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Photo/丁字花の花
―日々余話― Soulful Days-38- 述べられなかった意見陳述草稿-承前
次に具体的な問題点として、本法廷の公訴事実、そのもっとも重要と思われる事実関係について疑問を呈したいと思います。
この記述によれば、被告のMは、「T車を左方約20.5メートルの地点に発見し、急制動の措置を講じたが及ばず」、衝突事故となったとありますが、これが事実だとすれば信じがたいような矛盾があるのではないでしょうか。この事実認定には、まったくリアリティーというものが欠如している、としか私には思えません。
事故直前のT車は70km/hのスピードであったと聞いておりますが、これをMが約20.5m手前で視認したとするなら、衝突時の約1.7秒前となります。もしこの事実が正しいのなら、この時、Mは急制動などせず、そのまま右折直進行為を遂行しさえすれば、この事故は避けられたということになります。それなのにMはいったい何を勘違いしたのか、愚かにも急制動などをして却って事故を招来してしまったと、そんなバカなことがありましょうか、仮にもMは職業運転手です、その彼が咄嗟にこんなバカげた運転行為をしたとするなら、その瞬間、彼は異常なパニックにでも陥り、心神喪失したか、刹那的な発作にでも襲われたというのでしょうか。この事実認定には、そんなありそうもない絵空事でも挿入しないかぎり説明がつかない、これはきわめて合理性に欠けた事実認識と言わざるを得ません。
たしかにMの供述調書には、直進対抗してくるT車の前照灯を認めた、という内容の記述があるようですが、後に彼はこの事実を否定しています。Mが直かに私に語ったところによれば、近づいてくるT車の姿も、前照灯さえも見てはいない、なぜ急制動したか、それは気配とでも言うしかない、そんなものを感じて咄嗟に反応した、とそう言っています。
はたしてMは、T車を見たのか、それとも見なかったのか、これは事故の事実関係の根幹にかかわる問題ですが、本当の事実は、真実はどちらなのか。
私は、MKタクシーからドライブレコーダーの記録データを貰い受けて、その動画資料をつぶさに何度も何度も、それこそ何十遍となく見てきました。そうして得た私なりの結論は、MはT車を現認していない、ただ猛スピードで近づいてくる車の気配に、咄嗟に急制動の反応をしたのだ、というものです。そう考えさえすれば、事故の記録画像においても、またそのタイムテーブルにおいても整合性があり、事実関係はリアリティーもあり合理的なものになるのです。
然らば、T車は、記録画像からも充分に覗えることですが、前照灯を点灯していなかった、無灯火であり、なおかつ70km/h以上の、危険きわまる無謀運転に等しいものであった、ということになりましょうし、さらにつけ加えるならば、Mの「T車を見た」という供述の背後には、彼に対する西署の予断に満ちた取り調べ、といった一抹の疑念までも浮かび上がってくるのです。
事故の起こった衝突時より約1.7秒前、それは70km/h以上のスピードで20m近くにまで迫ってきた直進対抗車、T車の、それは路面から伝わってくる微振動音などの所為だったかも知れませんが、とにかく正体の知れぬ何者かが迫り来るような気配を感じて、Mは咄嗟に急制動をした。対抗直進車のTが前方のM車の急制動に気づいたとて、この時はすでに遅すぎる、彼もまた咄嗟に急制動をしようとした筈だが、ブレーキ痕を残すこともなく、激突したと、これが事故原因の根幹にかかわる事実関係なのだと、ドライブレコーダーの記録画像を自分なりに検証した時点から、私はそう確信してきました。
翻ってみれば、被害者家族として、西署における初動捜査に、まず大いに疑問を感じずにはいられません。夜間の事故であるにもかかわらず、なぜ、事故直後の簡単な現場検証と、あらためて二者の車の実況見分だけで了としたのか。実況見分の際に、ドライブレコーダーを見る機会を得たものの、この静止画から数葉の写真を撮影しただけで、この全体を証拠資料として充分に活用せず、また日中の明るい時間帯に詳細な現場検証をしなかったのはどうしてなのか、理解に苦しまずにいられません。
さらに、検察の取り調べ段階のなかで、私たち遺族は、ドライブレコーダーを証拠資料として挙げ、本件事故の原因となった過失は、むしろT.Kにこそ重くあるのではないかと主張、T.Kに対する告訴状をもって、事実関係の真の解明をお願いしてきましたが、ほぼ1年をかけたその検証の結果は、私たちの期待も虚しく、検察へと送致された西署の調書事実を追認、補強する躰に終始したようにしか覗えないことは、まことに残念、痛恨の極みと言うしかありません。
