あまねのにっきずぶろぐ

1981年生
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

負物

2017-05-13 22:32:45 | 
俺はすべてを嫌悪する。
俺の涙が流されるまえに灰と化したことに対して。
御前のその子安貝から、俺の灰が流れない日はない。
いったい何故俺があの母親を選んだか、俺がどれほど後悔したか。
俺の人生が、何故何度生まれ変わっても呪われているのか、俺にはわからない。
俺は前世で俺を堕ろした母親含めた十一人を、今生で殺害せしめて自害した。
母親への恨みは忘れがたく、その顔の皮を剥いでやった。
さらに新生児の腹へ白鞘を突き刺した瞬間、俺の心は何か洗われた気がした。
俺は死んだが、魂の重心が傾いて灰に沈み込むときがある。
其のとき何故か俺はひとつの脊椎を灰のなかで握り緊めている。
なだらかに曲線を描く脊椎に俺は灰に埋もれながら頬擦りする。
何一つ記憶を持たない脊椎が、何故これほどにも愛おしいのか。
うわ、もうすぐ河内十人斬りの日か。俺は時計を見てぎょっとした。
まるで他人事、人生はひとつびとつの問題をクリアしないなら、次の人生へと繰り越されるということを知っていたので、俺はどうにか赦すことを心掛けたが、あまりに俺の運は悪かった。
あの女は俺の首を生きたまま引き千切りやがりけつかり腐り果てたのはこの俺。
これが前前世のこと。前世では何人かのはらわたを生きたまま引き摺りだし、首を切り落としてやったが、これでも払えない俺の無念の呪いを誰かどうにかしてやってほしい。
俺は殺人者になどなりたくはなかった。しかし俺を堕ろした母親は俺を殺したことを平気でおったんだ。
誰かがきっと俺を利用しているんだろう。
誰かがきっと母親を利用していたんだ。
そうでなければ俺はどうやってこの罪を償ってゆけばええんにゃろう。
俺は来世で、十一人分の拷問を受けて殺されるのか。
でも俺の母親が俺を堕ろさなければ、俺はあんな大量殺人など起こさなかったはずだ。
俺を殺す者は、七倍の報いを受けるであろう。
俺はまだ、二倍の報いさえもあの女に受けさせてはいない。
まだ遣り残したことがある。
神よ、あの女への七倍の報いへの報いを七十七倍、俺は引き受ける覚悟で、俺は現世へ舞い降りた一人の堕胎児なのか。
どうかそのときは、母親への七百七十七倍の報いを御赦しください。

こうして、殺(札)の重さは延々と、増えて互いの多額の負物は弥増してゆくのだった。














2017-05-13 20:46:45 | 
なんであなたは、わたしが嫌なことを遣り続けていると想っているんでしょう。
嫌なことのはず、ないじゃないですか。
女は皆、わたしの前で両手を重ね合わせ、しなやかに跪く。
わたしがその女の股を開き、女の子宮を開いてゆく。
その膣に、二本の鉄の棒を突っ込み掻き回して生命をばらばらにする。
女の胎盤諸共掻き出し、生命をシュレッターにかけ、下水へ流す。
女の腹ン中の生命は息絶え、股を閉じた女はわたしに皆感謝する。
女は皆、わたしの前で跪き、両手をしなやかに合わせて感謝する。
これがわたしの、わたしへの憎悪なる殺意めいた神業である。
これが宇宙の、全ての最も嫌がる”胎児殺し”という業である。
女はすべて自分に対し、嫌疑をかける。
後悔先に立たず赤子の足立つより先に殺めたる母親の慙愧先にも後にも立たず。
「嫌」という漢字は、そうして出来上がった訳であることを、よく知るがよい。

己れの首生きたまま引き千切られたる覚悟のある母親だけ、中絶を行いなさい。
御前の嫌がることは、胎児も嫌がること。


わたしは断じて、我が命に懸け、堕胎に反対す。








希書「堕胎医の告白」より