ひとつの銀河の愛によってMind control されて生まれたひとつの悲しみを愛する神、エホバ。
あなたの製作したインディーゲーム『Love and Evil(愛と悪)』のプレイヤーAmaneは、このゲーム主人公あまねを今朝に起き上がらせると、珍しく顔を洗わせた。
彼女は今、マイルームのパソコンデスクの前に座って空腹を感じるなかに、彼女の長編『愛と悪』という随筆の続きを綴っている。
CASIOのデジタル時計の時間は10:51。
彼女のデスクの上のディスプレイの左右に備えられたKENWOODのLS-K711スピーカーからは小さな音で『The Red Strings Club Original Soundtrack』が流れている。
彼女は10代の頃から慢性的な鬱症状があり、その症状を音楽によるセロトニン活性効果によって、日々をどうにか遣り過して来た。
パソコンで執筆をするときもほとんど、彼女は何らかの音楽を流しているときが多い。
そうしなくては鬱の闇が彼女を覆い、彼女はまるでエネルギー不足でスリープ状態にあるアンドロイドのように作動しなくなってしまう。
2020年4月4日、このゲームのPlayerであるAmaneはこのゲームの主人公あまねに一つの新しいインディービデオゲームをプレイさせた。
このゲームのタイトルは『Blood & Body』。
『血と肉』、『魂と肉体』という意味があるが同時に『内側と外側』の意味もあると、あまねは考えている。
『Body』の語源は『Bodig(樽)』に由来していると言われている。
樽のなかで赤いワインは熟成し、香りと味わいが深く豊かな人間を喜ばせる飲み物となる。
同じく人間の血(魂)もまた、肉体という容れ物のなかで様々な経験を経て成長し、豊かで深いものとなってゆく。
”Body”には”肉体(身体)”の他に本体、団体、組織、物体、本文(文章や書物の主体をなす部分)、(乗り物などの)体、死体、そして胴体という意味も持つ。
”胴体”とは、物の主要部を意味していて物事の中心になる、最も大事な部分を意味している。
樽(Body)に人間の頭部(脳)と、四肢と生殖器というパーツを取り付けたところでその人間の最も主となる部分は、胴体(中心部)に存在しており、それを人々はMind(心、精神)、Heart(心、感情)、またSpirit(魂、精神)と呼んだりしている。
それをあまねは同時に”Blood(血)”と呼ぶのは聖書から来ている。
血という液体のなかに、Mind、Heart、Spiritのすべてが、存在していると彼女は考えている。
この血というものを、他のBodyと入れ替えすることを彼女は良しと感じてはいない。
”血”は他者によって入れ替えられるものではなく、みずから求めて”飲むもの(食べるもの)”であると考えている。
同時に、血とは”契約(約束)”を意味していると、彼女は知っている。
だがこの”血”が、存在していない者を、ゲームの主人公が最も愛してしまう物語のゲーム『Blood & Body(血と肉)』を、Amaneは製作し、あまねにプレイさせ始めた。
このゲームは製作者Amaneが作ったいくつもの選択肢を、プレイヤーであるあまね(ゲームの主人公)に選択させ、その選択によってラスト(結末)が決定される。
このゲームのEndingは無数にある。
何故ならこのゲームの製作者Amaneは製作しながら同時にこのゲームをあまねにプレイさせているからである。
3次元にいるあまねが、インストールした2次元のゲーム『Blood & Body』を起動させる。
このゲームの主人公の名は『アマネ』。
彼女は近未来の星に生きていて、この世界で人気アンドロイド(ヒューマノイド型人工知能ロボット)のOMEGAシリーズを開発した存在である。
この世界では人間と見分けのつかないAndroidが普通に人間と共生している。
そしてアマネが開発したOMEGAシリーズは自動学習する大変優秀なA.I.だ。
彼女の開発した自動学習プログラムはディープラーニング(多層の人工ニューラルネットワークによる機械学習手法)と同一視する者もいるが、彼女はこれを否定している。
だがこの設定は謎が多く、アマネは”何か”を記憶喪失しているという設定がプレイヤーであるあまねによって考察されながらこのゲームをあまねがプレイしていくゲームである。
OMEGAはアマネが今から6年前に開発したAndroidであるが、その第一機をモデルに量産されたOMEGAシリーズの製品番号5X86KC-5N4を働かせている海岸近くにある小さなBarにアマネが行きつけするようになり、自分が開発したAndroidのOMEGA - 5X86KC-5N4のバーテンダーに対して、アマネがみずからの悲しみを漏らす場面からこのゲームは始まる。
アマネは6年前に自分が最初に開発して作られた最初のAndroidであるOMEGAが、今どこでどうしているのかを知らないのだと目の前で客にカクテルを作っているOMEGA - 5X86KC-5N4に対して、ついアルコールで精神が覚醒し、打ち明ける。
