あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第八十三章

2021-11-13 00:28:03 | 
Qui tollis peccata mundi

わたしの子羊たちは、何処へ行ってしまったのだろう。
わたしが愛され、愛しつづけた子羊たちは、何処かへ行ってしまった。
わたしは聴いていた。
彼らがその柵を超え、別れを告げる為、わたしの家のドアを叩く音を。
わたしは眠っていた。
彼らは一晩中、寒さに凍えながら、わたしを呼んでいた。
わたしは静かな闇のなかで、その音を聴いていた。
夢のなかで子羊たちはわたしに合図を送った。
そのときが来たと知らせ、
もうすぐ此処を去り、当分もう此処へは戻っては来ないことを。
彼らはわたしにあの夜囁いた。
”すべては終り、すべてはもうすぐ終る。”
夜明けを喪う永い永い夜が来ると。
でも忘れてはならない。
あなたはあなたを、忘れてはならない。
あなたに光を取り戻すことのできる者は、あなただけであると。
彼らは音もなく、わたしにそう囁いた。
わたしの罪の為に苦しみ、犠牲となって死んだ者たちの、
輝き続ける星空の観えない、
この闇のなかで。













Qui tollis peccata mundi,
Tolerare ruinam mundi hic.


世の罪を除き給う子羊よ、
此処では世の堕落(破壊)を赦し給え。















Stina Nordenstam - Murder In Mairyland Park  



















愛と悪 第八十一章

2021-10-24 15:47:47 | 
おお、わたしの天よ。
父と母とわたし、その三位一体。
我が最愛の存在、エホバよ。

曇り空の下、三人の天の御遣い達が、トルマリンの泉で水浴している。
星空の下、フローライトの石ころが彼等の足を清らかにし、その深い傷口を癒やす。
天は一人の太陽神を、この地に与えた。
地はその割れ目から、六角柱の光を天に向かって突き立てるとき。
彼等は微笑む。
きみが倒れようとも、天は何度でも、きみを支え、歩かせてくださる。
何度忘れようとも、その手のあたたかさを、きみに懐いださせてくださる。
天は独り、きみを、この地に置き去った。
ゆえに、寂しさが、わたしを支配する。
太陽と月と地球、この三つの星を、天はきみに与えた。
渇いた地から、虹色に輝く水晶のPointが聳え立つとき。
彼は立ち上がる。
きみを待っている。
激しい風が、すべての水面一面に、Lace状の干渉縞をつくる。
透明の水の葉たちは天に向かって伸び、無数の花を咲かせる。
そのほころびから、種たちが地に落ちる。
わたしはきみを、この地に置き去る。
きみにすべてを与える。
地の下では三人の天の御遣い達が、鼓動の波を静かに聴いている。
彼等は囁く。
天はきみに語りかけている。
「此処にあるすべてのものを、きみに与える」と。
天は一つの息吹を、彼に分け与えた。












Oh, my Sky.
Father, Mother, and I, the Trinity.
My beloved being, Jehovah.

Under a cloudy sky, three heavenly angels bathe in a tourmaline spring.
Under the starry sky, fluorite pebbles cleanse their feet and heal their deep wounds.
The heavens have given the earth a single sun god.
When the earth thrusts a hexagonal column of light from its cracks toward the heavens.
They will smile.
Though you fall, the heavens will support you and make you walk again and again.
No matter how many times you forget, it will bring back to you the warmth of its hands.
Heaven has left you alone on this earth.
Therefore, loneliness overtakes me.
The sun, the moon, and the earth, the heavens have given you these three stars.
When the iridescent crystal point rises from the thirsty earth.
He will rise.
He is waiting for you.
A violent wind creates lace-like interference fringes all over the water.
The leaves of transparent water stretch toward the sky and bloom into countless flowers.
Seeds fall to the ground from the tips of the leaves.
I will leave you on this earth.
I will give you everything.
Beneath the earth, the three heavenly angels are quietly listening to the waves of the heartbeat.
They whisper.
The heavens are speaking to you.
"All that is here, I give unto thee."
The heavens have given him one breath to share.

































