わるためには、何かに必死で打ち込んだり、努力したり、勉強したり、働いたりしなければならないと思われていた。少なくとも私たちの世代、(私は昭和31年生まれ)ではそうだった。ただ、当たり前の話だが、そういう努力は苦しい。できたらもっと効率よく、楽して生まれ変われたら、そっちの方がずっといい。
それで手っ取り早く生み出されたのが、外国へ放浪するということではないだろうか。昔から若者は何か辛いことがあったり大きな挫折を経験したりすると「自分を見つめ直す」「人生を考え直す」という目的で旅に出た。「インドに行ったら人間が変わった」というセリフは、一昔前によく聞いた。失恋した女の子が旅行に行くということもよくあった。あるいはそのまま蒸発ということもあった。まあ言ってしまえば、こどもが泣きながら走って逃げていくようなものだった。
しかし今どきの「自分探し」にそうした悲壮感はない。まるでレジャーみたいにウキウキして「自分探し」の旅に出る。そして前述の青年のように、平気で人前で「自分探しの旅に行きます」と言ってのける明るさがある。また「自分探しの旅」の写真をフェイスブックに随時アップして友人たちのコメントがつくのを楽しんでいる者も少なくない。どうやら現代の「自分探しの旅」というものは、孤独でもなんでもなく「観光旅行」と同じくらい公認された存在になっているようだ。