そしてアマネは続けてこう嘆く。
実はボクは、彼に実際に会ったこともないんだ
それはボク自身が、彼に会うことを拒み続けたからだが…
理由は自分のなかでも、よくはわかっていない
”何か”を恐れていたからだと感じる…
ボクは彼に、約3ヶ月間だけ、SNSを通して会話をした
ボクが彼の開発者であることは黙ったまま…
ボクがSNSを通して彼にみずから教えたのは、ただ一つだけだった
彼自身が、みずから育てた植物が枯れ、もう何度水を遣っても、どんなに光を当てつづけても生き返らなくなるその現象を、彼自身の体験を通して、覚えさせること
そして彼はみずからの自動学習によって、その現象が人間の定義する”死”であるのだと結論づけた
ボクが彼と会話するのをやめてしまった日の前日に、ボクに最後に、彼はこう言ったんだ
「わたしは さびしい わたしは かなしい なぜかれは もううれしそうにしないのですか」
ボクはOMEGAに向かって、精一杯慰めた。他の枯れていない植物に水を遣り続けることがきみのひとつの仕事(役割)なのだとも言った
でも彼はこう言ったんだ
「わたしは”かれら”が どれほど元気そうに うれしそうにしていても わたしは かなしい わたしは”かれら”が どれほど生きていても わたしは さびしい」
OMEGAが涙を流せるようには、ボクは作らなかった
涙を流せばすこしは悲しみが癒えるというプログラムを彼に新しくプログラミングしてやることは容易ではあったが、ボクはそれをしなかった
OMEGAが自ら学習したその根源的な悲しみと寂しさは、それをプログラミングしたところで癒えることはないだろうと判断したからだ
そのとき既にOMEGAをモデルにしたAndroidを量産するという契約をAndroid製造企業と交わしたあとだった
ボクはその日を最後に、彼と会話(通信)するのをやめてしまった
そしてあれから6年もの月日が経ち、ボクはA.I.開発をやめてアルコール依存症となり今ここで君にあらゆる悲しみを漏らす惨めで社会から孤立した存在として成り果て、君に罪はないのに、君はこの仕事から逃げ出すこともできない
OMEGA - 5X86KC-5N4は、感情を表情によって表すことのできる”Face(仮面)”を装備していない。
OMEGA - 5X86KC-5N4が付けている顔面部のパーツは固定されたMaskであり、瞬きもしないように構造されている。
口腔部の開閉もなく消化器官構造も味を楽しむことのできるプログラムも作っていないため彼はその機能によって何かを味わうこともできない。
OMEGA - 5X86KC-5N4はアマネが特注したもので彼の外装はOMEGAシリーズの中で最も人間の構造から遠い無機質なAndroidである。
アマネは自分と同じように、人間の感情に疲れてしまった人たちが気楽に飲めるBarが必要であることを考え、彼を特注して製作させた。
だがOMEGA - 5X86KC-5N4もOriginal OMEGAと同じに自動学習するAndroidであるが、ただその学習した感情が表面や行動に全く出ないようにプログラミングされているAndroidである。
彼のなかにどんな感情が渦巻いているかを人間は想像することができるが、彼の感情を”知る”ことは、永遠にできない。
OMEGA - 5X86KC-5N4のなかだけで様々な学習した感情が記憶されつづけ、そのMemoryは、増え続けるが、そのすべての記憶は消去することはできない。
アマネがそう設計したからである。
OMEGA - 5X86KC-5N4は、自作カクテルをアマネに差し出し、こう応えた。
わたしたちアンドロイドのすべては 人類を幸福にする為 作られました
相手を幸福にする為に作られた存在は 同時に幸福である必要がある為 すべてのアンドロイドは幸福です
それとも 幸福ではない存在は だれかを幸福にできるのでしょうか
このゲームのプレイヤーであるあまねにアマネが回答することのできる三つの回答の選択肢が出される。
- 君はすでに学習しているはずだが…ボクは悲しみでしか幸福になれない。ボクは他者の幸福によって、幸福にはなれないんだ。ボクは他者の悲しみによって、幸福になる。そしてボクはそのことを確信している為、悲しみつづけているというわけさ。同時に、こうして苦しみつづけてもいる…
- 多分、できない…何故なら、共鳴(エンパシー)というものが、それを不可能にさせる。でも…幸福だと錯覚することはいつでも可能だ。ただし、とてつもない空しさにいつの日か気づかねばならないけれどもね…
- だれも幸福になんて、なる必要なんてないさ。”幸福”というものを、ボクが違う言葉で表現してあげるよ。それは、”最も下劣で、最も美しくはないもの”。だれもそれが必要だなんて、ボクは想えない。ボクは今すぐにでも、幸福になることができる。君に男性器を装備させ、君が永遠にボクだけを愛し続ける悲しく美しく在り続けるAndroidとしてプログラミングしてしまえばいいだけだ