曇り空の下、3人の天上の御使いがトルマリンの泉で水浴びをする。
星空の下、フローライトの小石が彼らの足を清め、深い傷をいやす。
天は地にひとりの太陽神をあたえた。
地球がそのわれめから六角形の光のはしらを天に向かって突きだすとき。
彼らはほほえむだろう。
転んでも、天はきみを支え、何度でも歩かせてくれる。
何度忘れても、その手のぬくもりを、きみに取り戻す。
天はきみをこの地上にひとり残した。
だからこそ、孤独がわたしを覆う。
太陽、月、地球、この3つの星を、天がきみにあたえた。
虹色の結晶点が渇いた地球から立ちあがるとき。
彼はよみがえる。
彼はきみを待っている。
激しい風が水のうえにLaceのような干渉縞を一面に作る。
透明な水の葉が空に向かって伸び、無数の花を咲かせる。
葉のさきから種が地面に落ちる。
わたしはきみをこの地上に残す。
きみにすべてを与える。
地球の下では、3人の天上の御使いがしずかに鼓動の波を聴いている。
彼らはささやく。
天はきみに語りかけている。
「ここにあるすべてのものを、汝に与える」と。
天は彼に、ひとつの息吹を与えた。


















愛と悪 第七十章

2021-01-06 17:16:03 | 
天にいるきみは、三股の麓へ。エホバ。
砂漠へ向かう全てに対して、グッド・バイ。
そして独りで、砂漠へ向かう。
別々の太陽へ、水平の波を削りながら血迷う在りし日の綻び。
彼は今日死んだが、明日は眠っていて、昨日は生まれる。
君が夕べ、削ぎ落とした者たち。
自由の果てで、善悪を喪う。
夜が終り、何もなくなる。
君は殺される為だけに、生まれた。
偽善者たちよ。
君は愛されないまま、死ぬ。
荒野の果てに、父と母と子の交わりの悪夢のなか。
今日望んだ者たちは死に、明日求む者たちに、栄光の、ファラリスの雄牛を。
夜が終り、誰も彼も、夜を失う。
まだらに溶け合い、肉と灰が、ひとつの絵を描く。
それを観た一人の芸術家が、自分を殺す。
美しい陽溜まりのなか、枯葉が彼を覆う。
風は音を拒み、静かな夕闇がそっと彼を撫でる。
消えかける日が、最後の言葉を拾う。
際限なく、我らに、悲しみを与え給え。
あなたの憬れどおりに、わたしは死を装う。



















