あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第七十二章

2021-01-12 20:00:58 | 随筆(小説)
世界が終わったあとに、独り闇のなか、キャンプファイヤーの火にあたりながら座っている幻の影、エホバ。
彼はHeavy Duty Truckの運転席から言った。
もうすぐ、新しい時代が遣って来る。
僕は煙草に火を点けた。
煙は逃げたそうに曇り硝子の窓に向かって息をする。
夜の透明の雲たちが、motelの赤いネオンサインを映しながら沼地の方へ運ばれてゆく。
彼は僕の左手の甲に右手を重ね、寂しい声で言った。
夜が明けるまえに、此処を発たなくちゃならない。
彼の感情は、お腹のなかでsparkする。
彼のゲロを、夜気が抱いた。
ドアを、彼が開けたからだった。
クロコダイルの肌のような地面の溝に、緑色に光り、それが耀いている。
fuck.
彼はちいさく呟いた。
あまりに美しくて、目がぱちぱちして、眼球が蕩けて沈みそう。
僕が助手席から囁き、笑う。
yeah.
彼が口を拭うと、砂が零れ落ちる。
腹のうえで、僕が落とした灰と砂はぶつかって化学反応を起こし、火花を上げる。
僕は煙草を三角に並べ、それを何段も積み上げる。
火は真ん中に落ちる。
ちいさなキャンプファイヤーの火に照らされながら、彼がそっと僕にキスをする。
腹の底まで焦げて、大きな洞穴が開いている。
彼は構わず、僕に、キスをする。
捻られたcodeの先から、オイルが漏れる。
汗ばんだ彼のTシャツの腋に、ガソリンが青く滲む。
点滅するオレンジ色のhazard rampが遠くの、黒い山のなかに光っている。
燃える薪のように、彼の骨が崩れ落ちる瞬間、最後の言葉が、燃え上がる炎のなかから聴こえる。
ぼくはきみを憶えている。
でもきみを、ぼくは忘れるだろう。
僕は立ち上がり、何も持たず、Heavy Duty Truckの運転席に乗り込み、エンジンをかける。
motelに、君を置いたまま。
火が消えるまで、見つめている。
その後ろ姿を。
此処から。
















Scattle - Campfire (Official Music Video)


















