―表象の森― 夜色楼台図、国宝に
2.3日前だったか、以前にこの場で触れたこともある蕪村の筆になる縦28センチ×横130センチの横長の墨画「夜色楼台図」が、文化審議会答申で八戸市の風張遺跡から出土した合掌土偶とともに国宝になるという記事を見かけた。
文化財保護法による美術工芸品などの国宝指定はこれで864件になるらしいが、たしか「夜色楼台図」は個人蔵であったから、個人所有の美術品が指定されるのはきわめてめずらしいのではないかと思われ、ちょっとググって国宝一覧なる頁で確かめてみた。かの一覧、ざっと見渡してみても、その所有は博物館や美術館、各地の神社仏閣が連なるばかりで、個人蔵は可翁筆の「寒山図」くらいしか見あたらず、あとは刀剣の類が数点あるのみのようだ。それほどに神戸市の個人が所有するという蕪村の「夜色楼台図」、保存もよく美術品として評価が高いということなのだろう。
「桃源の路次の細さよ冬ごもり 蕪村」
<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>
「花見の巻」-36
花咲けば芳野あたりを駆廻り
虻に刺さるゝ春の山中 珍碩
次男曰く、「花薄」の句以来、芭蕉と曲水は珍碩を肴にして興じている。「花咲けば」の句は、三人三様に風狂の誓いを新たにしていると読んでよく、「虻-あぶ-に刺さるゝ」は珍碩の謝辞でもある、と。
「花見の巻」全句
木のもとに汁も膾も桜かな 翁 -春 初折-一ノ折-表
西日のどかによき天気なり 珍碩 -春
旅人の虱かき行春暮て 曲水 -春
はきも習はぬ太刀のヒキハタ 翁 -雑
月待て仮の内裏の司召 珍碩 -秋・月
籾臼つくる杣がはやわざ 曲水 -秋
鞍置る三歳駒に秋の来て 翁 -秋 初折-一ノ折-裏
名はさまざまに降替る雨 珍碩 -雑
入込に諏訪の湧湯の夕ま暮 曲水 -雑
中にもせいの高き山伏 翁 -雑
いふ事を唯一方へ落しけり 珍碩 -雑
ほそき筋より恋つのりつゝ 曲水 -雑
物おもふ身にもの喰へとせつかれて 翁 -雑
月見る顔の袖おもき露 珍碩 -秋・月
秋風の船をこはがる波の音 曲水 -秋
雁ゆくかたや白子若松 翁 -秋
千部読花の盛の一身田 珍碩 -春・花
巡礼死ぬる道のかげろふ 曲水 -春
何よりも蝶の現ぞあはれなる 翁 -春 名残折-二ノ折-表
文書くほどの力さへなき 珍碩 -雑
羅に日をいとはるゝ御かたち 曲水 -雑
熊野見たきと泣給ひけり 翁 -雑
手束弓紀の関守が頑なに 珍碩 -雑
酒ではげたるあたま成覧 曲水 -雑
双六の目をのぞくまで暮かゝり 翁 -雑
仮の持佛にむかふ念仏 珍碩 -雑
中かに土間に居れば蚤もなし 曲水 -夏
我名は里のなぶりもの也 翁 -雑
憎れていらぬ躍の肝を煎 珍碩 -秋
月夜々々に明渡る月 曲水 -秋・月
花薄あまりまねけばうら枯て 翁 -秋 名残折-二ノ折-裏
唯四方なる草庵の露 珍碩 -秋
一貫の銭むつかしと返しけり 曲水 -雑
医者のくすりは飲ぬ分別 翁 -雑
花咲けば芳野あたりを駆廻り 曲水 -春・花
虻に刺さるゝ春の山中 珍碩 -春
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