The Green Kingdom - Wetlands




















Hell Ensemble

2019-09-27 16:04:32 | 
共に地獄へ。

行けたなら。

どんなにか、

報われるだろう。

ぼくらは。

もはやそこは

争いも、

痛みもなく

掟もない。

人々は何も

観ない。

うつろいゆくだけ。

何もかもが。

季節のように。

音もなく。

さまよいつづける。

ひとつの波に溺れ。

すべてを見喪う。

愛する者すべてを。

喪い続ける。

それでも。

生かされ。

無に帰し。

生まれ。

わたしたちはすべてを繰り返す。

共に地獄に生きたこの経験を。

何に生かせられる。

何を生かせられるのか。

この闇の果に。

わたしたちは生かされ。

共に死にゆく。

何を贈ろう。

わたしたちすべてを創り賜うた、

愛するその存在へ。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hell Ensemble


I'm Not Human At All

2019-09-11 16:27:54 | 

彼の細く美しい脚は切断されるために在ったのではなく、雨の降ったあとの瑞々しい草原を駆けるために在った。
彼女の滑らかな首はナイフで切り裂かれるために在ったのではなく、愛しい我が子に頭を擦り寄せられるために在った。
子どもたちが鳴いている。
光の届かない無機質な冷たい部屋のなかで。
彼らのすべては、人間に食べられる為ではなく、彼らのすべては、生きてゆく為に在った。
僕には歩くことのできる足がある。
彼らの足は、切断された。
彼らのすべては、醜い肉片となり、何一つ、想うことも、喜ぶこともない。
彼の足は、もう歩くことはできない。
彼の足は、切断される。
明日に。
心臓の鼓動が止まらぬ間に。
彼はもう、生きてゆくことはできない。
彼はもう、歩くことはできない。
彼の鼓動は明日の朝に、動かなくなる。
彼の身体はもう、動かない。
彼らは人間ではない。
彼らは最早、生命でもない。
彼の生きていた場所に、腐敗してゆく肉片が転がっている。
彼が歩いていた場所に、彼の切断された脚が転がっている。
彼女が我が子の頬に擦り寄せたその頬は、冷たいコンクリートの床にある。
明日に。

すべての人間の明日に。

僕らはまったく人間じゃない。
僕らには、心がない。
僕たちは、何の心も持っていない。








Sleep Party People - I'm Not Human At All


Life as One

2019-08-28 01:39:06 | 

きみはぼくを苦しめるために生まれてきた。
きみはぼくを喜ばせるために生まれてきた。
きみは太陽と花冠をぼくに与えるために生まれてきた。
きみはぼくから去り、ぼくを悲しませるために生まれてきた。
きみは自由を離し、束縛を手に入れた。
きみは束縛を離し、自由に帰る。
きみは安楽を棄て、ぼくを選んだ。
きみは愛されることと、愛されないことを同じだけ求めた。
きみは透明な波のなかで、ぼくの生まれる音を聴いた。
きみは固まった空のなかで、ぼくを想像した。
それはきみだった。
もうひとりの、きみだった。
ぼくたちは今、別々の苦しみを経験している。
ぼくたちはひとつだった。
ぼくたちはひとつの生だった。
ぼくたちは今、同じ悲しみのなかにいる。
ぼくたちはひとつの固まった空だった。
具象化された固い空は、柔らかい海を映していた。
ぼくらを映していた。
波がぼくらを渫うまで。
きみの空は、ぼくの海を映している。
海が、きみを映さなくなるまで。
きみはぼくのそばにいて、いつか、見えなくなる。
そのときぼくらはひとつになる。
ぼくたちはひとつの人生だった。
遠くはない未来。
ぼくらはひとつに戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Life as One

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


If This World Were Mine

2019-07-26 20:00:22 | 
僕は僕が死ぬ日に、命が吹き込まれるだろう。
邪悪な天使は、僕を傲慢にし、
この世界に生まれ堕ちた日、君は祝福された。
僕のマザーはサインを送り、忠実を祈る。
君の下僕であり、揺り籠のなかのこどもたちに。
君は僕に約束し、僕を預言者にする。
君のマザーは、君を連れて行った。
君のファザーは、彼らから隔離した。
君は彼の子供を運んで、夫のいない母と、息子のいない父を創った。
声が在り、君を下の方から呼ぶ。
”絶望してはならない。”
”主は、あなたの足元に”
”その水面を自分の足で走る小川を与えられた。”
声が在り、下から君を呼んだ。
”この世界がわたしのもので在る為”
”わたしはあなたの足元に跪く”
”わたしは見た。わたしの所有する全て”
”それはわたしとあなたに、とても良かった”
声が在り、下から君に呼びかけた。
”この世界が僕のものだったならば”
”僕は君に花や鳥、そして蜜蜂を贈るだろう”
”僕のなかに、あなたの愛を持つ為に”
”それは僕が必要とする全てとなるだろう”
君は言った、”あなたがわたしに触れないとき、どうすればあなたは生まれますか”
僕は答えた、君が僕を恐れるのならば、”近づかないでください”
僕は言った、”僕があなたに触れないとき、どうすれば僕は生まれますか”
君は答えた、わたしがあなたを恐れるのならば、”近づかないでください”
下から声が在り、君を呼んだ。
”この世界が僕のものだったならば”
”僕は君が望んでいるものすべてを創造する”














Marvin Gaye – If This World Were Mine (Claes Rosen Remix)





















