山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

何か捨てゝいった人の寒い影

2010-01-07 23:55:07 | 文化・芸術
Dancecafe081226176

-日々余話- たかが一枚の写真、されど‥

昨日、逝き去りし人々を綴りながら思い出したことなのだが‥。

森繁久弥が96歳の大往生を遂げたのは11月10日だったが、政府官邸は故人に国民栄誉賞を贈ることを決め、その表彰式が暮れも押し迫る頃に執り行われたという記事の、これに添えられていた写真を眼にして、どうにも腑に落ちぬ、違和を抱いてしまったのであった。

総理官邸で行われるのが通例というこの表彰式に、故人の次男を筆頭に孫やひ孫らがこぞって出席するということ自体は、なにを言うほどのこともない、晴れの慶び事を家族みんなで享受することに、誰も異論を唱えようとは思わないだろう。

だが、鳩山総理を中央に、平野官房長官や川端文科相ら政府高官が列したなかに、孫ひ孫までうち揃って麗々しく並んだ記念撮影の写真が、報道写真として政治経済総合面に掲載されるというのは、ちょいとおかしいんじゃないのかと私などは思わざるをえないのだ。

森繁といえば、それまでいささか癖のある芸風の喜劇俳優だった彼が、老若男女万人に親しまれる好々爺のイメージが定着するようになったのは、TVのホームドラマ「七人の孫」-'64~'66-あたりからだろう。そんな森繁イメージを髣髴とさせるがゆえ許容された報道写真であったかとも見なしうるが、その姿勢、たかが一枚の報道写真なれど、やはり首を傾げたくなる。

―山頭火の一句― 「三八九-さんぱく-日記」より-19-
1月15日、晴、三寒四温といふがじつさいだ。

少々憂鬱である-アルコールが切れたせいか-、憂鬱なんか吐き捨ててしまへ、米と炭と塩があるぢやないか。
夕方からまた出かける-やつぱり人間が恋しいのだ!-、馬酔木さんを訪ねてポートワインをよばれる、それから彼女を訪ねる、今夜は珍しく御機嫌がよろしい、裏でしよんぼり新聞を読んでゐると、地震だ、かなりひどかつたが、地震では関東大震災の卒業生だから驚かない、それがいい事かわるい事かは第二の問題として。

けふは家主から前払間代の催促をうけたので、わざわざ出かけたのだつたが、馬酔木さんにはなんとしてもいひだせなかつた、詮方なしに、彼女に申し込む、快く最初の無心を聞いてくれた、ありがたかつた、同時にいろいろ相談をうけたが!

彼女のところで、裏のおばさんの御馳走-それは、みんなが、きたないといつて捨てるさうなが-をいただく、-略- 何といふ罰あたりだらう、じつさい、私は憤慨した、怒鳴りつけてやりたいほど興奮した。

今日で、熊本へ戻つてから一ヶ月目だ、ああこの一ヶ月、私は人に知れない苦悩をなめさせられた、それもよからう、私は幸いにして、苦悩の意義を体験してゐるから。

※表題句の外、8句を記す


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一把一銭の根深汁です

2010-01-06 23:48:08 | 文化・芸術
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-日々余話- 逝き去りし人々

これまた遅まきながら、昨年に物故された人々の一覧から気の向くままに列挙してみる。

1月30日、長年月のシベリア抑留経験を持つ文学者内村剛介は享年88歳だった。

2月になると、2日に長距離打者として長島・王に先行して活躍した山内和弘-76歳-、15日にはノーベル賞の有力候補と目されていた素粒子学者西島和彦-82歳-が、21日には歌舞伎界の最長老だった中村又五郎-94歳-が鬼籍の人に。

3月、後半生は日舞の家元としてまた市川猿之助の伴侶として波乱の人生を生きた女優の藤間紫-85歳-は27日、大阪にわか師でもあった噺家露の五郎兵衛-77歳-は30日に、そして俳優の金田龍之介-80歳-が31日に。

4月、14日に改憲論者でもあった作家の上坂冬子-78歳-。

5月、さよならイベントに多くのファンがつめかけたロック歌手忌野清志郎-58歳-は2日に、本業の碁以外にも数々の武勇伝?を残す豪放異才のしゅうこう先生こと藤沢秀行-83歳-は8日、切り絵作家の滝平二郎-88歳-は16日、中島梓の異名でもマルチの才能を発揮したSF作家栗本薫が56歳という若さで逝ったのは26日。

