<連句の世界-安東次男「風狂始末-芭蕉連句評釈」より>
「灰汁桶の巻」-20
かへるやら山陰伝ふ四十から
柴さす家のむねをからげる 去来
次男曰く、雑の句。二句一幅の、山家の景とみてよくわかる。
「帰る」と「替へる」を通いにした気転がみそで、思付はただの語呂合せだったかもしれぬが、屋根替はとりも直さず家の古巣帰りである、というところまで連想は延びるから、この移しは絶妙な俳を生む。観相の名手と云ってよい。
「かへるやら」は、当然、屋根替をするのだろうか、と読める。一捻り加えれば、あれでも屋根替のつもりか、とも読める。茅葺か、藁葺か、いずれにしろ当座の間に合せに、挿し柴をして破れを繕った家のようだ。
「むねをからげる」は、これも同音で胸を棟に移している。「かへる」の相応とした滑稽で、シジュウカラは周知のとおりネクタイ状の黒い羽根が目立ち、胸絡げとでも異名をつけたくなる小鳥だ。
言葉の取出しが重くれず、軽躁に過ぎず、「うつり」の範とすべき作りだろう、と。
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