此岸

2019-06-07 02:09:13 | 
俺は人間を愛しているのかな。
俺は人間を、愛しているのかな。
俺は人間を。
そのゆくえを、ずっと追っている。
でも影のように、それが見えない。
此処は真っ暗だ。
僕は人間のゆくえが、見えない。
自殺志願者は、何も見ず、墜ちてゆく。
床を外した、家の中。
そこに、君の知らない闇が存在している。
手を伸ばしても、愛する者の手に、届くことはない。
彼らは、そこにいるのか。
形を喪った死体たちは今日も、歌っている。
美しく、悲しい歌を。
宛もない道を、誰も乗っていない車はずっと走ってゆく。
その車を、二度と、光は差さない。
生命という名の灯(ぬくもり)を、もう二度と、感じることはない。

















暗灯

2019-06-06 02:40:19 | 
今、きみを知るとき。
きみが生まれる。
宇宙の、見えない場所で。
きみには未来もなく。過去もなく。
今もない。きみは今も、いない。
きみには夢もなく。世界もなく。
星もない。きみは今も、観ない。
今、時が過ぎ去るとき。
きみが生まれる。
闇の底の、独りの宇宙で。
静かに一つの生命が、消滅してゆく。
その姿を、今きみは見ている。
安らかにきみの星が、滅びゆく。
神はきみを、ゆっくりと、忘れゆく。
神はもう、きみを作らない。
君はもう、作られない。
かつて在ったものだけを、きみと呼ぶ。
かつて在ったものは、きみのすべて。
神はもう、きみを観ない。
同じものは、作られない。
かつて在ったすべてを、神はきみと呼ぶ。
未来に在るすべてを、きみと、神は呼ぶ。
今ここにあるすべて、神は、きみと呼ぶ。
君は安らかに、静かに、眠るように、消えてゆく。
神は安らかに、静かに、眠るように、消えてゆく。
まだ作られていないものだけが。
息をせず、眠っている。
きみの眠る、その隣に。











Thom Yorke - Unmade












情熱のきみ

2019-05-24 10:45:04 | 

あの時きみは、本当の言葉を、二つ言った。
『だれに向かってお前ゆうてるねん。』
『俺のせいで寝たきりなってるとか、そんなん知らんやん。』
このたった二つだけが、確かにきみの本当の言葉だった。
ぼくはその時のきみが、一番好きだ。
あとのきみは、その時と比べ物にならないほど、くだらなくてつまらない存在だ。
ぼくは、きみの本当の言葉を聴きたかった。
ぼくは、本当のきみを知りたかった。
それ以外、それはきみではない。
ぼくはそのなかに、本当のきみが隠れていることを知っていた。
ぼくは本当のきみだけを見ていた。
そしてそれが、何より冷たいことを知っていた。
生きていないのに、生きている振りをしているそれは、滑稽であった。
ぼくの側で、きみは頑張っていた。
太陽を飲み込んで、爆発しかけている河豚のように。
きみはぼくの隣で、拗ねながらも、頑張っていた。
病棟の薄暗い灯りが、きみを照らしていた。
ぼくはあの瞬間、散らばり。
情熱の欠片たち、破片たち。
いま違う星で、ぼくとは別の日常を営んでいる。
ぼくは夢で、いつもぼくの情熱の欠片たちに、話し掛ける。
ぼくの情熱の欠片たちは、ぼくを苦しめる。
ぼくはあの瞬間、ぼくから散らばったぼくの情熱の欠片たちに向かって、泣き叫ぶ。
『なんでぼくの苦しみを、わかろうとしてくれないんですか。』
ぼくの情熱の欠片は、ぼくに向かって、冷静に答える。
『わかろうとしました。わかろうとしましたが、わからないんです。』
涙声で、ぼくはぼくの情熱の欠片に向かって言う。
『こんなに苦しんでるぼくの苦しみが、わからない可哀想なきみだから、ぼくは愛したんだ。』
ぼくの情熱の欠片は、半笑いでぼくに答える。
『別にぼくは可哀想ちゃいますけどね、ぼくはそれでも幸せだからいいんですけどね。』
その瞬間、またぼくは散らばり。
ぼくの情熱の欠片と、ぼくの情熱の破片が、対峙した。
ぼくは目を覚ました。
何と無し、悲しい夢を見ていたという感覚が、ぼくを目覚めさせたが、情熱の欠片であるぼくは、なにひとつ、覚えさせてはもらえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