6月、ペルソナ-仮面-やかたり-騙り-の哲学者坂部恵-73歳-は3日、二代目タイガーマスクとして華麗な活躍を見せたプロレスラー三沢光晴-46歳-は13日。

7月、「甘えの構造」の精神分析医土居健-89歳-は5日、そのアナーキーな行動と著作がカルチュラル・スタディーズの先駆とも評される平岡正明-68歳-は9日。

8月、フジヤマのトビウオ-古橋広之進-80歳-が2日に、6日にその孤独死を発見された女優大原麗子-62歳-は推定3日、同じく俳優の山城新伍-70歳-は12日。

10月、もうろう会見で大臣を辞任した中川昭一-56歳-が3日-推定-に不審死、旧制弘前高校で太宰治と同期だったという作家石上玄一郎-99歳-は5日、フォーク・クルセダーズの加藤和彦-62歳-は17日、女優の南田洋子-76歳-は21日、笑点の司会をつとめた落語の三遊亭円楽-76歳-は29日に。

11月、大衆芸能畑では初の文化勲章受賞となった森繁久弥-96歳-は10日、動物行動学者の日高敏隆-79歳-は14日、戦前は少女歌劇のスターとして活躍し、戦後は日活映画のプロデューサーとして石原裕次郎らをデビューさせた水の江滝子-94歳-は16日、'51年の渡仏以来、パリに居住して制作を続けた抽象画の田淵安一-88歳-は24日に。

12月、仏教やシルクロードを題材とした作品群は現代画壇では最高峰の評価を獲ている日本画の平山郁夫-79歳-は2日、沖縄民謡の第一人者として戦後から活躍してきた喜納昌永-88歳-は24日に。

海外では、ノムヒョン前韓国大統領が5月23日に、彼の場合不正資金疑惑の捜査を苦にした自殺かと見られている、6月25日には世界中に衝撃を与えたマイケル・ジャクソンの不審死があり、つづいて30日、鬼才の現代舞踊振付家ピナ・バウシュ-68歳-、7月26日にはパプニング以降の現代舞踊をリードしたマース・カニングハム-90歳-、金大中元韓国大統領-85歳-が8月18日に、冬季五輪アルペンの覇者で、後に映画俳優に転身したトニー・ザイラー-73歳-が同月24日に、「悲しき熱帯」の構造主義的社会人類学者クロード・レヴィ=ストロース-100歳-が10月30日に逝った。

―山頭火の一句― 「三八九-さんぱく-日記」より-18-
1月14日、曇、降りさうで降らない雪模様、しかし、とにかく、炬燵があつて粕汁があつて、そして-。

東京の林君から来信、すぐ返書を書く、お互いに年をとりましたね、でもまだ色気がありますね、日暮れて途遠し、そして、さうだ、そしてまだよぼよぼしてゐますね。‥

先夜の吹雪で吹きとばされた綿入遂に不明、惜しい品でないだけ、それだけ考へさせる。

※表題句の外、3句を記す


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雪もよひ、飯が焦げついた

2010-01-04 22:35:26 | 文化・芸術
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-四方のたより-
三が日も過ぎて、写真の如く、やっと年詞啓上

―山頭火の一句― 「三八九-さんぱく-日記」より-17-
1月13日、曇、今日もまた雪でも降つて来さうな。

苦味生さんから、方向転換の手紙が来た、苦味生さんの気持は解る-苦味生さんに私の気持が解るやうに-、お互に、生きる上に於て、真面目であるならば、人間と人間とのまじはりをつづけてゆける、めいめい嘘のない道を辿りませう、といふ意味の返事を出しておいた。

昨夜も夜明の鴉がうたふまで眠らなかつた、いろいろの事-おもに、三八九の事-が気になつて寝つかれなかつたのである、私も案外、小児病的で恥づかしい。

※表題句のみ記す


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凍テ土をひた走るバスも空つぽ

2010-01-02 20:36:10 | 文化・芸術
Dscf1171

-四方のたより- 離島のご来光

冬の八重山諸島は
どんよりと厚い曇に覆われて
海も荒れ模様つづきの小旅行だったが
旅も終わりを迎えた元日の朝
此処は小浜島の、とあるホテルのレストラン
どうした僥倖か
雲の切れた青空に
ほのかに紅色を帯びて輝く太陽が
やさしい光りを届けてくれていた

―山頭火の一句― 「三八九-さんぱく-日記」より-16-
1月12日、曇、陰鬱そのものといつたやうな天候だ。

外は雪、内は酒-憂鬱を消すものは、いや融かすものは何か、酒、入浴、談笑、散歩、等、等、私にあつては。

夕方から熊本へ出かける-ここも市内だけれど、感じでは出かけるのだ-、元寛さん、馬酔木兄さんに逢ふ、別れて宵々さんを訪ねる、御夫婦で餅よ餅よと歓待して下さる-咄、酒がなかつた、などといふな-、私はこんなに誰からも歓待されていいのだらうか。

※表題句の外、3句を記す


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