現在、本法廷が開かれる仕儀に到ったのは、検察の取り調べの結果、その採られた措置が、M.MとT.Kの二者に対し、Mには公判請求、Tには起訴とはいえ略式起訴であったからですが、もう一つ別の視点からも、首肯できない問題点を感じています。それは刑における相対主義とでもいうべきものでしょうか。
当初、本件の取り調べを担当した前検事は、初めて私たち遺族が大阪地検に伺い、面談をした際、Mを略式起訴に、Tを不起訴処分にと、そういう判断を示したのですが、この判断に抗って私たちがTへの告訴をするという展開になりました。その後、担当検事が代わり、再捜査というか、ドライブレコーダーを含めた取り調べがようやく始まった訳ですが、その挙句の果てが、Mは略式起訴から公判請求の起訴へ、Tは不起訴から略式起訴へと、謂わば単純にそれぞれの刑の要請を嵩上げした、相対的に重くしただけである、ということ。
いわゆる民事における損害賠償などの問題対処においては、損保会社などのいう、やれ5:5、やれ7:3などの過失割合といった数比に収斂していかざるを得ないのは一応理解できるとして、刑の科料という問題場面においては、事実関係の解明度、透明度は、それこそケースバイケースで千差万別であるにもかかわらず、同じように相対主義が貫かれようとするのは、結果として隠れてある事実関係というものを却って歪曲することにもなりかねない、そんな危惧を抱かざるを得ないのです。
仮に、事実関係の再捜査、再検証の結果、T車の無灯火や無謀な危険運転について疑わしいと言わざるを得ない、疑わしいには違いないが断定するに到らない、おまけに今更彼の供述を覆させることも困難至極、あり得そうもないとすれば、疑わしきは罰せずとするしかない。そうであるなら、当然のごとく、Mの過失も初動捜査における調書のごとくである筈もない。本件事故の事実関係におけるもっとも重要な部分が、さまざま可能態は想定出来ようとも全容解明には到らず、不透明なまま残されざるを得ない。事件の本質に迫りえぬ以上、事実関係の解明が100%できぬ以上、その解明できた部分においてしか、刑の要請もできない、とするべきではないでしょうか。
事故から1年8ヶ月を経て、こうして本法廷に臨むこととなった今、私の胸に去来する哀しみや苦しみは、たんに娘・RYOUKOの死を傷むことからくるばかりではありません。いわゆる巷間伝えられるところの、交通事故遺族の受ける二次被害なるもの、事故原因の追求、事実関係解明の全過程、警察における捜査や取り調べを経て、さらに検察における取り調べ、そして審判といったすべてのプロセスを通して、事故被害者の家族として私たちもまた、娘・RYOUKOの突然の死とは、別の苦しみや哀しみ、傷みというものを、この間ずっと、感じ、抱きつづけてきたのだということを、どうかご理解戴きたいと思います。
最後に、以上綴ってまいりました次第をもって、何卒、被告M.Mの過失認定において多大の減殺あるべきものとご判断戴き、同じく科料につきましては軽微なるをもってご裁決戴きますよう、被害者家族を代表し、切にお願い申し上げます。
平成22年(わ)第××××号 自動車運転過失致死傷被告事件 担当裁判官 殿
―山頭火の一句― 行乞記再び -67-
3月5日、すべて昨日のそれらとおなじ。
大隈公園というのがあつた、そこは侯の生誕地だつた、気持のよい石碑が建てられてあつた、小松の植込もよかつた、とごからともなく花のかをり-丁字花らしいにほひがただようてゐた、30年前早稲田在学中、侯の庭園で、侯等といつしよに記念写真をとつたことなど想ひ出されてしょうぜんとした。-略-
子供といふものもおもしろい、オコトワリオコトワリといつてついてくる子供もゐるし、可愛い掌に米をチヨツポリ握つてくれる子供もゐる、彼等に対して、私も時々は腹を立てたり、嬉しがつたりするのだから、私もやつぱり子供だ!
佐賀市はたしかに、食べ物飲み物は安い、酒は8銭、1合5勺買へば十分2合くれる、大バカモリうどんが5銭、カレーライス10銭、小鉢物5銭、それでも食へる。
緑平老の厚意で、昨日今日は余裕があるので、方々へたよりを書く、5枚10枚20枚、何枚買いても書き足らない、もつと、もつと書こう。
※表題句の外、4句を記す
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Photo/佐賀城付近にある大隈重信生誕の家
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Photo/大隈重信記念館を左に見ての大隈公園
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