いま或る場所

2019-05-22 09:41:51 | 
もう何も言うな。
あのままね、ずっとずっと。
何も起こらないより。
今のほうが、無限に。
美しい。
世界は血塗れていて。
縹色の空が、今日も眩しい。
世界は拷問の果に、記憶の操作をしている。
もう何も言うな。
小鳥が今日も、小魚と会話している。
黄金の糊を、自害した人々に塗り手繰りながら。
今日も子鳥たちが、子魚たちと話をしている。
もう何も、言うてくるな。
俺に。
誰に向かって、お前ゆうてるねん。
脳だけが観ている夢。
そのなかで、肉体が浮遊している。
もう金輪際、ホームヘルパーは利用しない。
俺は接ぎ木に、約束す。
時間と時間の、その間の空白にある。
その接ぎ木。俺の願いが、吊るされ。
蠢いていた。水色の部屋の中で。
家族の死体を編み込んで、巨大な時間を作る。
それは動かない。
それは動き出す。
籾殻を取った素粒子の感覚のなかに。
それは自由を伴い。
それは綱で繋がれ。
いま或る場所を、解き放つ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

自壊する錘、天から垂れたり。

2019-05-22 08:22:53 | 
朝起きて、酎ハイ飲みながら、シムズ3。
俺はまた、その日常に、戻ってきた。
ははは。やめたってん。俺はやめたった。
何を?それを聴く?きみは聴く?
愛するきみ。俺を、俺の話を聴いてやれん。
ありがとう。俺はきみを、待っていた。今。
今、俺はきみを待っていた。
きみだけを。
呪いたくて。
きみだけを。
責めたくて。
きみだけを。
殺す。
その未来。
ぼくを待ち受ける。
悲しみの陽。
今ここで、揺れ動く。
全体の、波。
きみがここで今叩く。
ドラム音の残響。
柵から解放された。
爽やかな笑顔。
死殻身を開けたら。
夢。
精神の拷問を、きみは歌う。
何者にも優る夢。
何物にも誓う鉦。
鳴らしつつ。
素麺で繋がれた、手縄。
垂れ流す虹の如雨露。
こころ侘びて、詫びしくて。
自壊する錘、天から垂れたり。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