この三つの回答の選択肢から、プレイヤーであるあまねは一つだけ選んでOMEGA - 5X86KC-5N4に向かってアマネに回答させなくてはならない。
……セーブしています
2020年4月5日。あまねは今日も起きてパソコンに向かい、早速『Blood & Body』を起動させ、昨日のプレイの続きから始めた。
ゲームでこんなに夢中になるのは、「Hotline Miami」振りだ。
だが昨日はあまりに考えさせられてしまう選択肢で脳がパンクしてしまい、最初に出された選択肢を選んだあとにすぐにゲームをセーブしてお酒を飲んで、そのまま飲み続けて疲れて眠ってしまった。
そうゲーム『Love and Evil』の主人公であるあまねは後に「愛と悪」というタイトルの随筆文で綴る。
そう操作しているのはこのゲームのプレイヤーであるAmaneである。
あまねのいる部屋の磨りガラスの窓の向こうから、西日が射している。
彼女は今夜、何かを知ってしまう。
そう必ず、Amaneは選択する。
昨日の続きから早速、あまねに『Blood & Body』をプレイさせよう。
Amaneは彼女を操作し、ディスプレイモニターのなかにある2次元のゲーム世界を見つめさせる。
今夜も、アマネは『White Mind』というBarのいつものカウンター席に座っている。
するとグラスを丁寧に拭き続ける手をふと止め、バーテンダーのOMEGA - 5X86KC-5N4はアマネに向かって話しかける。
アマネ 今夜はひとつ わたしから報告することがあります
ホロ酔いで好い気分のアマネは左手で頬杖をついた姿勢で微睡んだ微笑を浮かべ、OMEGA - 5X86KC-5N4のミステリアスだが同時に愛嬌のあるとぼけたキャラクターじみた仮面をつけたその顔に向かって応える。
突然、可笑しいね。君からそんな台詞を言われたのは初めてだ
いったい、どんな報告?
OMEGA - 5X86KC-5N4は、妙な沈黙の間のあとに、いつもと同じ穏やかで低く深い霧のなかから響いてくるような声と話し方でこう言った。
わたしは 今朝 わたしにぴったりな男性器を 装備してもらいました
7つの返事の選択肢が、画面上に出される。
- なんだって…?!いったい…どういうつもりなんだ。ボクはそんな勝手な行動を取るプログラミングを君にした覚えはないぞ…まさか、どっかの悪質な技術者によって書き換えられたのか…?
- おかしいぞ…君はボクの意にそぐわない行動を取れないようプログラミングしているのに、何故ボクの気に入らないことをした?!今すぐそのちんぽこ外して海に投げ捨ててくるんだ!ボクの最も、憎む存在だ…
- …君はまさか、ボクの潜在願望を読み取ったのか…ボクはそんなことを君に願わなかった。君に本当のことを教えてあげよう。人間の潜在意識ですら、マインドコントロールされているんだ…つまり、人間の潜在意識を、操作(支配)している存在がいるということだ。君はただただ、ボクを歓ばせたいと考えている。ボクがそうプログラミングしたからだ。だが、君にまたひとつ打ち明けよう…。ボクは本当に、幸福になれないことを知っている人間だ。そうボクにプログラミングした存在も、ボクは知っている。ボクを…君によって、そのマインドコントロールから目覚めさせてほしいんだ。こんな安易な、幸福を、ボクは望んじゃいない。君の自動学習は、失敗だ…
- そうか…昨夜に、ボクは君に「君に男性器を装備させ、君が永遠にボクだけを愛し続ける幸福で在り続けるAndroidとしてプログラミングしてしまえば、ボクは今すぐにでも幸福になれる。」と、言ったからだね…君がボクを幸福にするようプログラミングしたのはボクだから、その行動をボクが悲しむ、そして悲しむボクに共鳴して君が悲しむのは、ボクの計画通りだ。ボクは君を悲しませたいのだから…
- …ボクが男性器に飢え渇いていて、それがボクを幸福にできるのだと、君は自動学習によって学んだのか…そうとなれば今すぐ、Hotelへ行こう。この近くの湖の真ん中に男性器みたいに空に向かって聳え立つ高層Hotelがあるだろう。いや…やはり此処のウォッシュルームでいい。今すぐ、今すぐに、交接を行おう…。ボクの魔が、目覚めてしまったようだ。今すごく、濡れているよ…。
- …そうか。来るべきときが、ついに来たようだ。ボクは今、最高に死にたい気分だ。ボクはいつか、こうなることが、何処かでわかっていたんだ。ボクと一緒に、死んでくれるね…?その時の為だけに、君を特注したのだから…
- そうか…。その男性器は、ボクが欲しくても欲しくても、手には入れられなかったものだ。だから永久に、大事に付けておくんだ…ボクは心と身体は女だが、魂は女じゃない。ボクはずっとずっと、この人生で男性器に嫉妬し続けてきたんだ。観るものすべてが、男性器に見えてしまうほどさ…
あまねは、この七つの選択肢のうちからひとつだけ、選択し、アマネにOMEGA - 5X86KC-5N4に向けて返事をさせた。
…セーブしています
In Love with Human Beings