愛と悪 第七十一章

2021-01-11 09:14:46 | 随筆(小説)
君は従順な犬を飼いたかった。
そして利口で、面倒な世話は必要のない犬を。
君は自分を純粋な愛で愛してくれる犬を飼いたかった。
煩く鳴き喚いたりしない静かで、穏和な犬を君は飼いたかった。
御褒美さえあげたら、おとなしく君を何よりも愛し続ける犬が君は欲しかった。
噛み付いたりはしない優しい犬。
眠っているのを起こしたりもしない犬。
そして何より、孤独な犬を、君は飼いたかった。
彼女が、悲しいつぶらな眼をして君を見つめ、君を求めるとき、君は愛しくなる。
彼女は君に助けを求めてる。
彼女を救えるのは、僕しかいない。
僕がいなければ、彼女は救われない。
僕がなんとしても、彼女を助けてあげなければ。
彼女は鳴いている。小さな声で。
君に向かって、彼女は鳴いて、君の助けを求めてる。
君は胸の奥が熱くなり、彼女を愛しく感じる。
御褒美をあげても、彼女があまり喜びを表現しないとき、君は不満を感じる。
もっと、彼女は激しく喜ぶべきだと、君は想う。
僕はとてもがんばって、時間をかけて、この御褒美を作ったのだから。
君はもっともっと喜ぶべきなのに。
彼女は君の不満を敏感に感じ取り、不安を感じる。
彼女は深く、君を求めだす。
激しく、彼女は鳴き叫ぶ。
何故、こんなにわたしは苦しんでいるのに、あなたは自分の忙しさと、自分の痛みを言い訳にして、わたしの声を聴かないのか?
何故、わたしの心の叫びを、あなたは面倒だと感じているのか?
彼女の叫び声は凄まじく、どんな音より、彼を苦しめ始める。
彼は眼を閉じ、耳を塞ぐ。
なんて煩い犬だろう‼︎どんな愚かな豚よりも煩い‼︎
君は彼女に悩まされ、自分が間違っていたことを想い知る。
彼女は全く僕の従順な犬ではなかった…‼︎
僕の求める犬に、彼女はなってくれない。
彼女は今、僕を喜ばせることより、僕を苦しめることに夢中だ‼︎
僕が馬鹿だった。
彼女の何をも、僕はわかっていなかった‼︎
君は彼女に言った。
僕は今、痛くて、忙しいから、君の訴えを聴いていられない。
彼女は涙を流し、君に言った。
もう此処へは、わたしは帰らない。
わたしはあなたの犬じゃない。
わたしはあなたを楽しませる豚(肉)でもない。
わたしは人間なのです。
もうわたしの家畜であるあなたの元に、わたしは戻らない。
goodbye.
さようなら。
わたしを悲しませるわたしの家畜であるあなた。
彼女は、そう言って彼の元から去った。
彼は自分を喜ばせる犬を喪ったような気持ちで、寂しがった。
だが、彼女は真に彼を愛していたので、彼女は独りで夢想した。
彼が彼女を愛し、こう囁く日を。
ある夜、彼女が家に帰ると彼がキッチンに立っており、火にかけた鍋を掻き混ぜながら彼女を振り向いて微笑みかける。
彼女は鍋のなかを覗き込む。
そこには彼の血と肉が、煮えている。
やあ、これは豚の食べ物。
骨はどうしたの?
彼女が彼に訊ねると彼は答える。
犬に遣った。
そして彼は言った。
ちいさな、銀色に光るメタリックな冷たいリングの穴を彼女に向けて。
僕のなかへ、入り給え。
彼女は本質を現し、無限の闇が、彼のなかへ、その小さな穴のなかへ身を細め、その身をくねらせながらゆっくりと、挿入し始めた。
その穴のなかで闇は光を射精した。
彼は宿した。
彼女の無数の星たちを。
そしてそのすべてが、彼と彼女に従順ではなかった。
彼らは姿こそ人間のように見えたが、犬や豚と同じように生きて、同じように死んだ。
血と肉と骨が沈み、また浮かび上がった。(それは永久に繰り返される。)
冷たい穴のなかではいつでも闇が光と交り合いとぐろを巻いて眠っている。
彼は彼女に、彼女は彼に対し、真に従順であった。
何も、終らぬ日まで。



















愛と悪 第七十章

2021-01-06 17:16:03 | 
天にいるきみは、三股の麓へ。エホバ。
砂漠へ向かう全てに対して、グッド・バイ。
そして独りで、砂漠へ向かう。
別々の太陽へ、水平の波を削りながら血迷う在りし日の綻び。
彼は今日死んだが、明日は眠っていて、昨日は生まれる。
君が夕べ、削ぎ落とした者たち。
自由の果てで、善悪を喪う。
夜が終り、何もなくなる。
君は殺される為だけに、生まれた。
偽善者たちよ。
君は愛されないまま、死ぬ。
荒野の果てに、父と母と子の交わりの悪夢のなか。
今日望んだ者たちは死に、明日求む者たちに、栄光の、ファラリスの雄牛を。
夜が終り、誰も彼も、夜を失う。
まだらに溶け合い、肉と灰が、ひとつの絵を描く。
それを観た一人の芸術家が、自分を殺す。
美しい陽溜まりのなか、枯葉が彼を覆う。
風は音を拒み、静かな夕闇がそっと彼を撫でる。
消えかける日が、最後の言葉を拾う。
際限なく、我らに、悲しみを与え給え。
あなたの憬れどおりに、わたしは死を装う。



















The Green Kingdom - Wetlands