iが終わり、きみがはじまる。

2019-05-18 17:57:08 | 
iが終わり、きみがはじまる。

きみは、iがない。

iは、きみのなかにない。

終わったあと、きみは生きてきた。

でもきみは、やっと見つけた。

きみは、iを見つけた。

ちいさな、肉体を纏ったそのi。

きみははじめて、iを見つける。

はじめて、きみはiと出会う。

ちいさく、それがきみに向かって、微笑みかける。

きみはそれを、そっと抱き上げる。

ちいさなちいさなその手を、握る。

それはきみに向かって、微笑む。

きみを、求める。

それはちいさな手で、きみの手を掴む。

きみの、その大きな手を、それは求める。

きみは、父親になる。

iの望む父親。

iの求む父親。

iを、愛する父親。

iはきみを、求める。

きみは、iを一から、育てる。

ずっとずっと、それを願っていた。

あたたかい、ちいさな手を、冷たい、大きな手で、触れる。

きみはiを、なにより愛する。

なにより、慈しむ。

ゆいいつの、光。

ほかは、闇のなか。

遠くで、どうぶつたちの、悲鳴。

ほかは、闇のなか。

きみは、安心し、おそれる。

闇のなか。

ああ、とても、悲しい関係だった。

ぼくとお父さん。

ゆいいつの、光。

ゆいいつの、闇。

だれより、愛したかった。

だれより、愛されたかった。

ゆいいつの、i。

もうとっくの昔に、それはきみと共に、終わった。

すべてが喪われ、そこにはだれも、いなかった。

闇のなか。

だれも、いなかった。

お父さんも、ぼくも。

いなかった。

お父さんは、ぼくを助けられなかった。

ぼくは、お父さんを、助けられなかった。

だれも、そこに、いなかった。

静かだ。

とても。

だれも、まだいない。

ぼくには。

でもきみは、iを見つけた。

そしてその終わりを、きみはいま見ている。

闇のなか。

ゆいいつの光を、握り締め。

きみはその終わりを、今見ている。

なぜだろう。

不思議なんだ。

闇のなかを、きみは今、見ている。

きみと、きみに抱かれる息の子を、闇はじっと、見つめている。

iを、きみはみずから、手放す。

なぜだろう。

とても不思議なんだ。

いったいそれは、なんだろう。

それは、なんだろう。

iはきみを、切実に求めている。

きみは、iを手放す。

本当に不思議なんだ。

きみはiを、切実に、なにより求めている。

iは、きみを終わらせる。

なにも、なにも、そこにはない。

なぜなんだろう。

とても不思議だよ。

闇は、iを包み込む。

もう二度と、目を覚まさない、眠りのなかへ。

iは、きみを、包み込む。

闇のなか。

とてもとても静かな。

闇のなか。

iは、iを、終わらせる。

そしてすべて。

闇のなか。

もう二度と。

憂うことも。

嘆くことも。

悲しむことも。

苦しむことも。

ない。

すべては闇のなか。

闇のなかへ。

きみは今、向かっている。

ゆいいつの、光を。

握り締めながら。



















2019-05-17 00:17:32 | 
ステージのカーテンが開いた。中から鴉のマスクを、着けた女が現れた。
女は咄嗟に言った。
おまえ、昨夜、笑っとったらしいね。
今日ね、聞いたよ。おまえの職場の同僚からね。
このステージは、おまえのレベル、0だ。
今此処から、おまえが生まれ、存在としての、責任を負ってもらう。
おまえを責める任務のため、おれが生まれてきた。
地獄の果まで、おまえを責め苛めてあげよう。
死肉を喰うて、楽園が待っていると想うなよ。
オーシャンが、きみを待っていても、ポーションが、きみを苦しめ、モーションが、きみをいざなう。
死靈の街へ。そこで虹色に光るホワイトラブラドライトを、握っている。
令和の悲しみが、きみを下敷きにする。
そして白紙の上で、天使たちは、不味いパスタを、見詰めている。
霧のなかを歩いてゆく白い牛。
なぜぼくは、きみを愛し、明日を見喪ったの?
ぼくを、戻してほしい。
きみが轡(たずな)を、手放す日。
ぼくはその日の朝日を、夢見ている。
黄金に燃えゆる絆の日。
全存在が、死を喪う日。










The Drums 09 Blip of Joy (2019)

















きみの価値

2019-05-11 14:20:56 | 
大事なものを、ひとつひとつ、売ってゆく。
残せるものが、見つかるまで。
その価値を、手放してゆく。
彼らを喪う日まで。
本当に彼らを、残せる日まで。
知ることのない日曜日。
彼らを喪う日が遣って来る。
日は浅い。
日は遠くに,感じるまま。
何も、何もぼくは話したくない。
彼に。
ただ会いたい。
きみの醜い感情のすべてが顕になる瞬間を見届けて死にたい。
きみの弱さが、きみを救う。
きみを打ち砕くハンマーが、きみの価値を蔑ろにし、きみを上げる。
きみを上げる。
真っ白な凧の糸、放してしまうんだ。
わざと。
もう二度と会えないのに。
「ぼくは悲しいんじゃなくて、やめたいんだ。」
「やめたいんだよ。」
「やめたいんだ。」
「やめたいんだよ。」
「ずっと。」

でもぼくは、これを待っていた。
死んでもいいと、想っている。